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不思議な人

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 その日の晩。

 冒険者ギルドに向かおうと家を出た俺は、そこでセレンを見つけた。
 塀に背を預けてパンをかじる彼女は、俺に気付くともぐもぐと咀嚼を急ぐ。

「よお、どうした?」

 慌ててパンを飲み込み、セレンは目を閉じて胸のあたりをトントンと叩いている。
 それからようやく楽になったらしく、何事もなかったかのように俺を見上げた。

「……待ってた」

「いつから?」

「ずっと」

「呼び鈴を鳴らさなかったのか?」

 セレンは頷く。なんでだよ。中に入ればよかったのに。

 彼女にはすでに今朝のギルドの件を話してある。俺が勲章と階級を蹴ってエリクサーを探しに行くことも含めて。
 それを聞いたセレンはやはり無表情だったが、なにやら思うところがあるみたいだった。S級を目指すセレンからすれば、俺が簡単にA級の座を手放したことが複雑に思えるのかもしれない。

「私も一緒に行く」

「ギルドにか? こう言っちゃなんだが、エリクサーの件は俺の個人的な話だ。危険だし、セレンには何のメリットもないぞ」

 ふるふると首を横に振るセレン。

「私達は、パーティだから」

「そう言ってくれるのは嬉しいけどよ。昨日組んだばっかりの相棒を巻き込むわけには……」

 他人の運命を変えてしまう体質のことが頭に浮かぶ。今まさに、セレンの運命も変わりつつあるんじゃないだろうか。

「あなたといると、S級が近づく気がする。情だけじゃない。ちゃんと打算もあるから心配は無用」

「はは。こりゃ参ったな」

 そう言われてしまえば、断るのも逆に悪い気がする。

「わかった。一緒に行こう。途中でアデライト先生も合流する」

「先生も?」

「ああ。フィードリットと知り合いらしくてな。あの人も首を突っ込んできた」

「そう」

 俺達は二人で歩き出す。夜風が涼しくて気持ちいい。

「あなたって、不思議な人」

 不意にセレンがそんなことを呟いた。

「ん? そうか?」

「そう」

「不思議ねぇ……どういうとこが?」

「少し前まで、わたしにとってアデライト先生は雲の上の存在だった。でも、あなたと一緒にいるとあの人まで近くになる」

「まぁ、人の縁ってのは確かに不思議だよな」

「それだけじゃない。『ドラゴンスレイヤー』やA級を辞退したり、従者のためにエリクサーを探そうとしたり。身も蓋もなく言えば、あなたは普通じゃない」

「そうかな」

 そのあたりは現代日本人の感覚だからなのかもしれない。
 転生者である以上、純粋なこの世界の住人とは感性が違うのも当然と言えるだろう。

 あとは、ヘッケラー機関に弄られた運命のせいもあるのかもな。

「こんばんは。ロートスさん、セレンちゃん」

 ギルドの入口付近で、アデライト先生が俺達を待っていた。眼鏡をちょんとあげると、にこやかな笑みを向けてくる。

 セレンが微妙に居住まいを正したような気がした。

「さぁ、中へ入りましょう」

 アデライト先生の先導でギルドへ。

 よっしゃ。
 サラとウィッキーの仲直りのため、一肌脱いでやるか。
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