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女王アルドリーゼ

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 テントの入口が勢いよく開かれると、そこには逆光に照らされた影が浮かび上がっていた。
 テント内の兵士達はみな跪いて頭を垂れている。

「なになに~。新しい種馬をゲットしたって~?」

 覇気のない、舌足らずな女の声だった。

「でかしたぞ皆の衆~」

 声の主がテントに入ってくると、その容姿がはっきりと見えてくる。
 どぎつい紫色のおかっぱ頭。褐色の肌。シースルーのマントの下は、黒のチューブトップとスパッツ。四肢に彫りこまれたタトゥーが、民族的な雰囲気を醸し出していた。

 身も蓋もない言い方をすれば、エキゾチックなダイナマイトボディ美女ってやつ。
 こいつが、マッサ・ニャラブの女王なのか。

「これか~」

 アルドリーゼは、俺の前にどかりと腰を下ろし、股を開いてあぐらをかく。
 くそっ。なんていらやしい――いや、品のない振る舞いなんだ。
 しかし、これ呼ばわりは好かないな。というわけで、俺はあえてふてぶてしい態度で臨むことにした。

「おいあんた」

「ん~?」

「ジェルド族の習わしで性奴隷にされると聞いたんだけど、一体どういうことか説明してもらおうか」

「あ~ん?」

 直後、近くの女兵士が大声を上げた。

「お前! アルドリーゼ様に向かってなんという口の聞き方だ! 犯すぞ!」

「ま~ま~落ち着いて」

「しかし……」

「この種馬くんも戸惑っているんだろうさ~。いきなりだもんね~」

 鼻筋の通ったアルドリーゼの気だるげな笑みを向けられる。

「余たちジェルド族はね~、ほとんど女しか生まれないのさ~。だから他の民族の男をかっぱらってきて、子孫を増やすんだよ~」

「だから種馬ってか」

「そゆこと~」

「この村にも男はいただろ。カード村にもだ。そいつらはどうした」

「ん~? 普通にここで暮らしてるよ~。仲良くさせてもらってる~。余たちはキミ達王国と違って宥和主義だからね~」

「軍隊を引っ張ってきてその言い草はねぇだろ」

「交渉にはある程度力を誇示することも必要なのさ~」

 言わんとすることは分かるが、信用には値しないな。だって今まさに俺がクソみたいな理由で捕まっているんだから。

「村の男達は種馬にしなかったのかよ」

「あはは。別に誰でも彼でも種馬にするってわけはないのさ~。優秀な子孫を産むためには優秀な種が要るんだし~」

「村の男たちはお眼鏡に叶わなかったってか?」

「大したスキルもっていなかったしね~」

 なるほどな。
 今ので、ジェルド族にもスキル至上主義の文化があることがわかった。長らく王国の支配下にあったらしいから、当然のことかもしれないが。

「そういうことなら、俺は種馬になってやれそうにないな。なにせ誰もが蔑むクソスキルの持ち主だ」

「え~?」

 アルドリーゼは幼児のように唇を尖らせる。

「今度こそはって思ったのに~」

「残念だったな」

 スキル至上主義の観点から見れば、今の俺はクソスキルを数個持っているだけの無能に過ぎない。
 今のところ残っているスキルは『タイムルーザー』『限られた深き地獄の耳朶』『膝小僧の守護神』『ちょっとした光』『ちょいデカボイス』他二つだ。
 正直使い道のないものばかり。
 こうして考えるとだいぶ減ったものだ。『妙なる祈り』を持つ俺からすれば、あらゆるスキルは無用の長物なんだけどな。
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