上 下
101 / 981

真犯人はウィッキー

しおりを挟む
 ホテル・コーキューの正面玄関。

 レンガ造りのどでかい建物の前に立つアデライト先生を見つけて、俺は色々と察したね。
 にこやかな笑みを浮かべる先生の隣には、黒いローブ姿のウィッキーがいる。

「お待ちしていました。ロートスさん」

「意外と早かったすっね」

 俺は溜息を吐く。ここまで行動が筒抜けとは、『千里眼』というスキルの物凄さを思い知る。

「先輩の頭痛が酷くなってきてるんすよ。早く中に入ろうっす」

「頭痛?」

「こらウィッキー。余計なことを言わないで」

 そういえば、『千里眼』には使用に頭痛が伴うみたいな話を聞いたな。そんなに痛いなら見なけりゃいいのに。しかし、そのおかげで助かったのだから文句は言えないか。

「どうぞロートスさん。お部屋へ案内しますね」

「お願いします」

 ホテル・コーキューは、俺の屋敷の数十倍はあろうかというほどの大きさだった。王都で最も大きなリゾートホテルらしいから当然か。
 その最上階。デラックススイートルームに通された俺は、リビングのソファに座る。ワンフロアまるまるが一部屋になっているせいか、馬鹿みたいに広い。

 壁に埋めこまれた水槽には、見たこともない水棲生物がふよふよしている。ウナギとカニを掛け合わせたような、進化を意味を疑うような造形だ。

 それはともかく。

「何か頼みましょうか? ここのワインはとても美味しいんです」

「いえ、酒は結構です」

「あら残念。では、お茶を」

「それも結構です。時間が時間です。あまり女性の部屋に長居するつもりもありません」

 俺の表情はいつになく真面目だろう。いつも真面目なつもりだが。

「……そうですか」

 対面のソファに座るアデライト先生。
 少し離れたスツールに、ウィッキーが腰を下ろした。

「頭痛の調子は?」

 一応聞いてみる。

「スキルを使っていなければ徐々に治っていきます。ふふ。心配して下さってありがとうございます」

「人を覗くのも、ほどほどにしておかないと」

「ロートスさんがずっと一緒にいてくれたら、こんなこともないんですけどねぇ」

「……無茶を仰る」

 冗談なのか本気なのか。いや、本気なんだろうな。
 俺もまんざらではないが、正直反応に困るというものだ。

「さっきのドラゴンの件ですが」

「はい。あれはウィッキーがやりました」

「ウィッキーが?」

「そうっすよー! 街の上空から射抜いてやったっす!」

 ウィッキーがフードを外してえっへんと大きめの胸を張った。

「私は仕事で手が離せませんでしたから、代わりにウィッキーにお願いしたんです」

「どうっすかロートス。ウチのこと見直したっすか―?」

「ああ。あれはすごかった。威力も精度も。おかげで助かった。ありがとな、ウィッキー」

「えへへ。あんなのちょろいもんっす。ウチにかかればお茶の子さいさいっす!」

 あー、なんかこういうところサラに似てるなぁ。実の姉妹というのも頷ける。

「この子が使った魔法はホライゾン・スターライト。攻撃魔法として最長射程を誇る最上級魔法です」

「最上級っていうと、フレイムボルト・テンペストみたいな?」

 エレノアも使えてたから、案外最上級って簡単なのか?

「ちっちっち。あんな炎をまき散らすだけの品のない魔法と一緒にしないでほしいっす」

「っていうと?」

「ウチのホライゾン・スターライトは、魔力の量に加え、とっても細かなコントロールが必要なんす。それだけじゃないっすよ。遠くの的にあてるには、撃った後の制御も大切っす。それになりより、視力を強化する魔法だって併用しなきゃならないんす」

「なんだかよく分からないが、すごそうだな」

「そーなんす! ウチって実はすごいんすよ!」

 ウィッキーが優秀なのはもとより承知の上だ。ヘッケラー機関の刺客になるくらいだし、アデライト先生と互角にやり合ってたくらいだからな。

「しかし、どうしたものか……」

「何か気に懸かることでも?」

 アデライト先生が首を傾げる。

「ギルドにはどう説明しようかと思いましてね。俺が倒したわけでもないし、ウィッキーの存在を表に出すわけにもいかないでしょう?」

「確かに、そーっすねー……」

 途端にしょぼんとなるウィッキー。

「では、私が裏で手を回しておきましょう」

「そんなことできるんですか?」

「私は冒険者クラブの顧問ですよ。ギルドとはズブズブの関係です」

「うわ、でたよ……助かりますけどね」

 相変わらずアデライト先生は政治力に長けている。こういったことのお世話になるとは思わなかったな。

 しかし、こうなれば安心だ。

「でも私ができることにだって限度はあります。必ずしも期待通りの結果になるとは限りませんからね」

 先生はそう言うが、たぶん大丈夫だろ。いくらなんでも、魔法学園の新入生がドラゴン二体を葬ったなんて信憑性のない情報が広まるわけがない。

 俺はやっぱり、安心していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~

和成ソウイチ
ファンタジー
(全77話完結)【あなたの楽園、タダで創ります! 追放先はこちらへ】 「スカウトはダサい。男はつまらん。つーことでラクター、お前はクビな」 ――その言葉を待ってたよ勇者スカル。じゃあな。 勇者のパワハラに愛想を尽かしていたスカウトのラクターは、クビ宣告を幸いに勇者パーティを出て行く。 かつては憧れていた勇者。だからこそここまで我慢してきたが、今はむしろ、追放されて心が晴れやかだった。 彼はスカルに仕える前から――いや、生まれた瞬間から決めていたことがあった。 一生懸命に生きる奴をリスペクトしよう。 実はラクターは転生者だった。生前、同じようにボロ布のようにこき使われていた幼馴染の同僚を失って以来、一生懸命に生きていても報われない奴の力になりたいと考え続けていた彼。だが、転生者であるにも関わらずラクターにはまだ、特別な力はなかった。 ところが、追放された直後にとある女神を救ったことでラクターの人生は一変する。 どうやら勇者パーティのせいで女神でありながら奴隷として売り飛ばされたらしい。 解放した女神が憑依したことにより、ラクターはジョブ【楽園創造者】に目覚める。 その能力は、文字通り理想とする空間を自由に創造できるチートなものだった。 しばらくひとりで暮らしたかったラクターは、ふと気付く。 ――一生懸命生きてるのは、何も人間だけじゃないよな? こうして人里離れた森の中で動植物たちのために【楽園創造者】の力を使い、彼らと共存生活を始めたラクター。 そこで彼は、神獣の忘れ形見の人狼少女や御神木の大精霊たちと出逢い、楽園を大きくしていく。 さらには、とある事件をきっかけに理不尽に追放された人々のために無料で楽園を創る活動を開始する。 やがてラクターは彼を慕う大勢の仲間たちとともに、自分たちだけの楽園で人生を謳歌するのだった。 一方、ラクターを追放し、さらには彼と敵対したことをきっかけに、スカルを始めとした勇者パーティは急速に衰退していく。 (他サイトでも投稿中)

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...