上 下
40 / 981

やっぱりそうなるよね

しおりを挟む
「サラ。お前はよくやってくれた。ランチ代を渡すから、『てぇてぇ亭』のスペシャルランチ、食ってこい」

「ご主人様は、一緒に来られないんですか……?」

「俺はいい。『ノーハングリー』なんか使わなくても、腹減ってないしな」

 とにかく一人になりたかった。そっとしておいてほしかった。

 それをサラも察したのだろう。

「わかりました。ボク、一人で行ってきますね。ありがとうございます」

 見るからに無理矢理作った笑顔だった。俺からお金を受け取ったサラは、俺を気遣うような目を向けてから、足早に『てぇてぇ亭』に向かっていった。

「はぁ……なにやってんだろうな、俺は」

 この世界に転生してからというもの、俺は極力目立たず生きてきた。その為に身命を惜しまなかった。

 だが、魔法学園に入学することになってすぐこの有様だ。ここに入れた両親に沸々と怒りが湧いてくる。

 俺はあてもなくふらふらと歩きまわる。その内、学園内にある小高い丘の上に辿り着いていた。丘の上には大きなガゼボ、いわゆる西洋風の東屋が設置されており、俺はその中のベンチに腰を下ろした。

 溜息。

「くそが」

 誰もいないガゼボに、俺の暗い呟きだけがあった。

 懐が振動する。

「お?」

 スライムが動いているようだ。そういえばいたな、こいつ。

 俺はビンを取り出し、スライムを外に出した。

「よう。どうだ、調子は」

 スライムは俺の足元でぷるぷると震えている。

「俺はダメダメだ。あんなに目立っちまって」

 再び漏れる溜息。

 すると、スライムから二本の触手が伸び、俺の両頬を優しく撫でた。

「はは。なんだよ。慰めてくれるのか?」

 スライムは肯定するように一際大きく揺れた。

「モンスターに慰められるたぁ、情けねぇな。俺ってやつは」

 泣きそうになる。けどそれだけは我慢だ。男は泣いちゃいけないのだ。
 俺は項垂れる。目を閉じ、努めて頭を空っぽにする。

 だから俺は、目の前でスライムが形を変えていることにすぐ気付けなかった。

「マスター」

 その声は誰のものか。

「なにがあっても、人があなたに何を言おうと、あなたが自分をどう思おうと」

 優しい少女の声は、俺の耳に溶けるように甘く響く。

「わたくしは、最期の時までマスターの味方でおりますわ」

 驚いて目を開こうとした時、俺はそっと抱きしめられた。

 滑らかな肌は陶磁器のようで、華奢でありながら女性らしい柔らかさを備えた肉付きは、まさに天使の抱擁であった。

 なんだこれは。一体何が起こった。

 俺を抱きしめているのは、透き通るような空色の髪を靡かせるとんでもない美少女であった。

 なにより驚いたのは、彼女は一糸まとわぬ姿、つまり全裸だったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

処理中です...