真夏に咲いた恋の花

朝食ダンゴ

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窓に彼女に

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 夜、夕飯を済ませて二階の自室でのんびりしていると、窓を叩く音が聞こえた。コツコツと控えめな音が鳴っている。
 カーテンを開けると、ベランダに制服姿の七緒が立っていた。見慣れた光景だ。小学生の時、七緒の部屋と俺の部屋が互いのベランダで通じていることを発見して以来、七緒はまるで自室であるかのように俺の部屋に上がりこんでくるようになった。

「ただいまー」

 窓を開けて七緒を招き入れる。どうやら風呂上りらしく、いい香りも一緒に入ってきた。
 七緒は俺のベッドにダイブする。

「えへへー。スイちゃんの匂いだー」

 ごろごろと転がる七緒。そういう動きをされると目のやり場に困る。スカートがめくれ、七緒の白い太股が露わになったところで、俺は目を逸らした。

「なんで制服なんですか」

 本棚を見ながら聞いた。風呂に入った後に学校の制服とは、どこかに出かけるにしてもちょっと不自然だ。
 七緒はこんなことを口にした。

「学校に忍び込もうと思って」

 驚いて七緒に向くと、黒い下着に包まれた形の良いヒップが目に入り、慌てて今度は天井を見上げる。

「えーっと。ああ、学校に忍び込むんですね」

 停止した思考を呼び戻して、思う。

「なぜですか?」

 ベッドの上で衣擦れの音が聞こえる。七緒が姿勢を正したようだ。俺は視線を戻す。

「幽霊」

 俺の枕を抱いてベッドに座る七緒は、そう言った。

「幽霊、見に行こうかなって」

 いつも思うが、七緒は容姿に反して精神的に幼い印象がある。頭は悪くない、というか成績はずば抜けて良いのだが、何と言うべきか、良くも悪くも子供っぽいというか。
 そこが七緒の人気の理由の一つなのだが、その幼さからくる突発的な行動の被害を受けるのはいつも俺だ。七緒は俺と一緒に行く気満々である。

「難しいと思いますよ」

「えー。どうして?」

 うちの高校は私立大学の付属。つまり金がある。となれば、セキュリティの水準も高いはずであるし、一介の高校生が忍び込めるような所ではないだろう。
 仮に侵入できたとしても、幽霊が見つかるとも思えない。見つかるわけがない。なぜならそんなものは存在しないからだ。
 その旨を伝えると、七緒は口を尖らせた。

「つまんない」

 そう言われても。

「つまんないつまんないつまんなーい!」

 七緒はベッドの上で転げ回る。再びスカートがめくれて眼福もといはしたない光景が展開される。

「駄々っ子ですか」

 俺は天井に息を吐いた。しょうがない。

「外で待っていてください。着替えるんで」

「わ、一緒に行ってくれるの?」

 七緒ががばっと上半身を起こした。

「仕方なくですよ。あと、校舎の中には入りませ――」

「スイちゃん大好き!」

 七緒が抱きつき豊満な胸を押しつけてきた。慌てた。夏服は生地が薄いので、彼女の柔らかい感触が直に伝わってくる。

「ちょ、あの、解ったんで、いいから外に出てください」

「えへへー」

 俺は七緒を部屋の外に押し出す。

「まったく」

 彼女は自分の無邪気な振る舞いがどんな結果をもたらすのか考えたことがあるのだろうか。俺も男である。我慢するだけでもとてつもない労力なのだ。これまで耐えてきた自分の精神力を誇りたい。
 まあ、俺以外には同じことをしないところが、唯一の救いか。
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