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決戦 4/4
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「お嬢を、返してもらう!」
「傭兵風情が騎士気取りとはなぁッ!」
セスが力を込めて弾き返すと、ウィンスは高く宙に浮いた。空中で身を翻し、内陣へと軽やかに着地する。鎧の重さを感じさせない軽快な身のこなしである。
両手はびりびりと痺れていた。剣の魔力に助けられているとはいえ、セスの肉体は魔力による強化がなされていない。衝撃はそのまま伝わっている。
ただならぬ殺気を受けて、セスは咄嗟に魔導馬を発進させた。普通の馬には不可能な真横への跳躍。四半秒前にセスの首があった空間を真紅の刃が薙いでいった。至近距離に迫ったウィンスから離れるために馬を走らせる。礼拝堂は魔導馬が走り回れるほどの広さだが、不規則に散らばった椅子とその残骸のせいで自由な機動は叶わない。
「気に入らん! 貴様がその剣を振るうのは、亡きアシュテネ王への冒涜であろう!」
ウィンスの身体機能は尋常な魔法剣士のそれを遥かに凌駕していた。止めどなく迫る真紅の斬撃を、セスは紙一重のところで凌ぐ。
幸いなことに、ウィンスの攻勢は単調だった。速度と威力は並外れているが、先読みは容易い。ところが先を読んでいてさえ、セスは苦戦を強いられていた。防戦に徹し、徐々に追い詰められていく。
剣を打ち合わせる度、神々しいほどの光が炸裂する。何十と交わした剣戟の末、ウィンスの剣がセスを魔導馬から叩き落とした。床に転がり落ちたセスはウィンスの追撃を辛くも受け止めるが、膝をついた体勢では強く踏ん張ることも叶わない。
「これまでだ野良犬! 剣に驕ったな!」
「そうかよ!」
鍔競りでセスに勝機はない。だが今の姿勢から逃れるのは至難である。
壮絶な気迫で剣を押し出しさんとしたウィンスは、しかし横合いからの突進を受けて派手に打ち飛ばされた。分厚い壁が砕け崩れるほどの衝撃で激突。轟音。粉塵が舞い広がる。
突進を行ったのは魔導馬だ。セスが落馬した後も走り続けていた魔導馬は、散乱した障害物を避けるように蛇行する中、偶然にも進路上にウィンスを捉えたのだった。
「くそッ! 運の良い奴だ」
瓦礫の中から悠然と出てきたウィンスは、さも当たり前のように平然としていた。それもそのはず。魔力を帯びているとはいえ、魔導馬の装甲は防御に特化している。体当たりではウィンスが纏う魔力の鎧を貫くことはできない。
ひとまず窮地を脱したセスだが、依然として状況は最悪だ。剣を杖にして膝をついたまま、身体が動いてくれないのだ。
「無様だな」
ウィンスの瞳は燃え盛る怒りに満ちていたが、その中にほんの僅かな憐れみがあった。
「力なきは悲劇だ。理不尽に奪われ、何一つ守れず、敗北を強いられる」
荒れ果てた大聖堂に、セスの荒い息遣いが響いている。視界は霞み、力は入らず、困憊の極致にある。
「自分の姿を見てみろ。勇んで敵中に飛びこんだはいいが、今にも果てんとしている」
「ああそうだ。俺は、弱い」
これまで騙し騙し、気合と根性で耐え続けてきたが、ここに来てセスの身体は限界を迎えていた。否、限界などとっくに超えていた。自身すら欺けなくなるほどに、死神の鎌は今もセスの首筋に触れている。もはや立ち上がることさえもできない。気息は奄々とし、すでに痛みすら感じなくなりつつあった。
「だけど勝つさ」
血の滴りが、乾いた床に落ちて弾けた。
このくらい大したことはない。過去、幾度となく叩き伏せてきた多くの問題の一つに過ぎない。
「俺はお嬢を守ると決めた。だから……勝つんだよ!」
セスは猛獣の如き雄叫びを吐き出す。左手で抜いた腰の剣を杖に替えて、右手にある虹の剣を振りかざした。
刀身に纏われていただけの光が、明滅し、膨れ上がり、礼拝堂を暴れ回る。
「想いの強さだけでは、何も守ることはできん!」
セスの雄叫びを掻き消さんばかりに、ウィンスが嘶いた。それはかつて故郷を守ることのできなかった男の、心からの叫びであった。
ウィンスの振るった真紅の横薙ぎを、セスは左の長剣でいなし、同時に右の七色を突き出す。それを頬に掠めながら、ウィンスはセスの首を掴み上げた。
「ぐッ――」
苦悶の声を吐く。凄まじい膂力によって締めあげられ、セスの膝が崩れる。
「死ね」
セスの胸の中心を、真紅の剣が貫いた。
断末魔はない。肉と骨格を貫通して、臓器を破壊し、背中から切っ先を覗かせる。
停止したセスの口から、夥しい量の血が吐き散らされた。
「傭兵風情が騎士気取りとはなぁッ!」
セスが力を込めて弾き返すと、ウィンスは高く宙に浮いた。空中で身を翻し、内陣へと軽やかに着地する。鎧の重さを感じさせない軽快な身のこなしである。
両手はびりびりと痺れていた。剣の魔力に助けられているとはいえ、セスの肉体は魔力による強化がなされていない。衝撃はそのまま伝わっている。
ただならぬ殺気を受けて、セスは咄嗟に魔導馬を発進させた。普通の馬には不可能な真横への跳躍。四半秒前にセスの首があった空間を真紅の刃が薙いでいった。至近距離に迫ったウィンスから離れるために馬を走らせる。礼拝堂は魔導馬が走り回れるほどの広さだが、不規則に散らばった椅子とその残骸のせいで自由な機動は叶わない。
「気に入らん! 貴様がその剣を振るうのは、亡きアシュテネ王への冒涜であろう!」
ウィンスの身体機能は尋常な魔法剣士のそれを遥かに凌駕していた。止めどなく迫る真紅の斬撃を、セスは紙一重のところで凌ぐ。
幸いなことに、ウィンスの攻勢は単調だった。速度と威力は並外れているが、先読みは容易い。ところが先を読んでいてさえ、セスは苦戦を強いられていた。防戦に徹し、徐々に追い詰められていく。
剣を打ち合わせる度、神々しいほどの光が炸裂する。何十と交わした剣戟の末、ウィンスの剣がセスを魔導馬から叩き落とした。床に転がり落ちたセスはウィンスの追撃を辛くも受け止めるが、膝をついた体勢では強く踏ん張ることも叶わない。
「これまでだ野良犬! 剣に驕ったな!」
「そうかよ!」
鍔競りでセスに勝機はない。だが今の姿勢から逃れるのは至難である。
壮絶な気迫で剣を押し出しさんとしたウィンスは、しかし横合いからの突進を受けて派手に打ち飛ばされた。分厚い壁が砕け崩れるほどの衝撃で激突。轟音。粉塵が舞い広がる。
突進を行ったのは魔導馬だ。セスが落馬した後も走り続けていた魔導馬は、散乱した障害物を避けるように蛇行する中、偶然にも進路上にウィンスを捉えたのだった。
「くそッ! 運の良い奴だ」
瓦礫の中から悠然と出てきたウィンスは、さも当たり前のように平然としていた。それもそのはず。魔力を帯びているとはいえ、魔導馬の装甲は防御に特化している。体当たりではウィンスが纏う魔力の鎧を貫くことはできない。
ひとまず窮地を脱したセスだが、依然として状況は最悪だ。剣を杖にして膝をついたまま、身体が動いてくれないのだ。
「無様だな」
ウィンスの瞳は燃え盛る怒りに満ちていたが、その中にほんの僅かな憐れみがあった。
「力なきは悲劇だ。理不尽に奪われ、何一つ守れず、敗北を強いられる」
荒れ果てた大聖堂に、セスの荒い息遣いが響いている。視界は霞み、力は入らず、困憊の極致にある。
「自分の姿を見てみろ。勇んで敵中に飛びこんだはいいが、今にも果てんとしている」
「ああそうだ。俺は、弱い」
これまで騙し騙し、気合と根性で耐え続けてきたが、ここに来てセスの身体は限界を迎えていた。否、限界などとっくに超えていた。自身すら欺けなくなるほどに、死神の鎌は今もセスの首筋に触れている。もはや立ち上がることさえもできない。気息は奄々とし、すでに痛みすら感じなくなりつつあった。
「だけど勝つさ」
血の滴りが、乾いた床に落ちて弾けた。
このくらい大したことはない。過去、幾度となく叩き伏せてきた多くの問題の一つに過ぎない。
「俺はお嬢を守ると決めた。だから……勝つんだよ!」
セスは猛獣の如き雄叫びを吐き出す。左手で抜いた腰の剣を杖に替えて、右手にある虹の剣を振りかざした。
刀身に纏われていただけの光が、明滅し、膨れ上がり、礼拝堂を暴れ回る。
「想いの強さだけでは、何も守ることはできん!」
セスの雄叫びを掻き消さんばかりに、ウィンスが嘶いた。それはかつて故郷を守ることのできなかった男の、心からの叫びであった。
ウィンスの振るった真紅の横薙ぎを、セスは左の長剣でいなし、同時に右の七色を突き出す。それを頬に掠めながら、ウィンスはセスの首を掴み上げた。
「ぐッ――」
苦悶の声を吐く。凄まじい膂力によって締めあげられ、セスの膝が崩れる。
「死ね」
セスの胸の中心を、真紅の剣が貫いた。
断末魔はない。肉と骨格を貫通して、臓器を破壊し、背中から切っ先を覗かせる。
停止したセスの口から、夥しい量の血が吐き散らされた。
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