上 下
297 / 984

終焉の序曲

しおりを挟む
「見事じゃ。ロートス」

 アカネが拍手をしながらこちらに歩いてくる。
 その姿はいつの間にかのじゃロリモードに戻っていた。

「まだ、さっきの質問に答えてもらってないぞ」

「どこまで知っているか、とな」

 溜息を吐くアカネ。

「悪いがそれは教えてやれん」

「なんでだよ」

「それが運命じゃからじゃ。おぬしならとうに分かっておると思ったがのう」

 わからん。
 いや、なんとなくならわかる。

 俺は、知るタイミングを定められているんだ。いわゆるこの世界の真実って奴を。
 だからアカネは、教えたくても教えることができない。

「ロートス、おぬしの呪縛はエストそのもののはたらきというよりは、ピストーレの坊やの『ホイール・オブ・フォーチュン』によるところが大きい。あやつをどうにかせんことには、まことの意味での自由はありえんのじゃ」

「難儀だな……つくづく」

 異世界に来てからというもの、物事が簡単に運んだことがない。
 それが運命を操作されたからだというのはわかる。
 けどまぁ、転生前の現代日本でも同じようなものだったかもな。

「ほれ。落とし物じゃ」

 アカネが何かを投げ渡してくる。
 危なげに受け取ったそれは、念話灯だった。

 機関の構成員たちと戦った時に落としていたのか。
 ちなみに、その構成員たちは石像が生み出した衝撃によって塔から吹き飛ばされていた。
 あの指揮官、エストの依り代になって、敵味方関係なく攻撃を加えていたんだな。理性というものはすでになかったに違いない。

 ふと、念話灯が着信する。

「もしもし」

『あ、ロートスくんっ。無事なの?』

 ルーチェか。

「ああ。なんとかな。そっちはどうだ?」

『うん。こっちもなんとかなったよ。あのミーナって人は、みんなで取り押さえて拘束した後、アイテムボックスに収納したの』

「ああ、なるほど。そりゃいい。一番の対処法だな」

 あの無尽蔵の体力を持つミーナも、アイテムボックスに閉じ込められちゃあおしまいだろ。

『ロートスくん。これからどうするの? まさかとは思うけど、サラちゃんを助けに?』

「ああ。そのつもりだ」

『何言ってるの! 一人で行くつもり?』

 エレノアの声だ。

「よかった。無事に降りられたんだな」

『全然よくないわよ! 一人で勝手なことして!』

「あー……ごめんって。悪かった」

『もうっ……二度とあんな真似、しないでよね……』

「ああ」

『ほんとにわかってる?』

「わかってるって」

 ちょっと怖い思いをさせてしまったかもしれないな。
 反省だ。

『ロートスさん。とにかく、一度こちらに合流してください』

 今度は先生の落ち着いた声が聞こえる。

「先生? でも、サラが」

『コッホ城塞にはまともな方法じゃ入れないっすよ。どんな時でも正規のルートを通らないといけないっす』

 ふむ。
 先生とウィッキーが言うのなら、そうなのだろう。
 これは一度戻って、これからのことを考えないといけないみたいだ。

「わかったよ。そっちに行く」

『では、私の研究室へ。あそこなら広いですし、落ち着いて話もできるでしょう』

「わかりました。すぐに向かいます」

 そうして、念話灯の通話が終わる。

「アカネも来てくれるか?」

 俺のお誘いに、首を横に振るアカネ。

「わらわは遠慮しておこう。うちの頼りない若様のことも心配じゃしの」

「そうか。ヒーモはどうしてる。無事なのか?」

「途中までは意気揚々と親コルト派と戦っておったが、スキルが使えなくなってからは即刻学園へ逃げ込んでしまったわ。今ごろ寮の自室で縮こまっておるじゃろう」

「はは。あいつらしいな」

 なんにせよ無事でよかった。
 まことに遺憾ながら、一応あいつは俺の親友ということになっている。死なれちゃ後味が悪い。

「じゃあ俺は行くよ。サンキュな、アカネ」

「ロートス」

 塔から飛び降りようとした俺を、アカネが呼び止める。

「おぬしは、自分が何をしようとしておるか分かっておるのか?」

「え?」

 今更そんなことを聞かれるとは思わなかったな。

「神を滅ぼす。それだけだろ」

「代償は大きいぞ。おぬしが思っておるよりはるかに」

「脅かすなよ……」

 エストを滅ぼせばスキルが消滅し、世界に大混乱が訪れるだろう。
 そんなことは承知の上だ。けど、スキル至上主義のせいで種族間で差別が生まれたり、運命が補強されて人生の自由を縛られたりするよりマシだろう。
 あくまで俺の価値観においてはな。

「くれぐれも、自身の選択を後悔するでないぞ」

 やけに深刻そうに言うじゃないか。
 スキルがなくなるのは大変だが、きっと人はそれを乗り越えられるはずだ。
 無責任かもしれないが、俺はそう信じる。

「忠告、感謝するよ」

 俺は手をひらひらと振り、塔から飛び降りる。

 正直、この時の俺はそこまで深く考えていなかった。
 世界や、大切な人達がどうなるかばかり考えていて。

 自分がどうなるかなんて、これっぽっちも考えていなかったんだ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える

ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─ これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...