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自分が何をやったかわかっているのか
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サラはゆっくりと両腕をハの字に広げる。聖母マリアっぽいポーズだ。そして仄かな白い光を纏い、深く息を吸い込んだ。
「ディスペル」
サラが呟くと、口元を中心に光の球体が広がった。それは洞窟全体に広がり、地面、壁、天井に浸透していく。
簡単な補助魔法なら使えると言っていたが、これはどのくらいの魔法なんだろう。さっぱりわからん。
白い光がしみ込んだ洞窟は、ぽろぽろと粒子になって崩れていく。
「お、おい」
大丈夫なのか、これ。
「安心してください。幻が消えているだけです」
サラの纏う光が消える。
次の瞬間、深い洞窟は瞬時にしてだだっ広い洞穴に変わった。
「まじか」
背後には入口が、前方にはメダルの台座がある。
「つまり俺達は、この洞穴を迷路だと勘違いしていた?」
「そういうことですね。そしてその元凶が――」
サラは上を向く。俺も。
洞穴の天井一面に張り付いた、コウモリ達。
「なるほど」
弱いモンスターが多く出現するって先生が言ってたな。つまりこういうことか。戦闘力は大したことないが、搦手を用いてくる。
「それで、どうする? このままメダルを頂くか? ボスモンスターが出てきていないけど」
「どうでしょう? 今までの感じからして、ボスがいてもおかしくなさそうですけど」
「そうだな……いずれにしろ、取りに行くしかないか」
俺はメダルの台座に近づいていく。警戒は怠らない。天井のコウモリ達の視線はすべて俺を追いかけており、非常に気味が悪いことこの上ない。
「こいつらが一斉に襲い掛かってきたら……」
「ご主人様。怖いこと言わないでください」
俺は恐る恐る台座の前まで辿り着くと、そっと手を伸ばした。
「これ取ったらコウモリが動き出すとかないよな?」
「だーかーらー。怖いこと言わないでくださいってばっ」
俺はメダルを掴む。
そして。
「わあッ!」
「きゃあっ!」
俺の服を掴んでいたサラを脅かしてみると、思った以上に驚いた。可愛い悲鳴をあげ、頭を抱えてうずくまる。
同時に、天井のコウモリ達が一斉に飛び立ち、洞窟内を飛び回る。
「なんなんですかご主人様っ! 何がしたかったんですかっ!」
「ちょっとしたイタズラだ」
「ちょっとじゃないですっ! こんなのどうするんですか!」
バサバサと飛び回るコウモリ達。
実は妙案があるのだ。
俺は懐からビンを取り出すと、中のスライムを放り出した。
「喰い尽くせ」
地面に落ちたスライムはぷるぷると震えると、急激に体積を増し、洞窟内を満たす。
「これって……」
サラが顔をあげる。
「腹が減ってんなら、こいつらを食わせてやればいいんじゃないかってな」
たぶん、強欲の森林にモンスターがいなかったのは、こいつが食らい尽くしたからだと思うのだ。こんなにたくさんのコウモリ型モンスターがいるとなれば、スライムの奴もお腹いっぱいになるはず。
案の定、スライムは瞬く間にコウモリを取り込み、消化してしまった。
「おお、すげぇ」
半透明のスライムの中でコウモリが消滅していく光景は、なんとなく生命の神秘を感じる。
やがて、すべてのコウモリはいなくなる。スライムは満足げに震えると、もとの大きさに戻って俺の足下にやって来た。
「ほら、戻れ」
俺がビンを置くと、大人しくその中に入っていく。
「意外とあっさり終わったな」
「どこがですか……わざわざモンスターを刺激するような真似をして」
「結果オーライだ」
正直スライムの空腹問題も懸念はしていたからな。これで後顧の憂いは断たれたってわけだ。
「さぁ、戻るぞ。難なく試験クリアだ」
「もぅ……」
サラは不満そうだったが、俺は満足だった。
これくらい簡単なダンジョンなら、ちょうどいいクラスに配属されるだろう。
俺の目立たないライフが、やっと始まるんだなぁ。
俺は軽快なステップで学園への帰路につく。
体は疲れていたが、心は軽かった。
「ディスペル」
サラが呟くと、口元を中心に光の球体が広がった。それは洞窟全体に広がり、地面、壁、天井に浸透していく。
簡単な補助魔法なら使えると言っていたが、これはどのくらいの魔法なんだろう。さっぱりわからん。
白い光がしみ込んだ洞窟は、ぽろぽろと粒子になって崩れていく。
「お、おい」
大丈夫なのか、これ。
「安心してください。幻が消えているだけです」
サラの纏う光が消える。
次の瞬間、深い洞窟は瞬時にしてだだっ広い洞穴に変わった。
「まじか」
背後には入口が、前方にはメダルの台座がある。
「つまり俺達は、この洞穴を迷路だと勘違いしていた?」
「そういうことですね。そしてその元凶が――」
サラは上を向く。俺も。
洞穴の天井一面に張り付いた、コウモリ達。
「なるほど」
弱いモンスターが多く出現するって先生が言ってたな。つまりこういうことか。戦闘力は大したことないが、搦手を用いてくる。
「それで、どうする? このままメダルを頂くか? ボスモンスターが出てきていないけど」
「どうでしょう? 今までの感じからして、ボスがいてもおかしくなさそうですけど」
「そうだな……いずれにしろ、取りに行くしかないか」
俺はメダルの台座に近づいていく。警戒は怠らない。天井のコウモリ達の視線はすべて俺を追いかけており、非常に気味が悪いことこの上ない。
「こいつらが一斉に襲い掛かってきたら……」
「ご主人様。怖いこと言わないでください」
俺は恐る恐る台座の前まで辿り着くと、そっと手を伸ばした。
「これ取ったらコウモリが動き出すとかないよな?」
「だーかーらー。怖いこと言わないでくださいってばっ」
俺はメダルを掴む。
そして。
「わあッ!」
「きゃあっ!」
俺の服を掴んでいたサラを脅かしてみると、思った以上に驚いた。可愛い悲鳴をあげ、頭を抱えてうずくまる。
同時に、天井のコウモリ達が一斉に飛び立ち、洞窟内を飛び回る。
「なんなんですかご主人様っ! 何がしたかったんですかっ!」
「ちょっとしたイタズラだ」
「ちょっとじゃないですっ! こんなのどうするんですか!」
バサバサと飛び回るコウモリ達。
実は妙案があるのだ。
俺は懐からビンを取り出すと、中のスライムを放り出した。
「喰い尽くせ」
地面に落ちたスライムはぷるぷると震えると、急激に体積を増し、洞窟内を満たす。
「これって……」
サラが顔をあげる。
「腹が減ってんなら、こいつらを食わせてやればいいんじゃないかってな」
たぶん、強欲の森林にモンスターがいなかったのは、こいつが食らい尽くしたからだと思うのだ。こんなにたくさんのコウモリ型モンスターがいるとなれば、スライムの奴もお腹いっぱいになるはず。
案の定、スライムは瞬く間にコウモリを取り込み、消化してしまった。
「おお、すげぇ」
半透明のスライムの中でコウモリが消滅していく光景は、なんとなく生命の神秘を感じる。
やがて、すべてのコウモリはいなくなる。スライムは満足げに震えると、もとの大きさに戻って俺の足下にやって来た。
「ほら、戻れ」
俺がビンを置くと、大人しくその中に入っていく。
「意外とあっさり終わったな」
「どこがですか……わざわざモンスターを刺激するような真似をして」
「結果オーライだ」
正直スライムの空腹問題も懸念はしていたからな。これで後顧の憂いは断たれたってわけだ。
「さぁ、戻るぞ。難なく試験クリアだ」
「もぅ……」
サラは不満そうだったが、俺は満足だった。
これくらい簡単なダンジョンなら、ちょうどいいクラスに配属されるだろう。
俺の目立たないライフが、やっと始まるんだなぁ。
俺は軽快なステップで学園への帰路につく。
体は疲れていたが、心は軽かった。
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