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S級の女

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 彼らには何が起きたかまったく理解できなかっただろう。アイリスは圧倒的だった。スライムとは思えないほどに。

「な……そんな馬鹿な!」

 ギルド長がシワに囲まれた目をひん剥いて驚いている。
 百人以上が一挙に倒れ伏したのだから、当たり前の反応かもしれない。

「こんなことが……A級の勇士達が、こうもあっさりと? 信じられん」

「信じられなくてもこれが事実なんだよ。目の前の現実を受け入れろ。耄碌じじい」

 俺は大股で大階段へ進んでいく。一刻も早くあのじじいをぶっとばし、サラとルーチェの居場所を吐かせ、アデライト先生とフィードリッドに謝罪させなければなるまい。

「ふん……これで勝ったと思っているのか。甘いわ」

 負け惜しみを言いやがる。
 だが、俺の迂闊さは否定のしようもなかった。

「……いかん! ロートス下がるのじゃ!」

 アカネの警告が聞こえた時にはもう遅かった。
 凄まじい速度で頭上から接近した敵が、俺の脳天目掛けて槍を突き下ろす。

「ロートス・アルバレス! その首もろたで!」

 赤いポニーテールの女。さっき俺の家の前にいたやつだ。

「マスター!」

 わかってる。

 『フェイスシフト』最大出力だ。これしかねぇ。
 俺の存在感が瞬時に激増し、同時に顔がぼやける。
 まごうことなきクソスキルではあるが、初見に限っては警戒させることができるはずだ。

 だが。

「そいつは知っとんやなぁ!」

 通用しない。
 女の槍が、俺の額を貫通する。
 俺は今、確実に絶命した。

「なんやて?」

 ポニーテールの女が驚愕する。

「流石に俺が不死身だってことは、知らなかっただろ?」

 俺の肉体は復活する。そのエネルギーの余波が、女を後方に吹っ飛ばした。
 そんな効果もあったのか。助かったぜ。
 女は空中で華麗に身を翻し、音もなく着地する。ビキニアーマーをつけているせいか、すごい身軽だな。

「ごっつ驚いたわ。けったいなスキル持っとるねんな」

 女に動じた様子はない。

「一応、自己紹介はしとこか。わてはオー・ルージュ。序列三位のS級冒険者や」

 まじかよ。ここにきてS級だと?

「ロートスよ。気をつけるのじゃ。あやつ、ただものではない。序列三位といえば、S級でも指折りの実力者じゃぞ」

 つまり、全冒険者の中で三番目に強いってことかよ。そりゃあ強そうだ。
 けど。アイリスとアカネが負けるビジョンが見えないぜ。

「ひぃ、ふぅ、みぃ……それに一人。全部で四人やて。わての敵やないなぁ」

「おぬしは下がっておれロートス!」

 アカネの全身が光を放つ。次の瞬間、のじゃロリからのじゃ美女へと変貌を遂げていた。

「アイリス! 二人がかりで行くぞい!」

「合わせますわ」

「オーリスの娘っ子! 援護を頼むのじゃ」

「承知」

 アカネとアイリスが、仁王立ちのルージュへと肉薄する。
 セレンは『ロックオン』を発動し、同時に魔法の構築も始めていた。

 この三人で勝てない相手はいないだろうな。
 そうに違いないぜ。
 負けるはずがない。
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