上 下
7 / 981

旅立ち、そして旅立ち

しおりを挟む
 一ヵ月後。
 村を挙げて行われたエレノアの出発式の後、彼女はいよいよ村を出ようとしていた。

「それじゃあ、いってくるね。ロートス」

「ああ。気をつけてな」

 村の外れにある大岩の傍ら、エレノアは無理矢理作った笑みで目尻に涙を浮かべていた。

「泣くなよ。めでたい日なんだ」

「うん」

「お前なら魔法学園で立派な魔導士になれるさ。なんたって天下の『大魔導士』様だもんな」

「もう。茶化さないでよ」

 俺は愛想笑いを漏らして、エレノアの隣に立つマホさんに目を向けた。

「マホさんも気をつけて。エレノアを頼みます」

「ああ。わかってる。お前も達者でな。ロートス」

 マホさんは俺達より三才年上のお姉さんだ。茶色いポニーテールを結った彼女は、村でエレノアに次ぐ美人である。
 彼女はエレノアの従者として、魔法学園に同行することになったのだ。

 というのも、魔法学園に入学する生徒は誰しもが一人以上の従者を抱えるらしい。俺も今日知ったことだ。魔法学園に通うのは貴族や商家のお坊ちゃまお嬢様達がほとんどで、従者がいないと笑い物にされるようだ。
 そこで選ばれたのが、歳も近く優秀なスキルを持つマホさんだった。

「お前が『無職』じゃなけりゃ、間違いなく従者だっただろうにな。運命って野郎はいつも皮肉なもんだ」

「ですね」

「まぁ、しゃーねぇ。クソスキルを授かっちまったお前が悪い。精々人様の機嫌を損ねないように慎ましく生きてけや」

「そうしますよ。言われるまでもなくね」

 乱暴な言葉遣いだが、これでもマホさんは俺のことを気にかけてくれている方だ。
 先程の出発式では、どさくさに紛れて村の人々から何発も腹を殴られた。エレノアとマホさんは気付いていなかったようだけど。

「じゃあな、エレノア。応援してるぜ」

「うん。いってきます」

 こうしてエレノアは、魔法学園へと旅立っていった。

 案外あっさりした別れだったな。
 いいさ。俺の人生なんて、こんなもんだろう。
 どうせ入学したら会うかもしれないんだ。別に惜しむようなことでもないしな。

「さて、とりあえず時間を潰すか」

 エレノアが村を出てからは最低でも数時間は間隔を空けないといけない。うっかり追いついてしまわないようにな。

 俺はスキルを発動する。
 クソスキル『タイムルーザー』だ。

 このスキルは、体感時間を短くするという暇つぶしにしか使えない感覚操作系のスキルだ。詳しく説明するならば、一時間を一秒に感じられる、みたいなことができるという能力。周囲の時間の流れが速くなったように感じる。

 『タイムルーザー』とは真逆の、体感時間を長くする『クロックアップ』というスキルがあるらしい。それは周りの時間の流れが遅くなるというチート並みのスキルだ。

 ほんと、なんでそっちじゃなかったんだろう。
 愚痴っても仕方ない。

 俺は『タイムルーザー』を使って一秒で数時間を経過させた。
 明るかった空が、一瞬で暗くなる。

 夜の訪れだ。

「さぁ。『無職』の旅立ちだな」

 明るい未来はない。
 けど行くしかないなら、頑張ってやってみるさ。
 幸い、両親が用意してくれた資金は潤沢だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

処理中です...