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神の見えざる手
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セレンのフリジット・キャノンはドラゴンの胴体を凍りつかせ、見事に無力化した。ドラゴンは力なくその場に倒れ、荒い呼吸をしたまま動かなくなった。死んではいないようだが、もはや戦闘不能なのは間違いない。
しばし、静寂が訪れる。
「やった」
セレンの平坦な声。
「やったわね」
そしてエレノアの嬉しそうな声。
気の抜けた俺の口から、自然と溜息が出た。
「全員無事か? やられちまった奴はいねぇな?」
マホさんの言葉に、セレンが頷く。
「ありがとう。あなた達が来てくれなかったら、みんな死んでた」
「いいのよ。あなた達も魔法学園の生徒でしょう? それならお互い危ない時は助け合うべき関係だわ。今回は私が助ける側だっただけの話。ね?」
エレノア。なんて男前な発言なんだ。
窮地に陥ったセレンを颯爽と助けたこともそうだが、かっこよすぎるだろ。
「しっかし。お前達も災難だったな。まさかハナクイ竜に遭遇するなんてよ」
マホさんがドラゴンを凝視しつつ言う。グレートメイスは持ったままだ。まだ油断はできないということだろう。
「ここにいたってことは、ナハトモスクの採集をしてたんでしょ?」
「そう」
「運が悪かったわね」
「逆。運が良かった。あなた達が来てくれたから」
無感動なセレンの言葉だったが、それを聞いたエレノアは顔を綻ばせた。
「ふふ。そうかもね」
よきかな。
さて、ここで俺は安堵する。エレノアとマホさんの反応を察するに、俺がロートス・アルバレスであるということはバレていないのだろう。クソスキル『フェイスシフト』のおかげだ。今俺の顔は、ピントの合わないレンズを通したようにぼやけている。日中ならまだしも、今のような夜の暗闇の中では俺の顔を視認できないはずだ。
「あれ……もしかしてあなた」
エレノアがこちらを向いて目を大きくする。
え、ばれた? うそだろ?
「あの時アイリスと一緒にいた子ね。こんなところで会うなんて、奇遇ね」
エレノアの視線は、俺の隣にいるサラに向いていた。
よかった。俺じゃなかった。
「今日はアイリスはいないのね」
「はい。あの子はお留守番です。あなたとの決闘の一件で、一躍有名人ですから」
「……そうね」
エレノアの顔に陰が差す。だが、すぐになくなった。
「彼女に伝えておいて。昨日は後れを取ったけど、次は負けないって。来月のクラス対抗戦。そこでリベンジを果たすわ」
「わかりました。伝えておきます」
サラは何とも言えないような微妙な表情で答える。エレノアのことが苦手って言ってたからな。まぁ仕方ない。
「ところで、アイリスがどこのクラスになったか知ってる? 決闘のいざこざで、確認できていないのよね」
ううむ。実に答えにくい質問だ。
サラは俺を見上げ、指示を仰いでくる。俺にもどう答えていいものか判断できん。
「……まぁいいわ。いずれ分かることでしょうし」
なんとなく察してくれたのか、エレノアは引き下がってくれる。
「それから、ええっと。ごめんなさい……疲れてるのかしら。あなたの顔がぼやけちゃうのよね。存在感はすごいんだけど」
エレノアは目をこすりながら俺を見ては、瞬きを繰り返す。
やめろ。俺の顔は見なくていい。俺が誰だか分かっても得しないぞ。主に俺がな。
正直、魔法学園に入ったことをエレノアに知られたくないのは、ただ単に気まずいからだ。こいつは俺が村八分にされながら過ごしていると思っているだろうし。
別にバレたらバレたで全然かまわないのだが、これは惰性というやつだろう。ここまできたらどこまでバレずにいけるか試してみたいのだ。
どうしてこんなことを考えるのか、俺自身にも皆目見当がつかない。なにか目に見えない強い力が働いているとしか思えないのだ。まぁ、単に俺が天邪鬼なだけかもしれんが。
「おいお前ら! 暢気に話し込んでる場合じゃねぇみたいだぜ。暗くて気付かなかったが……このハナクイ竜、幼生だ」
「なんですって?」
「くそっ。どおりで楽に倒せちまったわけだ。今すぐここを離れるぞ! じゃねぇと――」
マホさんの声に重なるように、上空から複数の咆哮が聞こえてくる。
まさか、親ドラゴンが来たってのか。
しばし、静寂が訪れる。
「やった」
セレンの平坦な声。
「やったわね」
そしてエレノアの嬉しそうな声。
気の抜けた俺の口から、自然と溜息が出た。
「全員無事か? やられちまった奴はいねぇな?」
マホさんの言葉に、セレンが頷く。
「ありがとう。あなた達が来てくれなかったら、みんな死んでた」
「いいのよ。あなた達も魔法学園の生徒でしょう? それならお互い危ない時は助け合うべき関係だわ。今回は私が助ける側だっただけの話。ね?」
エレノア。なんて男前な発言なんだ。
窮地に陥ったセレンを颯爽と助けたこともそうだが、かっこよすぎるだろ。
「しっかし。お前達も災難だったな。まさかハナクイ竜に遭遇するなんてよ」
マホさんがドラゴンを凝視しつつ言う。グレートメイスは持ったままだ。まだ油断はできないということだろう。
「ここにいたってことは、ナハトモスクの採集をしてたんでしょ?」
「そう」
「運が悪かったわね」
「逆。運が良かった。あなた達が来てくれたから」
無感動なセレンの言葉だったが、それを聞いたエレノアは顔を綻ばせた。
「ふふ。そうかもね」
よきかな。
さて、ここで俺は安堵する。エレノアとマホさんの反応を察するに、俺がロートス・アルバレスであるということはバレていないのだろう。クソスキル『フェイスシフト』のおかげだ。今俺の顔は、ピントの合わないレンズを通したようにぼやけている。日中ならまだしも、今のような夜の暗闇の中では俺の顔を視認できないはずだ。
「あれ……もしかしてあなた」
エレノアがこちらを向いて目を大きくする。
え、ばれた? うそだろ?
「あの時アイリスと一緒にいた子ね。こんなところで会うなんて、奇遇ね」
エレノアの視線は、俺の隣にいるサラに向いていた。
よかった。俺じゃなかった。
「今日はアイリスはいないのね」
「はい。あの子はお留守番です。あなたとの決闘の一件で、一躍有名人ですから」
「……そうね」
エレノアの顔に陰が差す。だが、すぐになくなった。
「彼女に伝えておいて。昨日は後れを取ったけど、次は負けないって。来月のクラス対抗戦。そこでリベンジを果たすわ」
「わかりました。伝えておきます」
サラは何とも言えないような微妙な表情で答える。エレノアのことが苦手って言ってたからな。まぁ仕方ない。
「ところで、アイリスがどこのクラスになったか知ってる? 決闘のいざこざで、確認できていないのよね」
ううむ。実に答えにくい質問だ。
サラは俺を見上げ、指示を仰いでくる。俺にもどう答えていいものか判断できん。
「……まぁいいわ。いずれ分かることでしょうし」
なんとなく察してくれたのか、エレノアは引き下がってくれる。
「それから、ええっと。ごめんなさい……疲れてるのかしら。あなたの顔がぼやけちゃうのよね。存在感はすごいんだけど」
エレノアは目をこすりながら俺を見ては、瞬きを繰り返す。
やめろ。俺の顔は見なくていい。俺が誰だか分かっても得しないぞ。主に俺がな。
正直、魔法学園に入ったことをエレノアに知られたくないのは、ただ単に気まずいからだ。こいつは俺が村八分にされながら過ごしていると思っているだろうし。
別にバレたらバレたで全然かまわないのだが、これは惰性というやつだろう。ここまできたらどこまでバレずにいけるか試してみたいのだ。
どうしてこんなことを考えるのか、俺自身にも皆目見当がつかない。なにか目に見えない強い力が働いているとしか思えないのだ。まぁ、単に俺が天邪鬼なだけかもしれんが。
「おいお前ら! 暢気に話し込んでる場合じゃねぇみたいだぜ。暗くて気付かなかったが……このハナクイ竜、幼生だ」
「なんですって?」
「くそっ。どおりで楽に倒せちまったわけだ。今すぐここを離れるぞ! じゃねぇと――」
マホさんの声に重なるように、上空から複数の咆哮が聞こえてくる。
まさか、親ドラゴンが来たってのか。
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