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交差するそれぞれの想い

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「あ!」

 サラがあげた声に、俺は肩を震わせる。

「なんだ。どうした」

「あの、ご主人様。アイリスって、ダーメンズ家のメイドに化けるんじゃなかったでしたっけ?」

「……そうだった」

 アイリスの奴、そのままの姿で行きやがった。
 もう注目を浴びちまってる。今から姿を変えるのは無理だ。

 従者に化けずに現れたアイリスを見て、ヒーモは呆然としていた。そりゃそうだ。いきなり計画が頓挫したんだからな。

「お、おい……」

 なにやら呟いてヒーモはきょろきょろしている。多分俺を探しているんだろうが、見つかるものかよ。

「おいダーメンズ。その女性は誰だ!」

 傘を差したイキールがぴしっと指をさして声を張り上げた。

 ヒーモはひとしきり挙動不審になった後、開き直ったような表情で咳払いを漏らす。

「決闘の代理人さ。一流の貴族は自ら手を下さず、優秀な代理人を立てるものだろう?」

「代理人だと?」

 イキールの眉が捻じ曲がる。

「ガウマン家とダーメンズ家の決着をつけようというのに……まさか代理人とはな! ヒーモ・ダーメンズ! 貴様がそこまで腰抜けだったとは思わなかったぞ」

 イキールが勇ましく主張する。
 その通り。俺もまったく同感だ。

「勘違いしてもらっちゃ困るなぁ。彼女は吾輩のパーティメンバーだ。代理人の話だって、彼女から言い出したことなんだよ。ぜひ吾輩の力になりたいとね」

 話を合わせろと言わんばかりにアイリスを力強く見るヒーモ。
 当のアイリスはよくわかってなさそうな感じで微笑むだけだ。あいつ、鋭いのか天然なのかよくわからないな。まぁスライムだし、人間を基準に考えてもよくないのかもしれない。

「ふん。まぁいい。貴様が代理人を出そうが出すまいが、僕は自分で戦うぞ。それが真の貴族というものだ」

 イキールは従者の騎士リッターから剣を受け取ると、その柄を握った。

「待ちなさい!」

 そして響いたのは少女の声。

 間違いない。エレノアの声だ。

 輪の中に駆け出てきたエレノアに、野次馬達は騒然となる。初日にイキールと言い合いをしたせいで、あいつも有名人だからな。

「おいエレノア。何してんだ!」

 遅れてマホさんもエレノアを追いかけてきた。あの人の反応を見るに、これはエレノアの突発的な行動みたいだな。

「キミか。今は取り込み中だ。見てわからないか」

 イキールはにべもなく言う。だが、エレノアは引き下がらない。

「決闘って、どういうこと? どうしてあなたがアイリスと戦うのよ」

「ダーメンズが立てた代理人だ。貴族の決闘には、代理人を立てることが許されている。我がガウマン家はそんな情けない真似はしたことがないがな」

「代理人ですって?」

 エレノアはきつい目線でアイリスを見やる。
 アイリスもエレノアも、傘もささずに雨に降られている。風邪ひくぞ。

「さぁ、わかったら下がりたまえ。決闘を始めるんだからな」

「イキール君。私のお願いを聞いてくれるかしら」

「なんだよ」

 疎ましそうにするイキールに詰め寄り、エレノアは凛と言い放った。

「私を代理に立てなさい。決闘は、私がやるわ」
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