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「後ろの二人は誰だ。そのような者達の存在は、耳にしておらん」

 ううむ。よかった。
 侯爵のおっさん。どうやら俺の顔は憶えていないらしい。そりゃそうか、暗闇の中、それも戦場で一瞬見た顔なんか憶えてないよな。

 エレノアが俺達に手を向ける。

「この者達は、私の友人です。さきほど門の前で再会しました。この会合に参加しようとして門番に止められていたのを、私が声をかけて連れて参りました。二人とも、優秀な人材です」

「ほう……?」

 ムッソー将軍が興味深そうに俺とアイリスを交互に見た。
 いやぁ、アイリスが優秀なのは否定のしようがないけど、俺はポンコツだぞ。

「大将軍、父上。自分も、その者達を存じております」

 ガウマン侯爵の隣で立ち上がったのは、驚いたことにイキールであった。
 いたのかよ。全然気付かなかった。

「自分やそこのエレノアと同じく、彼もまた魔法学園の生徒。我々の同級生です」

 一瞬エレノアが驚いたような顔で俺を見るが、口は開かない。
 俺がどうしたものか所在なさげにいると、マホさんが俺の尻を小突き、耳打ちをしてきた。

「おい、挨拶しろ」

 そうだ。こういう場所ではこちらから名乗るのが礼儀だった。
 俺は一歩前に踏み出し、ムッソー大将軍に一礼する。

「はじめまして。俺はアインアッカ村のロートス。後ろにいるのが従者のアイリスです」

 視界の端でエレノアがさらに驚いていた。

「ふむ。アインアッカ村の出身か。それは、気の毒なことであったな」

 まったくの無表情で老練の眼光を向けてくるムッソー大将軍に、俺は多少なりともたじろいだ。だが、なんとか表情には出さずに済んだ。
 威圧感だけでいえば、マシなんとか五世の方がよほど大きいのだが、この老人からは得も言われぬ物々しさを感じる。これが大将軍の風格なのだろうか。

「ロートスとやら。そなたのスキルは何だ」

 やっぱり聞かれるよな。名前の次に尋ねてくるのは、スキル至上主義の王国らしい文化だ。

「これと言って挙げるものはありませんが、数えきれないくらいには持っています」

「なんと。複数持ちか。それは珍しい。ならば職業は」

「俺は『無職』です」

 場が急にざわめき始めた。
 どうやら『無職』という単語にえらく反応したらしい。
 まるで示し合わせたかのように、将軍や冒険者たちから激しい嘲笑がもたらされた。

「これは傑作だ。何かと思えば『無職』だと? 最弱劣等職ではないか!」

「勘違いにもほどがあるわ! いかに複数持ちであろうと、『無職』ではスキルの程度も知れるというもの」

「そんなスキルなら持たない方がマシですな! 劣等種の亜人と同じ、いやいや、あるいはあの野蛮の種族どもの方が幾分か優秀かもしれませんぞ!」

 講堂に笑い声が飛び交う。

 エレノアが拳を握り、震わせていた。
 ああ、俺のために怒ってくれているのか。

「やめとけ」

 今にも魔法をぶちかましそうなエレノアの手をマホさんが握り、きつく制止していた。
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