163 / 981
俺に任せて早く行け
しおりを挟む
思った通り、凍結したいくつかの歯車が砕け散る。巨大な歯車が粉々になって結晶となる光景は、神秘的とさえ言える。
「いいぞ。効いてる!」
一気に半分以上の歯車をぶっ壊した。一つでも壊せばかみ合わなくなるだろう。楽勝だぜ。
(たしかに、今のは効いたよ)
その声は、いやに余裕があるように聞こえた。
(ほんの少しだけね)
砕け散って宙を舞う結晶が、まるで時間を巻き戻したかのように元の状態に戻っていく。数秒も経たないうちに、無傷の状態へと復元されていた。
「なん……だと……?」
俺は驚愕する。
こんなのアリかよ。
俺も曲がりなりにも治癒魔法を学んだからわかる。こいつが元に戻ったのは、肉体の損傷を治すとか、物を修理するとか、そんな次元の話じゃない。
俺は直感的に理解する。
歯車には最初から傷などなかった。他ならぬマシなんとか五世が、そういう運命に書き換えたんだ。
「そんなんで怯むと思ってんすか? 一発でダメなら、何発でも喰らわせてやるっす!」
ウィッキーが威勢よく魔法を放つ。
「イクスプロード・スーパーノヴァ!」
輝く両手から発射されたのは、小さな小さな光の粒。それはゆらゆら舞いながら機械仕掛けの神に近づく。
「あれは……超最上級魔法の、イクスプロード・スーパーノヴァ? まさか現実に使い手がいるなんて……!」
シーラが驚嘆の声をあげる。
「そんなすごい魔法なのか?」
首肯するシーラ。
「伝説の中にしか存在しないと言われている魔法です。その威力は星をも破壊すると形容されるほどの、極大攻撃魔法なんです」
そんなの撃って大丈夫なのかよ。巻き込まれないのか。
(素晴らしい)
称賛の声。
嫌な予感がする。こいつの声には、まるで危機感がない。
いくら伝説級の魔法でも、効く気がしない。
光の粒が、歯車に触れた途端、眩い閃光が臨天の間を埋め尽くした。耳をつんざく爆音、網膜を焼き尽くすような激しい光。
俺は咄嗟に目と耳を塞ぐが、それでもかなり眩しいし、うるさかった。
やがてそれが収まり、俺は目を開く。
まるで最初から何もなかったかのように、機械仕掛けは消滅していた。それどころか、壁や天井の一部が綺麗になくなっている。機械仕掛けがあった空間にだけ、魔法の効果を限定したようだった。
「すごい技術」
セレンが無感動な声で呟く。けれど、内心は感動しているはずだ。
息を荒げたウィッキーが、ぐったりと膝をつく。
「はぁ……はぁ……もう魔力が空っぽっす」
いや、よくやったウィッキー。
直す間もなく全てを消し飛ばしてしまえば、さすがのあいつだって再生できるわけが。
(残念だったね)
あったようだ。
目の前の景色がぼやけたかと思うと、いつのまにかそこに歯車の羅列が復元されていた。
「うそ……だろ……?」
俺はそれを呆然と見上げる。
(賛美に値する才能だ。その歳であんなものを撃てるとはね。だが)
耳朶を打ったのは、呆れたような溜息だった。
(僕には通用しない)
チート野郎が。クソだなこいつは。
よくある無双系の主人公にドヤァされる敵役の気持ちが、今はよく分かる。
「打つ手なし」
セレンも戦意を喪失しているようだ。
ウィッキーは疲労困憊。
シーラは未だ困惑したままで、俺達に加勢しようとはしない。
(さぁ、今度は僕の番だ。どれくらい持ってくれるのかな)
やばい。
ここは俺がなんとかするしかないぜ。
「セレン。ウィッキーを連れて逃げろ!」
言うや否や、俺は歯車に向かって駆け出す。
「頼むぞ!」
俺が時間を稼いでみせる。
「いいぞ。効いてる!」
一気に半分以上の歯車をぶっ壊した。一つでも壊せばかみ合わなくなるだろう。楽勝だぜ。
(たしかに、今のは効いたよ)
その声は、いやに余裕があるように聞こえた。
(ほんの少しだけね)
砕け散って宙を舞う結晶が、まるで時間を巻き戻したかのように元の状態に戻っていく。数秒も経たないうちに、無傷の状態へと復元されていた。
「なん……だと……?」
俺は驚愕する。
こんなのアリかよ。
俺も曲がりなりにも治癒魔法を学んだからわかる。こいつが元に戻ったのは、肉体の損傷を治すとか、物を修理するとか、そんな次元の話じゃない。
俺は直感的に理解する。
歯車には最初から傷などなかった。他ならぬマシなんとか五世が、そういう運命に書き換えたんだ。
「そんなんで怯むと思ってんすか? 一発でダメなら、何発でも喰らわせてやるっす!」
ウィッキーが威勢よく魔法を放つ。
「イクスプロード・スーパーノヴァ!」
輝く両手から発射されたのは、小さな小さな光の粒。それはゆらゆら舞いながら機械仕掛けの神に近づく。
「あれは……超最上級魔法の、イクスプロード・スーパーノヴァ? まさか現実に使い手がいるなんて……!」
シーラが驚嘆の声をあげる。
「そんなすごい魔法なのか?」
首肯するシーラ。
「伝説の中にしか存在しないと言われている魔法です。その威力は星をも破壊すると形容されるほどの、極大攻撃魔法なんです」
そんなの撃って大丈夫なのかよ。巻き込まれないのか。
(素晴らしい)
称賛の声。
嫌な予感がする。こいつの声には、まるで危機感がない。
いくら伝説級の魔法でも、効く気がしない。
光の粒が、歯車に触れた途端、眩い閃光が臨天の間を埋め尽くした。耳をつんざく爆音、網膜を焼き尽くすような激しい光。
俺は咄嗟に目と耳を塞ぐが、それでもかなり眩しいし、うるさかった。
やがてそれが収まり、俺は目を開く。
まるで最初から何もなかったかのように、機械仕掛けは消滅していた。それどころか、壁や天井の一部が綺麗になくなっている。機械仕掛けがあった空間にだけ、魔法の効果を限定したようだった。
「すごい技術」
セレンが無感動な声で呟く。けれど、内心は感動しているはずだ。
息を荒げたウィッキーが、ぐったりと膝をつく。
「はぁ……はぁ……もう魔力が空っぽっす」
いや、よくやったウィッキー。
直す間もなく全てを消し飛ばしてしまえば、さすがのあいつだって再生できるわけが。
(残念だったね)
あったようだ。
目の前の景色がぼやけたかと思うと、いつのまにかそこに歯車の羅列が復元されていた。
「うそ……だろ……?」
俺はそれを呆然と見上げる。
(賛美に値する才能だ。その歳であんなものを撃てるとはね。だが)
耳朶を打ったのは、呆れたような溜息だった。
(僕には通用しない)
チート野郎が。クソだなこいつは。
よくある無双系の主人公にドヤァされる敵役の気持ちが、今はよく分かる。
「打つ手なし」
セレンも戦意を喪失しているようだ。
ウィッキーは疲労困憊。
シーラは未だ困惑したままで、俺達に加勢しようとはしない。
(さぁ、今度は僕の番だ。どれくらい持ってくれるのかな)
やばい。
ここは俺がなんとかするしかないぜ。
「セレン。ウィッキーを連れて逃げろ!」
言うや否や、俺は歯車に向かって駆け出す。
「頼むぞ!」
俺が時間を稼いでみせる。
35
お気に入りに追加
1,202
あなたにおすすめの小説
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
異世界転生!ハイハイからの倍人生
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。
まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。
ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。
転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。
それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる