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BOSS戦

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「聞く感じ、大層な力を持ってるようだな。あんたは」

(その通り)

「だったら一つ頼みがある」

(冒険者ギルドの件なら引き受けないよ)

 先回りされた答えに、俺は面食らった。

(驚くようなことかい? 僕は神にも等しき存在だ。知らないことなんかないんだよ)

「……どうして引き受けてくれない?」

(簡単な話だ。我々は裏切者を決して許しはしない。つまり)

 唐突に、歯車が閃光を放つ。
 やばい。この流れはたぶん。

 俺は直感的にウィッキーを突き飛ばした。
 四半秒前にウィッキーがいた空間を、赤いレーザーが通り過ぎていく。

「ロートスっ!」

 地面に転がったウィッキーが俺を呼ぶが、それに答える余裕はない。
 レーザーが、俺の右腕を奪い去っていたからだ。ご丁寧に肘から先を斬り飛ばしてくれたらしく、前腕が宙を舞って床に落ちていく様は、まるで現実とは思えなかった。

「なにしやがるテメェ!」

 いきなりすぎるだろ。痛いというよりは熱い。

(へぇ? 今のを外すか……流石はアルバレスの御子といったところか。僕の定めた運命に抗うなんて)

 何を言っているかちっともわからないが、この状況がやばいことだけはひしひしと伝わってくる。
 負傷した俺にシーラが駆け寄り、肩を支えてくれる。

「まさか、マシーネン・ピストーレ五世が主様に危害を……? いえ、今のは不可抗力」

 独り言をつぶやくシーラ。どうやらこれは彼女にとっても想定外の事態らしい。

(君は知っているはずだ。裏切者は殺す。それが機関の鉄の掟だと。たとえ君の介入があったとしても、それは覆らない)

 無慈悲な宣告。

「ギルドを利用して先生を始末するつもりってわけか……くそ野郎が」

(さぁ、どうだろう。それが彼女の運命なら、そうなるだろうね)

 運命。
 なんとなく察するぜ。こいつのスキルは、運命に関する力。たぶん、運命を操作するとかそんなんだろう。ベタだな。

(けれど、その獣人の娘は、ここで死んでもらおうと思う)

 言うや否や、先程と同じ光がいくつも閃いた。

「ウィッキー!」

 俺は叫ぶ。
 だが、できることは何もない。

 いくつものレーザーがウィッキーに迫り、それら全てが見えない壁によって弾かれていた。
 ウィッキーが両手を前に突き出し、魔法障壁を展開していたのだ。

「一回見たっすよ。その光線は」

 流石はウィッキーだ。優秀すぎる。

(ふむ。一度改変された運命は、未来にも影響を与えるか。なるほど、有意義な実験結果が得られたよ)

 なにブツブツ言ってやがるんだこいつは。
 俺は自分の右腕に治癒魔法をかける。傷口は塞がり、出血もなくなる。覚えててよかった治癒魔法。

「おいシーラ」

「はい」

「なんとかしろ」

「できません」

「なんでだよ! 守護者じゃねーのか!」

(ふふ。無駄だよ。その子だって機関の一員なんだからね)

 こいつの声は聞こえていないはずだが、シーラは補足するように声を発する。

「マシーネン・ピストーレ五世の意思に背くことは、機関を裏切ることになります。それに」

 シーラは戦闘態勢のウィッキーを一瞥する。

「標的は彼女一人です」

 だからなんだ。見捨てて生き延びろとでもいう気か。

「あたしは主様の御身を最優先に考えます。既に腕を失われ、これ以上、不用意な傷を負われるのは」

 ふざけんな。

「いいか。肝に命じとけ。ウィッキーが死ぬ時ってのは、つまりは俺が死ぬ時だ」

 仲間を犠牲に生きる気はさらさらない。
 俺はシーラをそっと突き放す。
 そして、機械仕掛けの神と堂々と対峙した。

「あいつに味方するってんなら、お前も敵だぜ。シーラ」

「主様……」

 今までゆっくりと動いただけだった巨大な歯車が、音を立ててスピードを増していく。

(おもしろい。僕に楯突くというのなら、一度叩き潰してあげよう。かかってくるといい)

 もしこいつに顔があったなら、ものすごいドヤ顔をしているんだろうな。

「ウィッキー! セレン! やるぞ! このいけすけねぇガラクタをぶっ壊す!」

「おっけーっす! やってやるっすよ!」

「楽勝」

 その意気だ二人とも。

 言うなればこれは、ボス戦ってやつだな。
 負けイベントじゃないことを祈るぜ。
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