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ガチギレ

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 半日かけて王都に到着し、一直線に自宅へ向かう。
 だが、なにやら街の様子がおかしい。

「なんだ?」

「どうやら火事のようじゃな」

 街で火事が発生すると、専用の鐘が鳴り響く。今はその耳障りな音が打ち鳴らされていた。

「マスター、あの方向は……」

 消火隊や野次馬が集まっていくのは、まさに俺の家の方角だった。

「いや、まさかそんなことは……ないだろ」

 だが、あったのだ。

 帰宅した俺の目に映ったのは、燃え盛る我が家だった。
 周囲には野次馬。豪邸は燃えていないところがないというほどに、轟々と炎を巻き上げている。

「おい……ウソだろ……?」

 呆けていたのも一瞬、俺は半ば反射的に駆け出していた。

「サラ! ルーチェ!」

「マスター! お待ちを!」

「危険じゃぞ! ただの炎ではない!」

 俺の右手をアイリスが、左手をアカネが掴む。

「離せ! 助けに行かねぇと!」

「たわけ! 助けたいなら冷静になれ! 闇雲に飛び込んでも無意味じゃ!」

「どうしろってんだよ!」

 貰い物の家がどうなろうと知ったこっちゃないが、中にはサラとルーチェがいるんだ。あいつらは俺の従者だぞ。主人が助けに行かずしてどうすんだ。

「魔法で作られた火炎じゃ。水では消えんし、自然に消えることもない。あの家が燃え尽きるまで待つしかない」

「ふざけんなって」

 こうしている間にもサラ達が死んじまうかもしれないんだぞ。

「安心せい。わらわに任せておけ」

 アカネは俺の頭はぱしんと叩くと、一足飛びで燃え盛る豪邸の業火の中へ飛び込んでいった。

「マスター、今はあの方に委ねましょう」

「けど……!」

 アカネなら何とかしてくれるかもしれないが、やっぱり俺も行った方が。

「意外と遅かったやん。帰ってくるんが」

 その声は、すぐ近くから聞こえた。
 野次馬の中に混じって、ごつい鎧に身を包んだ長身の女が、俺を見下ろしていた。

「遅かった、だと? 誰だ、お前は」

「おたくの家に火を放った張本人や」

「なんだと? てめぇ!」

 俺は手を伸ばしてそいつを掴むとするも、野次馬が多すぎて阻まれてしまう。

「ロートス・アルバレス。冒険者ギルドで待っとるで。ほな」

「待ちやがれ!」

 俺の叫びは野次馬の喧騒に紛れてしまう。
 真っ赤なポニーテールを靡かせる鎧の女は、人ごみに消えていった。

 ギルドだと……? どういうことだ。
 まさかこの火事、冒険者ギルドの仕業だってのか。

 直後、アカネが燃え盛る豪火から飛び出てくる。

「ロートス! 中には人っ子一人おらんぞ!」

 なんだって?

「マスター。もしかすると、サラちゃんとメイド長はギルドにかどわかされたのでは」

「……可能性はあるな。アカネ。家の中は全部見たのか?」

「くまなくな」

 よし。

「ギルドに向かう。俺の従者に手を出した罪を償わせるぞ」

 まじで。
 許さん。

 アデライト先生だけでなく、サラとルーチェにまで。

 それまでずっと黙っていたセレンと目を合わせる。

「セレン、こうなっちまった以上、俺はギルドを許せねぇ。これ以上は、もう後戻りはできないぞ」

「かまわない」

 セレンの目には、力強い意志が宿っている。
 俺は大きく頷く。

「ついてこい。最後までな」

 こうなったら、徹底的にやってやるぞ。
 妥協はなしだ。
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