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役割分担も出来ないヤツをパーティーに入れたくない
しおりを挟む小さいヤツに甘いのの作り方を教えたら、一足先にだいぶぬるい風呂に入って昼飯買ってきた。
「作ったから飲みなさい」
玄関先で受け取ったコップには半分程の液体が入ってた。それ持ってずっと待ってたのか?
「もう少し煮た方が良いな。低い温度で時間をかけて作るともっと甘くなるぞ」
「はぁ~、砂糖が欲しいわ」
「買取価格を聞いたら食べたくなくなるぞ」
「聞こうじゃない」
「糖の実1個4500ヤン」
「聞かなきゃ良かったわ!」
「昼飯にするからみんなを集めてくれ」
食堂に行くとみんな居た。甘いの飲んで空腹を耐えていた、と言うより甘い汁に夢中になっているようだな。
「おかえりゲイーン。甘いのもっと作ろうよ」
「全力でお手伝いします」
「昼飯は要らないのか?」
「ご飯は別腹だよ!」
熊が牛みたいな事言ってる。空腹でおかしくならない内に、食事の準備に取りかかろう。
「明日は休みで、明後日への準備をするよ」
食事を終えて、甘いのを作る鍋を火にかけたら水を飲み飲み明日の予定を伝える。
「ダンジョンで寝るんだね?」
「そうだ。食事も用意するし、荷物が増える。お前ら二人にはスキルを買ってもらう」
「了解です」
「また借金を増やすのね」
「完済後も絶対役立つマジックバッグだ。攻撃にも野営にも使える飛んでもスキルだぞ?借金してでも買っておけ」
「確かにアレは恐ろしい性能でしたね」
「で、使い方教えてくれるんでしょうね?」
「当たり前だ。ゴブリンをやってランクも上げて貰うからな。いずれ借金返して独り立ちした時に生活能力がなけりゃ、俺達がした苦労が無駄になるもんな」
「何で嫌いな相手にそこまでするのよ?」
「ギルドへの貢献になるからだ。お前らがランクを上げてまともな冒険者になれば、育てた俺達の貢献も上がる」
「ゲインの場合、そんな事しなくても引退後は安泰っぽいけどねー」
「とは言えここで見捨てたら評価も下がるってなー」
「なるほど。ゲイン様のお役に立てるよう、誠心誠意尽くします」
「早く借金完済してあんたから違う世界で生きてやるわ。やるなら儲かる仕事しなさいよね」
「ランク上げが先だ。ゴブリン殺って、野盗を殺って、装備を揃えて護衛を受けて。Bランクになったら儲けさせてやるよ」
「今はゴブリン前の貢献稼ぎってトコだね。採取するなら自前のマジックバッグは欲しいねー」
「そこでマジックバッグを買う話に戻るのね。買うなら借金で買ってよね」
「それは安心しろ。高いモンでもないしな」
「ゲインに言われるまですんごく敷居高かったけどね~」
鍋の世話を奴隷達に任せて、俺は自室で帳簿付けとチップの確認。今回の日当は手持ちにさせたので、残るは今日の食費とチップ代の分配だけだ。
採れたてのチップを取り出して、さて、何が描かれてるかな?
ウルフ 19×5 95ヤン
ナイフ 18×5 90ヤン
短剣 12×5 60ヤン
脚 8×5 40ヤン
石 6×5 30ヤン
火 6×2500 15000ヤン
枚数は大した事ないので確認はすぐに終わったよ。石と火はミミックの箱の中に入ってた奴だな。ウルフは使わなそうだし、短剣は既に使わせたから置いといて、ナイフと脚と石と火は全員に使わせておきたい。
チップを持って下に降り、キッチンに向かうと三人並んで鍋をかき回してた。
「お前ら、味見しながら作ると無くなっちまうぞ?」
「え、あ、ゲイン…」
「図星か。水飴が高かったり売ってない理由が理解出来たようだな」
「魔性の食べ物ですね…」
「ばか。それ冗談で言ってるのよ」
「口の中が甘酸っぱくなってるだろうから口直しにこれを齧ると良い」
「何味…ってチップじゃん!」
「炊事するのに必要だから、全員に火のチップを。奴隷のお前らにはナイフ、脚、石も使ってもらう」
「借金を減らさないようにするって訳ね」
「誤差でも足を早くして貰いたいんだ。お前だけに使わせると不公平だろ?既に使用済みだったり、使わなくても一発必中だってんなら良いが、そうじゃないなら使っとけ」
「1枚いくらよ?」
「火が2500、他のは5」
「葉っぱ3束ちょっとじゃない!ぼったくりよ!」
「同じ値段で返済に当てるからぼったくりじゃないよ」
「あたいは2500ヤンね、お釣りちょーだい」
「毎度ありがとうございます。またのご利用、お待ちしております」
「仲間内で商売してせこくないの?」
「お前らの為だよ。なあなあで済ませて丼勘定されたら嫌だろう?」
「お心遣い感謝に耐えません」
「…わかったわよ、買うわ」
「お前らの分は帳簿に付けるだけだから今払わなくて良いぞ。まだ稼がせてない訳だし」
「いくら稼いだら稼がせた扱いなのよ?」
「んー、100万かな」
「一気に返済出来るわね…」
「懐にも残りますね」
「独り立ち出来る技術と知識を身に付けたらすぐにでも稼がせてやる。今は生活能力を上げてるようなもんだしな」
「ご飯とか、作った事ないもんね」
「鍋を火にかけてお玉でかき回すのも訓練の一環でしたか!」
「買うのはマタル粉だけで済むし、安上がりな訓練だねー」
「じゃあ、帳簿付けの続きするからおやすみー」
「あーい、おやすみー」「お休みなさいませ」「おやすみ」
部屋に戻って帳簿を付ける。10255ヤンが俺の買取りになり、あいつらの借金が687045に減った。
あいつら、どれだけ稼げたのか理解出来たのかな?球拾いとランタン持ちで日当2万なんてありえないんだけど。戦いだせばそのうち分かるか。寝よ寝よ…。
夕方になり、タララが起こしに来たので夕飯にしよう。とは言え買ってないので今日は外に食べに行く事にした。タララが限界だったのだ。
「みんなでご飯来たの初めてじゃない?」
お腹に食べ物が入って気を取り直したタララがそんな事を言うが、仮面の2人に外で飯を食わせるのは出来れば控えたいと思ってる。仮面の意味が無いからな。壁際のテーブルに陣取り、顔が見られないように壁に向けて座らせている。
「自炊出来るようにならないとなー」
「あんた、料理出来るでしょ?」
「みんなが出来なきゃ意味が無い。ただ、今自炊が出来ないのは時間が無いからなんだけどな」
「ならメイドでも雇うしか無いわね」
「雇った事ないからわからんな」「あたいもー」
「雇ってはいましたがお給金までは把握しておりません」「…そうね」
「やらせる事と言っても、料理と風呂焚きくらいだろ?」
「掃除とか、洗濯は?」
「庭の手入れもあるわよ?家では庭師にさせてたけど。あの家、すぐに草薮になるわよ?」
「子供の頃は鎌持ってチョリチョリやらされてたな」
「ならあんたやりなさいよ」
「ならみんなは何をするんだ?お前ら風呂焚きしかできないけど」
「ゲイン…、メイドと庭師、雇わなきゃダメ?」
「メイドについては置いといて、庭掃除してくれる人は月1くらいで呼んでも良いんじゃないかな。飯はまだ買えるし、洗濯も頼めるからな。問題は掃除だけだ」
「明日になったらマーローネさんに聞いてみるよ」
「なら俺はスキル屋に寄ったら石炭拾いに行く」
「我らは如何いたしましょう?」
「明日のお前らは何の役にも立たないからなぁ」
「どう言う事よ」
「2人だけで外に出せない。買い物に行かせられないしクエストも受けられない。俺に付いて来ても石炭拾いをする技術がない。料理を作る材料も掃除をする道具もない。風呂は帰って来てからでも沸かせる。タララに同行しても特にやる事がない。異論はあるか?」
「我らに生活能力が無い事を痛感します」
「だからお前らは休みだ。自分の服でも洗濯しとれ」
「普通に休みだって言えば良いのに」
「昼に言ったはずだが?明日は休みで明後日の準備をするって」
「ならさ、あたいと一緒に買い物しようよ。食材とか、買うでしょ?」
「一張羅が乾いたら良いんじゃないか?タララも洗濯しなきゃだろ?」
「ね~え~ゲイン~。二人の洗濯物も乾かしておくれよぉ~ん」
甘えた声が下手な子だ。どうしても連れ出したいようだが、折角の休みなんだから寝て過ごしゃ良いのにって思うんだ。まあ、コイツらがそれで良いなら気にしない事にして、洗濯は個別に、乾燥はみんなでする事になった。
翌日、雨が降った。石炭はタララの持ち分があるから10日は持つとして、洗濯は風呂の残り湯でもできるし乾燥は魔法だから問題ない。問題なのは飯の調達だな。ポンチョ着て買いに行くのは面倒だなー。
「ゲイーン、ご飯食べよー?おーきーれー」
「起きてるよ」
タララが起こしに来たので食堂へと降りて行くと、みんな揃って食事の支度を済ませていた。
「本当にやる事無くなっちゃったわね」
「休むのも仕事のうちだ。洗濯したら好きな事したら良い」
「なら甘いの作るわ」
「味見で無くならないようにな」
スープなしの朝食を済ませ、女達は風呂場に洗濯しに行った。俺は自室で、魔法で洗おう。
部屋に入り、置物の翡翠で開かないようにしたら全裸になって皮ズボンを履く。全裸を見られるよりはマシだ。ベッドも洗ってしまおうかと迷ったが湿る程使ってないと思うので今回は見送り。板の上をキレイに片付け洗濯物を積み上げた。服3セットとタオルとパンツ、大した量じゃない。一気にやってしまおう。
「ウォッシュ!」
板をビシャビシャにして洗濯物は洗われ、床も敷物もビシャビシャにされた。洗濯屋のおばちゃんが箱に入れて洗濯してるのはまさかこのためか?桶で洗った時はここまで濡れなかったし、可能性はあるか。検証したいけど今回は後回し。もう洗っちゃったしね。
湿った板に洗濯物を伸して並べてデリートウォーター。床と敷物は乾かなかったので更に1回使って床を乾かした。布団とマットも乾いた気がする。
早速乾燥した服に袖を通し、残りを畳んでいると、大きい奴隷がドアを叩いた。
「ゲイン様、こちらも洗濯が終わりました。乾燥をお願いします」
「わかったー」
板を回収し、大きいのを引き連れて風呂場に向かうと、ずぶ濡れの熊と子供がいた。
「着てる物ごと洗ったのか?」
「洗ってたら濡れただけよ!」
「俺は濡れると思って着てる物全部脱いで洗ったよ」
「次回は是非とも拝見させてください」
「ポンチョ貸してやるから今着てるのも脱いで洗っとけ。タララはマントあるだろ」
自室にとんぼ返りして、ポンチョを持って降りて行く。浴室の中では2人が裸で洗濯してるだろうし、大きいヤツを呼んでポンチョを渡し、居間で待つ事にした。
「雨具、か…」
奴隷達の装備で雨具はマントだけだ。森に行くなら、防水性のある長靴くらい用意した方が良いだろう。安くない買い物だし、晴れて足元が良くなるまで街の外に出ないと言う選択肢もある。買うかどうかは二人に聞いてからでも良いな。それより、雨が止むのが先なんだけど。
マットの上でごろ寝していると、漸く洗濯が終わったようで、タララ達が迎えに来た。
「ゲイン、起きてる?乾燥してー」
「デリートウォーターはお前でも使えるだろうに」
「だってー、石炭の時も2回やんないと乾かなかったし。あたい魔力尽きて死んじゃうよぉ」
「2回でも乾き切ってなかったけどな。そうなると、星1つで3倍の効果があるのか。MPだと大体4倍か」
「お値段100倍だけどねー、ねー早くー。裸にマントなんて恥ずかしいよ~」
そう言えばタララと小さいのは街に出没すると変態やら痴女と呼ばれる格好をしていたんだっけ。よく見たらマントから伸びた脚は生脚だ。
「ゲイン、見たいの?」
「5人になっても良いならな」
「引退かぁー」
「家事は任せたぞ?」
「まだまだ引退には早いよね!」
俺の手を取り風呂場に連れてくタララだが、ちょっと中身が見えちゃったぞ?浴室に行くと大きいヤツまで裸マントだった。
「なんでお前まで変態的な格好してんだ?」
「それはもちろん、見ていただくためです」
「あたいは見せてないんだから、ダメだかんね」
タララがトラウマ顔で大きいヤツを威嚇する。見えちゃった事は内緒にしとこう。
みんなの洗濯物を板に伸して乾燥させたいんだが、何故か下着を出し渋る3人。
「ゲインってさ、そーゆートコ、分かってないよねー」
「見せるのが恥ずかしいなら服に挟んどきゃ良いだろ?それに、女は服じゃない、中身だ」
「良い風にもいやらしい風にも聞こえるわね、それ」
「やはりお見せするべきですね」
「見せないわよ!」
「見させないよ!?」
3人でゴソゴソ下着を隠し、やっと作業ができるよ…。デリートウォーターの掛け声と共に、服から板から浴室の床までカラカラに乾燥させた。
「ねぇ。効果範囲、広くね?」
「足の裏まで乾いたわよ」
「廊下にビタビタの足跡付けなくなって良かったじゃないか」
「さすがゲイン様です」
「着替えたら甘いの作るからキッチンに集合な」
乾いた衣類を持って自室に向かう3人を見届け、俺は一足先にキッチンへ向かう。板も回収しとかなきゃ。
火を熾して甘いのを作っていると、ゾロゾロと甘味に飢えた女達が集まって来た。
「後は弱火にしてかき混ぜ続けるだけだから」
「私がやるわ。今度こそすっごい甘いの作ってやる」
「3人共、味見はするなよ?ねっとりするまで混ぜたら教えてくれ」
「え~、ちょっとだけならいーじゃーん」
「タララ」
「タララ様、ここは引くべきです」
「私が味見できないんだから我慢しなさいよね」
「うぇ~ん、みんなしてそんな事言う~」
「ハグしてやるから我慢しろ。試したい事もあるしな」
「ゲイ~ン」「ゲイン様ぁ~」
なぜか大きいヤツまで抱き着いてきた。
「他所でやってよ」
鍋の世話を小さいのに任せて居間に向かった。左右の腕に絡み付かれてとても歩きにくい。
「ささ、ゲイン様、どうぞこちらへ」
居間に入ると流れるように自然な振る舞いで膝枕させようとしてくる。
「ゲイン、あたいの膝枕の方が良いよね?」
膝枕で寝かせられる事は確定事項なのか?2人して膝をポンポン叩いて俺を寝かそうとするが、そんなの膝が重いだけだろうに。
「タララはハグするって言ったろ?」
「ゲイ~ン」
敷物に横たわる俺に、タララが重なって来た。久しぶりに柔らかい感触だ。
「裸マントの方がよろしかったですかね」
「ゲインの事だから、そんな事すると絶対逃げるよ?」
「いえ、このレギンスですと補強部分が当たりますでしょうから」
「部屋着着て来れば良かったのに」
「雨が上がったのでいつでも出掛けられるようにと…」
そう言われて開け放たれた窓の外を見やると、雨は止んで晴れ間が見えていた。
「晴れてない!まだしやしやしてるからー」
腕と脚をがっちりホールドして、タララが駄々をこねる。俺が動けないのを見て頭を撫で回して来る大きいヤツ。
「タララはギルドに行くんだろ?俺は食料を買い出しに行く。マジックバッグを買わせるからお前と小さいのも連れて行く。みんなで行くから離せ」
「あと5オコン…」
「昼飯に串焼き買おうかと思ってたのになぁ~」
「くぅ~っ!」
大いに悩め。熱々の串焼きを頬張るイメージを思い描け。そして食欲に負けろ。10ピル程悩んだ結果、負け犬ならぬ負け熊となったタララから解放された。
「皮装備でここに集合な」
俺はキッチンへ向かい、鍋の世話をする小さいのに声をかける。
「私は残るわ。まだとろとろし始めたばかりだもの」
「どれ、見せてみろ」
鍋の中身をほんの少しスプーンで掬い、息を吹いて冷ます。かなり緩いが水飴だ。味も劇的に甘くなっている。
「よくやったな」
「まだまだよ」
「後はタララに一仕事してもらうだけだ。冷ましておこう」
「味見させてよ!」
「もうちょい待つのだ。出かけるから準備しろ。後俺のポンチョ返せ」
「湿ってるから干してあるのよ…」
「魔法で乾かせられるんだから気にすんな」
竈の火を落としたら、装備を着込んで居間に集まり、みんな揃って外に出る。近い順だと食料からだが、まずはブラウンさんのチップ屋に向かう。
「また借金が増えるのですね」
「有用なのは見たからこれは必要経費よ。その分元は取るわよ!?」
「いらっしゃい友よ。本日は賑やかですな」
「こいつらに袋を」
「ほう。例の2人組ですな?大事になさるおつもりで?」
「逆だよ。放り出しても生き延びられるようにしてるだけ」
「情深い友を誇りに思いますぞ。しばしお待ちくだされ」
ブラウンさんがカウンターの中をゴソゴソしてる。また1000枚セットを買わせようとしているようだ。ドンッとお置かれた1000枚セットに刺さった2枚の袋のチップ。7000ヤンでお買い上げした。
「ほれ、2人共使え1枚1000ヤンだ」
「借金に入れといてよね」
「必ずお返し致します」
揃って破いてもくもくしたら、ブラウンさんからマジックバッグについての注意事項を聞いて、試しに自分のカバンを収納したりして店を後にした。
「これであんたに近付いたわ!」
「そうだな。葉っぱをキレイに、しかも大量に提出できる冒険者はそうは居ない。値崩れに気を付けて売り捌くんだぞ?」
「そうなりますと、同じ物ばかり採っていてはいけませんね」
「その通りだ。需要のあるなしはギルド職員が教えてくれるが、そいつ個人が欲しがってる物を推してくる場合もあるから、できれば複数から聞いた方が良いな」
「んで、次はどこ行く?」
「話に出たしギルドに行こう」
「メイドさんかぁ~」
「メイドより、定期の庭師だよ」
昼前のギルドに、冒険者の姿はまばらだ。なので入ってすぐに見つかってしまう。手を振る彼奴に手を振り返すタララ。
「マーローネさん、ちょっと聞きたいんだけどさぁ」
「惚気話以外なら聞きますよ?」
「あたいらって家を空けるのが多いじゃん?掃除とかしてくれるメイドさんが欲しいって思ったらどうしたらいのかな?」
「ゲインさん?」
なぜ俺に聞くのか?多分、タララに説明させると要領を得ないのだろうな。
「料理は買うから問題無いが、洗濯と掃除にかける時間が惜しい。そこまで近々で雇いたい訳じゃないから参考までに教えてくれ」
「ゲイン様は貴女の考えてる方ではないはずですよ」
「そうですね、勘ぐり過ぎました。申し訳ありません」
よく分からない謝罪をスルーし、定期で雇える庭師についても聞いてみた。どうやらこれらも商業ギルドの扱いらしい。この件は後日改めて商業ギルドに行く事とした。
「行かれる前は同行しますので声をかけてくださいね」
「なんで?」
「冒険者は舐められますよ?信用も薄いですから」
そう言われたら断れない。俺より父さんの名前を知ってる人の方が多いくらいだしな。
ギルドを出たら、左へ左へ直営の宿へ。ソーサーと干し肉を買い付ける。ソーサー12食分で1200ヤン、干し肉8食1600ヤン也。
その足で食料品店に向かい、野菜と肉と香辛料、そしてマタルとマタル粉を買う。
根物に葉物、実物はまだ時期じゃないので干した物を買った。肉は焼肉とスープに入れる用で、オークの腿肉を骨付きで買う。全部で14000ヤン。
オークは豚っぽい顔をした二足歩行のモンスターで、ゴブリンなどに混じって棲息している。デカくて強いが遅いので、単発なら囲んでボコボコにするのだが、うろちょろするゴブリンやコボルトがいると難易度が跳ね上がる厄介な敵だ。サルよりはマシだが。
「おや?あンたファルケさんトコの」
声をかけてきたのは村々を回って野菜の仲買をしてるジョニーさんだった。俺のいた村にもよく来てたので、父さんと話をするのを近くで聞いたりしてたんだ。
「お久しぶりです」
「すっかり冒険者してるようだね。所でファルケさん、最近こっちに来てないみたいだけど、何かあったんかね?」
「父さんが?なら糖の実でも採ってるんじゃないですか?」
「この間、ウサギノミミモドキの良いヤツが入って来たけど、それっきりなんだよね。直接売りでなくギルドに納めてたみたいだけど」
「どっかの貴族が甘いの食べたーいって駄々こねてるんじゃないですかね?会ったら野菜売れって言っときますよ」
会話もそこそこに、品物を買いつけて店を出た。それにしても、ギルドに納めたウサギノミミモドキ。それは俺の卸したヤツだ。となるとその頃からこっちには来てない事になる。街には5日に1度は来ていたので何かあるのかも知れないな。
「ゲイン、難しい顔してる」
「そりゃあなぁ。5日に1度来てたのがパッタリ来なくなれば心配もするさ」
「糖の実、採ってるんでしょ?私にも融通しなさいよね」
「あれ半分嘘だ」
「糖の実を採ってるのは真実ですね?」
「そうだ。けどこんなに来てないのはおかしい。糖の実採ってても卸しには来れるからな」
「あたい、ゲインの村行ってみたい!」
「俺達が泊まる家はないぞ?冒険者、テントで寝てたし…って、作れば良いのか」
「屋根、無いけどね。ひひっ」
「時間があれば作れるよ。みんなが行きたいなら行っても良いぞ?野営と移動、野外での戦闘の練習になるだろうし」
「あたいさんせ~」
「私もご一緒させていただきます。ご両親に会ってご挨拶しなければ…」
「お金にはなるの?」
「ならんな」
「糖の実次第で行くわ」
「俺も糖の実欲しかったし、行くか。ちなみに村の近くの糖の実は、採ると百叩きだからダメだぞ?」
「じゃ~明日出発で!」
「ダンジョンの準備が遠征になっちまったな」
串焼きを買って家に戻り、腹を満たしたら今夜と明日からの準備に取りかかる。
まずは夕飯。骨付き腿肉を骨と肉に解体する。皮を剥ぎ、肉に切込みを入れて骨を外す。塊の肉から今夜使う焼肉とスープの分を切り出したら、塩を振って下味を付ける。使わない方には塩を擦り込んで下味と共に保存を良くしておいた。焼肉はこれでよし。
残った骨は鉈の背で叩き折り、鍋に水を入れて火にかける。面倒だから具も入れちゃおう。スープ用に細かく刻んだ肉と野菜とマタル。そして香草等を鍋にぶち込んだ。アクを取るのは大きいヤツに任せよう。後は味付けだけだしな。
「私、待ってるの!」
小さいヤツがコップを持って待っている。明日の支度は…と言ってもコイツらにはそんなに持ち物無いもんな。タララが着替えて降りて来たので試したかった事をやってもらおう。
「タララー、ちょっと良いか?」
「なーにー?」
「手伝ってくれ」
小さいヤツのコップにとろとろになった甘いのを注ぐ。まだ飲むな?まだだぞ?
「どしたの?飲んで良いの?」
「鍋の中身にデリートウォーターをかけてくれ」
「え?あぁ、うん…」
タララの魔法が鍋の中の液体を減らしていく。覗き込んでた小さいのが目を剥いた。
「中身が減ってるじゃない!」
「やれって言うからやったけど…、せっかく作ったのに、勿体ないじゃん」
「失敗したら残念でした、だな」
お玉で鍋に残った液体を掬うと、ねっとりとした液体に変わっていた。
「ネトネトになったね」
「どうやら成功したみたいだ」
「飲めないじゃない!」
「食うんだよ」
自前のスプーンでお玉に乗ったネトネトを掬って食ってみる。すげー甘い。
「コップとお玉、どっちが甘いか比べてみれ」
「ちょっと待ってなさい!?」
バタバタと出て行ったと思ったら、スプーンを持って帰って来た。スプーンでたっぷり掬ったら、チビチビぺろぺろ味見する。
「何よこれ…。今まで飲んでたのが泥水みたいじゃないの…」
泥水は酷いだろ。
「あたいも味見ぃ~」
いつの間にかスプーンを持って来たタララも、ネトネトを掬ってかぶり付く。
「んふ~~、んむ~ん」
美味いらしい。俺はそっと鍋に蓋をした。
「ゲイン?」
「まさか、独り占めする気!?」
「ソーサーに塗って食べたら美味いだろうなぁ」
「あ…」
「ダンジョンや遠征先で食べたら心も体も休まるだろうなぁ」
「あう…」
「新しい鍋で作って、この鍋一杯に作って欲しいなぁ」
「わかったわよ!作る!作るから夕食には塗って食べるわよ!?」「あたいも!」
「そして私には味見をさせて頂けないのですね…しくしく、しくしく…」
あからさまな嘘泣きだけどお玉ごと差し出したよ。アヘアヘしながらお玉舐めてた。後でちゃんと洗っておけよ?
大きいヤツがお玉を舐めるのに夢中なのでスープの調理を交代する。スープから骨を取り出し、味見をしてスープの完成だ。お鍋一杯に作ったが、食欲旺盛な女共と俺で2回分の量なので明日の朝には無くなるだろう。
俺も着替えて明日の支度でもするか。部屋に戻って着替えたら、持ってく物を集めてく。
装備は着て行くので良いとして、金にタオルにギルド証、筆記用具と獣皮紙を布カバンに入れる。
食器とカトラリー類は濡れるので草編みカバンに入れる。
ランタンと油と着火セットは草編み2号に入れて、全てを背負いカバンに仕舞った。
寸胴鍋の乗ったままの竈と共にマジックバッグに収納し、これで容量は5つ。俺の分はこんなものだろう。
石炭が無いのでキッチンに降りて行くとやっぱり味見会になっていた。
「あ…、いひ…、ごめん」
「味見くらい良いじゃない!」
「抗えませんでした。申し訳ございません」
「予想はしてたよ。タララは人の話聞かないからな。けどな、人に任せて裏切られるのが1番傷付く」
「ごめんよゲイン、ちょっとのつもりだったんだよ?」
「そうか。なら今度敵と戦う時、俺はちょっと裏切ってお前らに石当てるから」
「何なのよ!あんたこんな程度の事で私達を殺そうっての!?そんなに嫌なら任せなきゃ良いじゃない!」
「そんなだから分担して家事が出来ないんだよ。全部俺がやるんじゃねーか。お前は命令されなきゃ仕事もこなせないのか?だったら命令してやる。今から歩いて元の家に帰れ」
「く…、帰るわよ」
「ダメだよゲイン!あんたも!」
「主の命令は絶対だ」
「アンテルゼ、謝って!」
「謝ったって!帰るもんは帰るのよ!」
「ゲイン様!今のご命令は奴隷を殺す事と同義です。何卒お考え直しください!お願いします!」
「ならお前、3人が家事を分担して出来るようにしろ。命令がなくても仕事を全う出来るようにしろ」
「します!しますのでアンテルゼをお許しください!!」
「小さいヤツ、お前への命令を撤回してやる」
「私、謝らないから」
「あんた、そんな事言っちゃダメだよ」
「タララは今から掃除道具と食事用テーブル。居間用にローテーブルとソファー買ってこい」
「あたい、1人で?」
「買い物くらい行けよ。嫌なら今度こそ解散だ。風呂に入って来ようとしたり露骨な誘惑されるの本当に嫌だったんだ。良かったな、奴隷共も解放してやるぞ」
「それがあたいへの罰、なんだね?」
「そう思うならそうなんだろ。人がどう思うかなんてこっちじゃ決められないしな。今夜は泊まるがお前次第で俺は明日街を出るから。覚悟して買い物して来い」
踵を返して自室に篭って不貞寝した。
現在のステータス
名前 ゲイン 15歳
ランク C/F
HP 100% MP 62%
体力 D
腕力 E
知力 E
早さ D-
命中 E-
運 D
所持スキル
走る☆☆ 走る☆☆ 走る 走る 走る
刺突☆☆ 刺突
硬化☆☆ 硬化 硬化
投擲☆☆ 投擲
急所外物理抵抗☆☆
飛躍☆ 飛躍
木登り☆
噛み付き☆☆ 噛み付き
腕力強化☆ 腕力強化 腕力強化
脚力強化☆ 脚力強化☆ 脚力強化
知力強化☆
体力強化☆ 体力強化 体力強化
ナイフ格闘術☆ ナイフ格闘術
棒格闘術☆
短剣剣術☆
避ける☆
魅力☆
鎧防御術
察知
探知
マジックバッグ
魅了
威圧
水魔法☆ 水魔法
ウォーター
ウォッシュ
デリートウォーター
ウォーターバレット
ウォーターウォール
ボーグ
土魔法☆
ソイル
サンド
ストーン
火魔法
エンバー
ディマー
デリートファイヤー
所持品
鉄兜
肩当
胸当
腰当
上腕当
脛当
鉄靴
革製ヘルメットE
革製肩鎧E
革製胴鎧E
皮手袋E
皮の手甲E
混合皮のズボンE
皮の脚絆E
耐水ブーツE
耐水ポンチョE
草編みカバンE
草編みカバン2号
布カバンE
革製リュックE
木のナイフE
ナイフE
剣鉈E
解体ナイフE
ダガーE
革製ベルトE
小石中465
小石大☆450
石大☆20
冒険者ギルド証 5980269→5952269ヤン
財布 銀貨14 銅貨6
首掛け皮袋 鉄貨31
冊子
筆記用具と獣皮紙
奴隷取り扱い用冊子
寸胴鍋
お玉
コップ
皿
カトラリー
竈
五徳
木ベラ
籠入り石炭0(貸出中)
洗濯籠
多目的板
蓋の無い箱
敷物
ランタン
油瓶0.6ナリ
着火セット
翡翠特大
中古タオル
中古タオル
中古パンツE
パンツ
ヨレヨレ村の子服セット
サンダル
革靴E
街の子服AセットE
街の子服Bセット
奴隷
エリモア
アンテルゼ
スキルチップ
ウサギ 3022/4391
ウサギS 0/1
ウサギG 0/1
ハシリトカゲ 2056/3166
ハシリトカゲS 0/1
ハチ 1742/2859
ハチS 0/1
カメ 2000/3459
カメS 0/1
ヨロイトカゲS 0/2
石 4/1861
石S 0/1
スライム 1023/2024
鳥? 213/1360
トンビS 0/4
サル 715/857
ウルフ 19/1070
ワニS 0/1
蝶 0/204
花 0/161
腕 440/541
腕S 0/1
腕G 0/1
脚 549/650
脚S 0/101
脚G 0/1
頭 475/576
体 422/523
体S 0/1
体G 0/1
棒 526/627
ナイフ 128/520
ナイフS 0/1
短剣 12/232
鎧S 0/1
袋S 0/1
水滴 157/394
水滴S 0/1
立方体 175/275
火 3/4
魅了目S 0/1
威圧目S 0/1
頭三本線S 0/1
頭三本線G 0/1
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