上 下
153 / 981

俺達の戦いはこれからだ!

しおりを挟む
 翌朝。

 俺は早速ヘッケラー機関へと出立しようとしていた。

「マスター。お気をつけて」

 里の出口。大きな門の下で、アイリスが荷物を持たせてくれる。

「二人を頼むぞ。アイリス」

「お任せを。この命に代えても、お守りいたしますわ」

 二人というのは、アデライト先生とフィードリッドのことだ。ギルドから狙われている以上、いつ襲われるか分かったものじゃない。
 アイリスの後ろで、先生は眼鏡の位置を直していた。

「私達は聖域との境界に野営することにします。あのあたりなら冒険者達も手を出しにくいでしょうし、いざとなれば聖域に逃げ込むことも出来ます。それに、里の皆様も助けて下さるようですし」

 ふむ。エルフがどこまで役に立ってくれるかはわからないが、いないよりはマシだろう。少なくとも牽制や抑止力にはなるか。
 先生の隣で、フィードリッドが大きな溜息を吐いていた。

「まったく、あのタヌキじじいめ。ワタシとアディを狙うとは、はっきり言ってゴミクズだな。Sランクの話も、最初からすべて嘘だったというわけだ」

「同感だ。あのじじい。次に会ったらぜってーぶん殴る」

「フフ。その意気だぞ婿殿。大切な婚約者を足蹴にされたのだ。冥途に送ってやらねば気が済まんだろう」

 流石に殺すのは抵抗があるが、終身刑でも生温いとは思うぜ。

 さて。

 実を言うと、ヘッケラー機関に行くのは俺一人ではない。
 俺一人だとあまりにも危険だということで、誰も納得してくれなかったのだ。

 同行するメンバーは、ウィッキーとセレンである。
 ウィッキーは機関を裏切った身ではあるが、近くまでは護衛と道案内をしてくれる。

「ウチは絶対にロートスについていくっすよ。これ以上心配をかけられるのはイヤっす」

 とのことだ。

 セレンについては、

「最後まで付き合う」

 とのことだった。
 頭があがらねぇぜ。

「エレノアには何も言わなくていい?」

 首を傾げるセレンに、俺は首肯で答える。

「あいつはあいつでやることがあるだろうからな。エルフに魔法を教わるんだろ? それを邪魔するわけにはいかねーよ」

 当のエレノアは昨夜の宴ではしゃぎすぎたようで、まだ寝ている。朝までアイリスと魔法談義をしていたらしい。アイリスは脳筋だと思うんだが魔法談義なんかできるのかね。

 まぁいい。

 そういうわけで、エレノアには何も告げないでおくのだ。
 今日あたりにはマホさんが迎えに来るんじゃなかろうか。そのあたりの説明はエレノアに任せるさ。

「ここから機関までは馬車で半日ほどっす。休憩なしになるっすけど、大丈夫っすか?」

「ああ。問題ない。最悪、俺には『タイムルーザー』があるしな」

「ウチの『ツクヨミ』を破ったスキルっすか。ウチからしたら、とてもクソスキルなんて思えないっす」

 苦笑しながら、ウィッキーは馬車の扉を開いた。

「ほら、乗るっす。しょーがないから御者はウチがやってあげるっすよ」

「すまんな」

 馬車の運転の仕方なんてまったくわからないから仕方ない。

「ウィッキー。ロートスさんをお願いしますね」

「心配性っすね~先輩は。このウチがついてるんだから問題ないに決まってるっす!」

「万が一ということもありますから」

「……ロートスはウチにとっても大切な人っす。傍を離れないようにするっすよ」

 ウィッキーは少しだけ真剣みを帯びた声で言う。こいつはこいつなりに、覚悟を決めているみたいだ。
 ま、俺の決意には勝てんだろうけどな。

「それじゃ、行ってきます」

「ロートスさん。くれぐれもご用心ください。なによりも命が最優先です。あなたがいなくなってしまったら、私……」

「大丈夫。ちゃんとわかってますって」

 昨夜の一件があったからか、先生は今まで以上に俺を気にかけてくれているようだ。

「婿殿。娘を傷物にした責任はとれよ」

「ちょっとお母さん……!」

 ははは。何を勘違いしているかはわからないが、そこまではやってない。まことに残念ながらね。

「よし」

 俺とセレンは馬車に乗り込む。

「それじゃ、出発っす!」

 颯爽と走り出す馬車。
 皆が、見えなくなるまでずっと見送ってくれる。

 俺の旅は、まだまだ終わらなさそうだ。
 これはまさしくあれだな。

 俺達の戦いはこれからだ! ってやつだな。

 完全に、そういうことだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

処理中です...