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夜に駆けるぜ
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「どういうことだ?」
「初めてこの姿でサラちゃんと会った時、あの子は魔力の表情を見ることでわたくしをわたくしだと判断していました。そんな芸当ができるのは、生まれつき魔力を見抜く素養がある者だけ。サラちゃんは、マルデヒット族の中でも特別な存在なのではありませんか?」
アイリスの視線はウィッキーへと向けられている。
「よくわかったっすね。あの子はマルデヒット族を束ねるドルイドの娘。つまり、族長の娘なんす」
「族長だと? サラがか」
ウィッキーは首肯する。
「私も聞いたことがあります。獣人マルデヒット族はスキルを持たない反面、魔力の扱いに秀でています。そして、その中で群を抜いて能力の高い、ドルイドと呼ばれる血族がいると」
「でも、それだったらウィッキーも同じなんじゃ」
「ウチとサラは異母姉妹なんす。ドルイドは女系っす。だから、族長を継ぐのはサラってことになるんすよ」
なんだかややこしいな。
「じゃああれか。サラは、亜人の連中に担ぎ上げられたってことか? マルデヒット族ってのは、亜人の中でもそんなに影響力のある種族なのかよ」
「少なくとも獣人の中じゃ筆頭ともいえる種族っす。亜人同盟が獣人中心で構成されていたなら、あり得ない話じゃないっすね」
「なんてこった……」
俺は頭を抱える。
そんなことがあってもいいのか。さらったサラを旗印にして、戦争を起こそうなんて、マジで許されることじゃない。主に俺が許さねぇ。
「なんとか、戦争を止めることはできないんですか。先生」
「ロートスさん……」
ベッドに腰かけるアデライト先生は、膝の上で手を組み、目を伏せる。
「ごめんなさい。私にはそこまでの力はありません。学園の参戦は国王陛下からの勅命で、学園長も乗り気なのです。この戦争で、魔法学園の名をさらに上げられると言っています」
くそが。
戦争で名を上げるだと?
そんなもので上がるのは悪名だけだ。
まっとうな名を上げたけりゃ、平和の為にその力を使えってんだ。
「シーラ」
「はっ」
それまで黙って壁際に立っていたシーラが、迅速に反応する。
「守護隊の人数はどれくらいだ」
「あたしを含め十五名です」
「よし。今から亜人同盟の本拠地に乗り込むぞ」
「御意」
シーラは驚くこともない。
「ちょっと待ってください。ロートスさん、一体なにを考えているのです」
当然ながら、先生は俺を止めるだろうと思っていた。
「戦争なんか起こさせるわけにはいかない。俺は戦争を体験したことはないけど、その悲惨さは知ってるつもりです」
現代日本人的な感覚がある俺は、戦争がいかに残酷であるかを遺伝子レベルで刷り込まれている。あんなものは悲劇しか生まない。戦争を喜ぶやつがいるとしたら、それは独善的な権力者か、あるいは狂人だけだ。
戦争で辛い思いをするのは、いつだって俺達みたいなただの民衆なんだ。
「ロートス。ウチも行くっすよ。一緒にサラを救い出すっす」
「ああ。お前がいてくれたら心強いな」
俺とウィッキーは互いに頷き合う。
「はぁ……参りましたね」
先生は眉を下げ、眼鏡を押さえていた。
「こうなったら、私も力を尽くすしかないじゃないですか」
「先生」
「私もロートスさんと一緒に行きたいのは山々です。しかし、より上手く事が運ぶよう、私は私にしかできないことをやりましょう」
「というと?」
「魔法学園の教師には、軍から情報が流れてきます。それを逐一みなさんに届けます。念話灯を用意しますから、それぞれひとつずつ持っていってください」
「わかりました。助かります」
目的は決まった。
亜人同盟との戦争を止めるんだ。
その為にはまず、サラと接触しなければならない。
「すぐに出発だ。夜の闇に紛れて行くぞ」
「ロートスさん。くれぐれもお気をつけて。すでに亜人同盟の斥候がそこら中にいるはずですから」
「心配いりません。知ってますか? 俺は目立たないことにかけては天才なんですよ」
部屋の視線が、一斉に俺に集まった。
え、なんだよその目は。
目立たないように頑張ってるだろ。俺。
とほほ。
「初めてこの姿でサラちゃんと会った時、あの子は魔力の表情を見ることでわたくしをわたくしだと判断していました。そんな芸当ができるのは、生まれつき魔力を見抜く素養がある者だけ。サラちゃんは、マルデヒット族の中でも特別な存在なのではありませんか?」
アイリスの視線はウィッキーへと向けられている。
「よくわかったっすね。あの子はマルデヒット族を束ねるドルイドの娘。つまり、族長の娘なんす」
「族長だと? サラがか」
ウィッキーは首肯する。
「私も聞いたことがあります。獣人マルデヒット族はスキルを持たない反面、魔力の扱いに秀でています。そして、その中で群を抜いて能力の高い、ドルイドと呼ばれる血族がいると」
「でも、それだったらウィッキーも同じなんじゃ」
「ウチとサラは異母姉妹なんす。ドルイドは女系っす。だから、族長を継ぐのはサラってことになるんすよ」
なんだかややこしいな。
「じゃああれか。サラは、亜人の連中に担ぎ上げられたってことか? マルデヒット族ってのは、亜人の中でもそんなに影響力のある種族なのかよ」
「少なくとも獣人の中じゃ筆頭ともいえる種族っす。亜人同盟が獣人中心で構成されていたなら、あり得ない話じゃないっすね」
「なんてこった……」
俺は頭を抱える。
そんなことがあってもいいのか。さらったサラを旗印にして、戦争を起こそうなんて、マジで許されることじゃない。主に俺が許さねぇ。
「なんとか、戦争を止めることはできないんですか。先生」
「ロートスさん……」
ベッドに腰かけるアデライト先生は、膝の上で手を組み、目を伏せる。
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くそが。
戦争で名を上げるだと?
そんなもので上がるのは悪名だけだ。
まっとうな名を上げたけりゃ、平和の為にその力を使えってんだ。
「シーラ」
「はっ」
それまで黙って壁際に立っていたシーラが、迅速に反応する。
「守護隊の人数はどれくらいだ」
「あたしを含め十五名です」
「よし。今から亜人同盟の本拠地に乗り込むぞ」
「御意」
シーラは驚くこともない。
「ちょっと待ってください。ロートスさん、一体なにを考えているのです」
当然ながら、先生は俺を止めるだろうと思っていた。
「戦争なんか起こさせるわけにはいかない。俺は戦争を体験したことはないけど、その悲惨さは知ってるつもりです」
現代日本人的な感覚がある俺は、戦争がいかに残酷であるかを遺伝子レベルで刷り込まれている。あんなものは悲劇しか生まない。戦争を喜ぶやつがいるとしたら、それは独善的な権力者か、あるいは狂人だけだ。
戦争で辛い思いをするのは、いつだって俺達みたいなただの民衆なんだ。
「ロートス。ウチも行くっすよ。一緒にサラを救い出すっす」
「ああ。お前がいてくれたら心強いな」
俺とウィッキーは互いに頷き合う。
「はぁ……参りましたね」
先生は眉を下げ、眼鏡を押さえていた。
「こうなったら、私も力を尽くすしかないじゃないですか」
「先生」
「私もロートスさんと一緒に行きたいのは山々です。しかし、より上手く事が運ぶよう、私は私にしかできないことをやりましょう」
「というと?」
「魔法学園の教師には、軍から情報が流れてきます。それを逐一みなさんに届けます。念話灯を用意しますから、それぞれひとつずつ持っていってください」
「わかりました。助かります」
目的は決まった。
亜人同盟との戦争を止めるんだ。
その為にはまず、サラと接触しなければならない。
「すぐに出発だ。夜の闇に紛れて行くぞ」
「ロートスさん。くれぐれもお気をつけて。すでに亜人同盟の斥候がそこら中にいるはずですから」
「心配いりません。知ってますか? 俺は目立たないことにかけては天才なんですよ」
部屋の視線が、一斉に俺に集まった。
え、なんだよその目は。
目立たないように頑張ってるだろ。俺。
とほほ。
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