232 / 934
今のところ職はありません
しおりを挟む
「後ろの二人は誰だ。そのような者達の存在は、耳にしておらん」
ううむ。よかった。
侯爵のおっさん。どうやら俺の顔は憶えていないらしい。そりゃそうか、暗闇の中、それも戦場で一瞬見た顔なんか憶えてないよな。
エレノアが俺達に手を向ける。
「この者達は、私の友人です。さきほど門の前で再会しました。この会合に参加しようとして門番に止められていたのを、私が声をかけて連れて参りました。二人とも、優秀な人材です」
「ほう……?」
ムッソー将軍が興味深そうに俺とアイリスを交互に見た。
いやぁ、アイリスが優秀なのは否定のしようがないけど、俺はポンコツだぞ。
「大将軍、父上。自分も、その者達を存じております」
ガウマン侯爵の隣で立ち上がったのは、驚いたことにイキールであった。
いたのかよ。全然気付かなかった。
「自分やそこのエレノアと同じく、彼もまた魔法学園の生徒。我々の同級生です」
一瞬エレノアが驚いたような顔で俺を見るが、口は開かない。
俺がどうしたものか所在なさげにいると、マホさんが俺の尻を小突き、耳打ちをしてきた。
「おい、挨拶しろ」
そうだ。こういう場所ではこちらから名乗るのが礼儀だった。
俺は一歩前に踏み出し、ムッソー大将軍に一礼する。
「はじめまして。俺はアインアッカ村のロートス。後ろにいるのが従者のアイリスです」
視界の端でエレノアがさらに驚いていた。
「ふむ。アインアッカ村の出身か。それは、気の毒なことであったな」
まったくの無表情で老練の眼光を向けてくるムッソー大将軍に、俺は多少なりともたじろいだ。だが、なんとか表情には出さずに済んだ。
威圧感だけでいえば、マシなんとか五世の方がよほど大きいのだが、この老人からは得も言われぬ物々しさを感じる。これが大将軍の風格なのだろうか。
「ロートスとやら。そなたのスキルは何だ」
やっぱり聞かれるよな。名前の次に尋ねてくるのは、スキル至上主義の王国らしい文化だ。
「これと言って挙げるものはありませんが、数えきれないくらいには持っています」
「なんと。複数持ちか。それは珍しい。ならば職業は」
「俺は『無職』です」
場が急にざわめき始めた。
どうやら『無職』という単語にえらく反応したらしい。
まるで示し合わせたかのように、将軍や冒険者たちから激しい嘲笑がもたらされた。
「これは傑作だ。何かと思えば『無職』だと? 最弱劣等職ではないか!」
「勘違いにもほどがあるわ! いかに複数持ちであろうと、『無職』ではスキルの程度も知れるというもの」
「そんなスキルなら持たない方がマシですな! 劣等種の亜人と同じ、いやいや、あるいはあの野蛮の種族どもの方が幾分か優秀かもしれませんぞ!」
講堂に笑い声が飛び交う。
エレノアが拳を握り、震わせていた。
ああ、俺のために怒ってくれているのか。
「やめとけ」
今にも魔法をぶちかましそうなエレノアの手をマホさんが握り、きつく制止していた。
ううむ。よかった。
侯爵のおっさん。どうやら俺の顔は憶えていないらしい。そりゃそうか、暗闇の中、それも戦場で一瞬見た顔なんか憶えてないよな。
エレノアが俺達に手を向ける。
「この者達は、私の友人です。さきほど門の前で再会しました。この会合に参加しようとして門番に止められていたのを、私が声をかけて連れて参りました。二人とも、優秀な人材です」
「ほう……?」
ムッソー将軍が興味深そうに俺とアイリスを交互に見た。
いやぁ、アイリスが優秀なのは否定のしようがないけど、俺はポンコツだぞ。
「大将軍、父上。自分も、その者達を存じております」
ガウマン侯爵の隣で立ち上がったのは、驚いたことにイキールであった。
いたのかよ。全然気付かなかった。
「自分やそこのエレノアと同じく、彼もまた魔法学園の生徒。我々の同級生です」
一瞬エレノアが驚いたような顔で俺を見るが、口は開かない。
俺がどうしたものか所在なさげにいると、マホさんが俺の尻を小突き、耳打ちをしてきた。
「おい、挨拶しろ」
そうだ。こういう場所ではこちらから名乗るのが礼儀だった。
俺は一歩前に踏み出し、ムッソー大将軍に一礼する。
「はじめまして。俺はアインアッカ村のロートス。後ろにいるのが従者のアイリスです」
視界の端でエレノアがさらに驚いていた。
「ふむ。アインアッカ村の出身か。それは、気の毒なことであったな」
まったくの無表情で老練の眼光を向けてくるムッソー大将軍に、俺は多少なりともたじろいだ。だが、なんとか表情には出さずに済んだ。
威圧感だけでいえば、マシなんとか五世の方がよほど大きいのだが、この老人からは得も言われぬ物々しさを感じる。これが大将軍の風格なのだろうか。
「ロートスとやら。そなたのスキルは何だ」
やっぱり聞かれるよな。名前の次に尋ねてくるのは、スキル至上主義の王国らしい文化だ。
「これと言って挙げるものはありませんが、数えきれないくらいには持っています」
「なんと。複数持ちか。それは珍しい。ならば職業は」
「俺は『無職』です」
場が急にざわめき始めた。
どうやら『無職』という単語にえらく反応したらしい。
まるで示し合わせたかのように、将軍や冒険者たちから激しい嘲笑がもたらされた。
「これは傑作だ。何かと思えば『無職』だと? 最弱劣等職ではないか!」
「勘違いにもほどがあるわ! いかに複数持ちであろうと、『無職』ではスキルの程度も知れるというもの」
「そんなスキルなら持たない方がマシですな! 劣等種の亜人と同じ、いやいや、あるいはあの野蛮の種族どもの方が幾分か優秀かもしれませんぞ!」
講堂に笑い声が飛び交う。
エレノアが拳を握り、震わせていた。
ああ、俺のために怒ってくれているのか。
「やめとけ」
今にも魔法をぶちかましそうなエレノアの手をマホさんが握り、きつく制止していた。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
1,141
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる