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思考する少年

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 この世界におけるエルフは、なんというかファンタジーなイメージそのままの存在だ。
 実際に目にしたことはないが、話に聞く限りはそうらしい。

 長い耳を持ち、森の奥深くで自然と共生する種族。魔法に長け、永き時を生きる長命種である。
 基本的に亜人はスキルを持たない。獣人がそうであるように。だが、エルフは亜人でありながらスキルを持つ珍しい種族である。

「エルフっすか……」

 喜ぶべき情報であるのに、ウィッキーは難しい顔になっていた。

「事情を話してお願いしたとして、はいそうですかと秘薬を渡してくれるっすかね?」

「十中八九ありえないわね。エルフは極めて排他的な種族。他種族が里に立ち入ることすら拒むでしょう」

「そうっすよねー……」

 エルフは排他的な種族か。それもなんかステレオタイプだよな。

「思い付きなんですけど、先生の『千変』で、エルフに化けて里に入るとかできませんかね?」

 俺の提案に、アデライト先生は首を横に振った。

「それは難しいでしょう。そもそも人口の少ない種族ですから、仲間のことは熟知しています。そうでなくとも、魔力の敏感な彼らはすぐに私だと見抜くでしょう」

「じゃあ、アイリスに行かせるのも無理か」

 姿形だけ変えても、すぐにバレてしまうだろう。エルフってのはすごいな。
 俺は顎を押さえて頭を捻る。

「忍び込んで秘薬を盗むってのも難しいよな」

「そっすね。冗談でもなんでもなく、バレたら殺される危険もあるっす」

「それはやばいな」

 エルフと他種族の確執ってのは相当のようだ。

「無理しなくてもいいっすよ。ウチがサラに嫌われたのは完全に自業自得っす。誰かに危険を冒させてまで仲直りするつもりはないっすから」

 力ない笑みを浮かべるウィッキー。

 ううむ。これはよくない傾向だ。

 こう言っているが、ウィッキーは間違いなくサラと仲直りしたいはずだ。エルフの里にシーラを治す秘薬があると知った今、こいつは一人でも取りに行くだろう。それができるだけの力を持っていそうだしな。

 だが、仮にウィッキーが一人で秘薬を取りに行ったとして、それが成功するとはとても思えない。そんな流れでは失敗するのが世の常だ。
 嫌っているとはいっても、サラに姉を亡くすような経験はさせたくない。

 他に何か手段はないものか。

 俺はとにかく思い付いたことを口にする。

「人間嫌いって言っても、エルフにも例外はいるんじゃないですか?」

「と、仰いますと?」

 俺は一応真剣な眼差しをアデライト先生に向けてみた。

「ほら、例えば人間社会に紛れ込んで暮らしてるとか」

 なんとなくありそうじゃないか? 転生前に呼んだ漫画とかでもありがちな設定だったりしたしな。

「少なくとも私の知ってる範囲では、そんな人物はいませんね」

「ウチもっす。排他的な反面、エルフは仲間意識が強いっすからね。里を捨てて人間の国で暮らすってのは、ちょっと考えにくいっす」

 だめかー。
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