11 / 53
ダンジョンってそんなにポロポロあるものかのか?
しおりを挟む目が覚めて、まだ暗く、馬の合唱で二度寝もできず、顔を洗うため厩に降りた。
「おはようお前達ー」
飼葉をもりもり、水をぐびぐびした口で俺をべろんべろん。早く顔を洗わねば…。
「おはようゲイン。涎と飼葉で酷い顔だぞ」
「おはようございます。村では可愛いって言われてたんだけど」
「寝ぼけてるな?顔を洗うならあの桶使って良いぞ」
なでなで行脚を1周したら、顔を洗って部屋に戻る。俺も朝飯食べなきゃな。暗いので察知と探知で辺りを見ながらベッドまで戻ると、行きに蹴散らしてしまったチップを見て心折れそうになる。後でまた整頓しなければ。
ソーサーと干し肉を齧りながら、今日の予定を思案する。頑張れば6つのスキルを星2つに、2つを星1にできるだけのチップがある。もちろん1日じゃ無理だけど。けど別に欲しい物があるので今日は買い物に行こうと思う。
明るくなるまで暇なので、星が付くスキルを取得してしまおう。
スキル : 避ける☆
避ける : 攻撃を避ける為のスキル。速度が少し増し、無駄な動きを少し抑える。
スキル : 魅力☆
魅力 : 自身を魅力的にする為のスキル。運と魅力が少し増し、無駄な動きを少し抑える。
白チップの中でもレア度の高いと思われるこれらに星が付いたのはデカいと思う。いろんなスキルで無駄な動きを抑えてるけど一体どれだけの無駄を省けているのだろうか。この考えている時間こそきっと無駄なんだ。明るくなったし装備を整え買い物に行こう。
「こんにちはー」
「いらっしゃい。家具の見積もりかい?」
最初に訪れたのは家具を製造販売してる建具屋さんだ。カウンターの席に座って受付してるおばちゃんに板を買いたい事を伝えた。
「へぇ、魔法で乾燥ねぇ」
「桶に入れたままやったらこの通りシワシワになっちゃってね」
「ふむ、それで板に伸して乾かす、と…。だったらアクの少ないヤツが良いね。大きさは1.5の1ハーン、厚みは1ドンもあれば良いかね?」
「それでお願い。ダメでも棚にできるから無駄にならないよ」
「そうかい、ちょっと待っといで」
板切れにサラサラと条件などを書いて、奥にいる若いのに声をかけると板切れを持ってさらに奥へと走ってった。品物を取りに行ってるのだろう。戻って来たおばちゃんと、普通の洗濯の仕方と魔法での洗濯の仕方を情報交換しているうちに若いのが板を持って帰ってきた。大きさも厚みも良さそうな立派な一枚板で、普段はテーブルとしても使えそうだ。
3000ヤン、値段も立派だ。脚が付いて縁を彫って、焼きでも入ったら3倍はいくなこれは。ギルド証で払えて良かった。お礼を言ってお金を払い、マジックバッグに収納して店を出た。
次にやって来たのはここ。
「おお、友よ。チップの味が恋しくなったのかね」
「売る程チップを拾ってしまって心が折れかけてますよ」
ご存知ブラウンさんのチップ屋だ。
「それでも当店に来ると言う事は、何かお入用ですな?」
「ええ、火の魔法ってありますか?」
「もちろんですぞ!基礎、初級、中級まで揃えてありまする。火魔法の基礎は使用頻度が高く、売値が付くので破損品の在庫がありませぬ、申し訳ない」
「とりあえず100枚買わそうとしないで下さいね。今回は基礎が1枚あれば良いので」
「少々お待ちを」
そう言って謎の空間であるカウンターの下をゴソゴソして、四角い塊を出している。
「おっと」
ブラウンさん、いや、ブラウンよ。わざとらしく四角い塊に火魔法のチップを差すのはどうかと思うぞ?どうぞ。じゃねえぞ?1000枚買っても使い切れないんだが、子犬の目をしても可愛くないオッサンを見続けたくないので買いますよ!7500ヤン!その場でチップを千切ってやった。
スキル : 火魔法
火魔法 : 火魔法を扱う為の基礎スキル。
エンバー : 魔力を消費し種火を発生させる。
ディマー : 魔力を消費し火の明るさを変える。
デリートファイヤー : 魔力を消費し火を消す。
種火。火魔法の基礎はこれが全てと言っても良いとブラウンさんは言う。ランタンには調光器付いてるし、焚き火は薪を足せば済む話。消すなら砂や水をかけたら良いのだから最もな意見ではあるが、俺はそうは思わない。使用する燃料を変えずに光量を増やせるのは使えると思うし、砂では完全に消火するのに時間がかかる。消し炭として再利用したいなら使える魔法だと思うんだけどな。
買い物も終えたので少し街の外に出よう。南門から街道を走って速さが増した事を実感する。白チップ千切りまくってる俺はアホなんだなきっと。けどやる。絶対売り捌けないもん!けどこのペースで行けば星3つまでは行けそうだよな。ブラウンさんにもう少し詳しく話を聞く必要がありそうだ。
犬と同じくらいの速さでひた走り、木の門にやって来た。
「お、久しぶりだなゲイン。お前、よく指名手配されなかったな」
「久しぶり。指名手配される所だったの?」
「当たり前だ。我等の目の前で中隊長を半殺しにしたのだぞ?」
隊長さんがヤレヤレな仕草でやってきた。ジェーンは槍で突いてくる。鎧が傷付くだろうが!
「その後独断で兵を出して失態をやらかしたのは耳にしておるだろ?その責で免職となった。その時に、お前に情報を貰う前に免職した扱いになった訳だ」
「誰がボコボコにしたか分からないーってヤツだ」
「そうだな、我等は何も見ていない。ゲインも詰所に来なかった。良いな?」
「わかりました。俺も野盗を殺って昨日正式にCランクになれたので心置きなくダンジョンに行けますよ」
「よっ、人殺し!捕まえちゃうぞ?」
「止めんか馬鹿もん!…所で今日はどうした。ゴブリンでも狩りに来たのか?」
「今日は石を拾いに来たんです。大事な商売道具ですよ」
橋の奥では今日もバトルロイヤルしてる。見なかった事にしよう。挨拶して隊長さんと別れていつもの下流に赴いた。
「あ…」
「おや、先客か。久しぶり」
下流の石溜りには先客が居た。タララだ。
「黄銅鉱でも拾ってるんか?」
「うん。ゲインは?」
「石の補充と石炭だな。部屋でお湯沸かしたりしたいし」
「宿、引き払って今何処いるの?」
「ちょっと高いけど良い賃貸だよ。女だらけだし」
「馬の匂いするけど…」
「相変わらずの嗅覚め。厩の2階だよ。今朝もべろんべろんされたわ」
おしゃべりしながら星が付くまで弾拾いした。石特大はしっかり吟味して収納できるギリギリを攻めてみた結果、前より大きい石が手に入ったよ。
「ランク、上がったんだよね?マーローネさんから聞いた」
「個人情報を漏らす職員はクビにしてもらうか」
「あたい、全然パーティ組めなくってさ」
「だろうな。橋の向こう見たろ?ポジション関係なくボコスカやり合ってやがる。あいつらみたいな馬鹿からしたら、盾持ちなんて寄生虫扱いだ。実際に組めば寄生虫は馬鹿共の方になるのにな。今はパーティなんて無視して、ソロで野盗を殺った方が良いよ」
「パーティまた組もうよ?」
「俺は用事があってしばらく休む予定なんだ。お前の貯金が足りなくなると困るから組んでやらん」
「用事が済んだら、組んでくれる?」
「俺の事が怖くないならな」
「うん…、まだちょっと、怖いかな。けど言いたい事は理解したよ。マーローネさんにも村の事聞いたし」
「そうか。じゃあ前祝いに少し狩るか」
「うん!」
弾を更に補充して、橋に向かった。バトルロイヤルを無視して進む。向かってくるゴブリンは射殺して捨ておいた。道を塞ぐ馬鹿はタララの盾でゴブリンごと草藪に押し込んだ。
草藪ゾーンを抜けて森の中に入り、察知と探知であの場所へ歩みを進める。
「どこ行くの?」
「以前見つけてまだ入ってない所があるんだよ。ランタンあるし盾も居るから入ってみようかと」
「ダンジョンの練習できるね」
「そうだな。掘り出し物でもあれば良いな」
野盗の足跡を伝って石造りの建屋に辿り着く。見張りが居ないのは感知系スキルで確認済みだ。実力者が居なければ、の話だが、タララ曰く、ここ数日野盗の依頼は出てないと言う。怪我人も出たし、ここも踏み荒らされてるから移動しちゃったのかも知れないな。何も無くても練習と思えば良いや。辺りに気を張ってランタンに火を付けた。
「火魔法!?」
「2500ヤンだ。便利だぞ?」
「買えるけど無理はできないかな」
「黄銅鉱で稼いでるだろうに」
「価格調整しながらだからあんまり取ってないの!」
したたかさんめ、だがそれでいい。やり過ぎは敵を作るからな。
「俺は片手になるからいつでも撃てるようにしとけ」
「あたいも片手だよ」
「2人で1人分か。注意して進もう」
建屋の扉を感知系スキルで見る。野盗の移動に使われてたくらいだから罠があるかも知れない。案の定、罠はあった。けど使われた後だった。衛兵が犠牲になったのだろう。俺とジェーンが入ってたらどっちかが飛んでくる矢の餌食にされてたな。
力持ちのタララが押すと簡単に開いた。建付けが良いみたいで俺にも動かせたよ。
「盾は横に、だね?」
通路は人が3~4人横並びで歩けそうな幅があり、昨日入ったダンジョンとそう変わらない。これで敵が弱けりゃ練習にぴったりだな。タララの右に並び、ランタンを左手に掲げて歩きだす。
通路の中にも罠のあった痕跡があり、床を踏み込んだ跡が見られる。が、血や飛び終えた矢などは無かった。掃除したのか?それとも…。
「タララ、血の匂いとか、するか?」
「んー、外とは違って全然しないけど?」
「もしかしたら、これダンジョンかも知れない」
「あたい、入って良いの?」
「ギルドがダンジョン認定してないから問題無い。けど階段を降りる時は注意しよう」
ここはまだ建屋に入って100ハーンそこら。野盗共は一仕事終えたら夜の内に西側まで行くとして、どんなに長くても8オコン以内には着くと思われる。途中で帰る事も視野に入れよう。
「多分だが、途中で帰る事になりそうだ」
「どうして?」
「門が閉まっちゃうから」
「それは困るね。準備して朝から来たらどう?」
「そうだな。ここにある隠し扉を開けたら中見て帰るか」
「え?よく分かったね」
「察知と探知。これは凄く高い」
「やっぱ、そう言うの必要なのかな?」
「タララの鼻が羨ましくて買ったんだ。反応出来ないと死んじゃうからな」
罠はあるけどこれも飛び出す矢のようだ。盾に隠れたタララに隠れて押し入ると、カカンと当たって地面に落ちた。
「こわっ」
「ダンジョンかどうか確認するからその矢は拾わないでくれ。どうせ値はつかん」
隠し扉の奥は部屋になっていて、中には何も無さそう…あ、穴がある。
「気を付けろ、穴がある!」
「あな?」
迂闊に歩き回って穴に落ちそうになったタララをがっちりホールドして、何とか落ちるのを免れた。
ガインッ!ゴワン!
盾は免れなかった。
「あたいの盾が…」
「取りに行けると良いが…」
「あとゲイン、おっぱい」
「……すまん。手袋と服越しじゃわからん」
「手袋、外す?」
「先に盾だ。大事な商売道具だろうが」
穴を照らしても下の方は確認出来ないな。松明でも落として下を照らせたら良いのだが、手持ちに燃やして良い物がない。穴の壁には手も足もかけられそうなギザギザが無数に入ってる。これ、階段か?
「タララ、不本意だが降りるぞ。これ階段みたいだ」
「盾が壊れてない事を祈るよぅ」
穴の対面の壁に手足をかけて、大の字の状態で降りて行く。体感的には10ハーン程だろうか、突然階段が無くなり、通路のような場所に出た。下には盾も落ちてるが、床までは3ハーンくらいある。飛び降りるのかよ…。
「ここから3ハーンくらい飛び降りる。すごく怖い」
「怖くなるから言わないで!」
最後の段に手をかけて、なるべく落下距離を縮めて飛び降りた。
「ふぅ…。大丈夫か分からんが降りてきて良いぞ」
「そう言う時はダメでも大丈夫って言うもんだよ?」
「正直者なんだ」
「嘘つきめ」
小さいから最後の段に手をかけてもまだ少しあるな。腰を持って降ろしてやった。
「お尻…」
「腰だろ?」
盾をチェックして持ち直すタララを待つ間に通路を確認する。足跡のたぐいは全く無いな。隠し扉に罠があったり穴が塞がっていた辺り、野盗達には気付かれて無かったと思われる。…となると、この通路は罠が生きてる可能性が大だ。壁に穴、床に凹みがたっぷりで心折れそうだ。
「盾は平気そう。で、どっち行く?」
「そこからは戻れなそうだしな。今探ってるから一歩も動くなよ?罠だらけだから」
近い場所にある床の凹みに小石を射出すると、壁からシュシュッと矢が飛んで、カカッと対面の壁に当たって落ちた。
「全部矢なら楽そうだけどね」
「そうだな。ガスでも出されたら大変だ」
この辺りは鉱山育ちのタララの方が解ってるようだな。片方の道を指差して告げる。
「ねえ、ゲイン。こっちじゃないかな?風が吹いてる感じがする」
「時間があれば全部見て回りたいが、今回はタララに従おう。罠の場所には小石を乗せるから踏まないようにな?後、死ぬ前にマジックバッグの中身出してくれ。大事に使ってやる」
「石と黄銅鉱とパンツしか入ってないよ」
「石しか使えんな」
「パンツ使わないの?」
「サイズ違い過ぎて履けないだろ」
「……帰ったらあたいのおっぱい吸わしてあげるよ…」
「何じゃそりゃ、赤ん坊じゃあるまいし…」
何故か呆れるタララを後ろに、特に踏みそうな罠の上に小石を置きながら進んでく。敵は居ない。居たら罠を踏んで勝手に死ぬだろうし、このエリアはそう言うモノなのだろう。
「ゲイン、こっち」
分かれ道ではタララの感覚に従って進み、ようやく敵の出る道に出た。ここからは罠は少なそうだな。
敵はゴブリンとウルフ。ウルフは魔獣化したオオカミだ。どちらも人を襲うが、体内に魔石があるのと、人とモンスターしか襲わなくなるので呼び替えている。
グルルルル…。
唸ってる。結構離れてるけどこちらに気付いているな。
「来るね」
腰を落として構えてる。あちらに気付いたようだ。
「飛んでくるから先にばらまけ」
警戒してるような相手に待つのは増援を増やしたり冷静にさせるだけなので先に動く。罠を張る場所はここには無いからな。のしのし近付いて、ドバドバ射出するタララの後ろから、しっかり狙って当てる。ほとんど身動きをさせない内に、煙となって消えた。
「あたいの当たってた?」
「多分当たってないな。けどそれで良い。動きを止めるのって大変だからな」
「あれ、スキルチップだよ」
煙の後に、白い紙が1枚落ちていた。オオカミのチップだ。
「タララ使えよ。硬い肉も美味しく食べられるぞ」
「硬い方が好きだから要らなーい」
売っても5ヤンだろうしその場で千切った。すーはー…。射出した石を回収して更に進み、ゴブリンやウルフを見つけては射出して回収し進む事数回、上向きの階段の部屋に辿り着いてほっと一息。この辺りは敵もいないみたいだし、少しだけ休憩しよう。
「ふ~…」
「チップが出るって事はやっぱりダンジョンだったんだね」
「地下1階には敵が出なくて東西を繋いでるから野盗の移動ルートになっちゃったんだな」
「ダンジョンの練習するとか言って、野盗の残党狩りするつもりだったの?」
「ダンジョンとは思ってなかったけど通路なら練習できると思ってた。残党狩りは居たら殺る程度でな」
「結果的に実践練習できた訳なのね」
「上に行って野盗がいたら、殺らなきゃ街へ帰れない」
「困ったね」
「子供でも容赦はするなよ?」
「ああ、そう言う事も、あるのかー…」
「ちなみに俺は昨日、冒険者に成りすました男女を殺ってる」
「そんなのも居るんだね」
「仲間以外は敵、顔見知りじゃ無い事を祈るだけだよ」
「そうだね。そろそろ行こ?」
階段の奥もここと同じく暗い。扉が閉まっているのか、それともこちらも隠してあるのか。感知系スキルに集中して慎重に階段を昇った。
階段の縁から顔だけ出して辺りを見回す。どうやらここも小部屋になってて扉は見えない。隠し扉になってなければただの無駄部屋だな。他には何も無い。天井にも罠は無さそうだ。そっと歩いて小部屋に入り、部屋の外に感知系スキルを集中した。
「どうかな?」
耳元で囁かれるとゾワゾワするからやめて欲しい。
「外には誰もいなそうだよ」
後は扉を探すだけ。タララにランタンを貸し、俺はスキルで壁を隅々調べると、中央付近に四角い線を見つける事ができた。しかしどうやって開ければ良いのか…?
「押してみよっか?」
「ダメなら引くか?」
押してみたけどビクともしないし、ドアノブが無いので引く事もできなかった。
「さて詰まったぞ…」
「壁をぶっ壊したり…は、無理?」
「刃物をダメにするつもりで…はダメダメ、勿体ない。石をぶつけてみるか」
階段を降りて顔と手だけ出して、小石を思い切り射出する。バシンッ!と良い音が鳴って砕けたようだ。近付いてって見てみると、壁にも多少の傷が出来てるな。100ナリ近い石で行ったらイケるかも知れない。
「今度のはデカいから盾でガードしとけ」
「ゲインはどうするのさ?」
「弾幕張って何とかするさ」
階段まで戻り、両手を翳し、集中する。狙った場所に、とにかく高速で飛ばす事だけを考えて…撃つ!
ドガッ!!ガラゴラガラッ!
激しい音と共に石も扉も砕けた。更に扉の周りの壁も崩れて部屋も通路も瓦礫塗れになってしまった。
「ダンジョン、壊しちまった」
「出入りはしやすくなったね…」
とにかく地下1階に戻れたのは助かった。けどあまり良くもない。通路の奥から人らしき者が寄ってきてしまった。
「ゲイン、なんか臭いね」
「敵だな。容赦はするなよ?」
「右が出口だと思う」
「ならこっちは埋めちまおう。援護頼む」
「ほいきた」
砕けた瓦礫を移動しながら足から収納しては通路の左側に射出する。100ナリを超えるデカいのは無理だがそれ以外は瓦礫の壁にする事が出来た。
デカい瓦礫も小さくして運べたら…なんて思ってたら出来てしまった。多分100ナリ分なのだろう、瓦礫が切れて収納された。驚く暇は、今は無い。とにかく瓦礫で壁を作るのだ。
タララの方は盾を斜めにし、正面からの敵を待ち構えてる。後30ハーン程だ。
「飛び道具に気を付けろよ?」
「ゲインもね」
「誰だお前ぇら!?」
俺達の声が聞こえたのだろう。人の言葉に似た音を発してくる。無視して瓦礫の壁で天井を塞いだ。更にウォーターウォールで瓦礫の壁を押さえ付けた。
「こっちは何とか。行くぞ」
「おう」
盾を立ててのしのし進むタララの後ろに陣取って、正面から来る野盗を撃ち殺す。小石と同時に切り取った100ナリの床を超高速で投げ付けるのだ。敵に避ける暇は無い。タララも弾幕と移動阻害で頑張っているが、時間が無い。
正面は後2人。ウォーターウォール!ボーグ!
「ぶはっ!」「何だこのっ!」
背後に居た奴等が壁を壊して寄って来ていたのだ。感知系スキルが無ければ殺られてたよ。ウォーターウォールで抑え込み、ボーグで足を取る。そしてデリートウォーター!
「反転して撃ちまくれ!動けんから当たるぞ」
「おう!」
反転したタララの背後に回り、正面の2人を撃ち殺す。トドメに100ナリの地面を頭に打ち込み。ボーグで沈めてデリートウォーター!死んだ振りしてた奴も居たみたいで唸り声が聞こえてるが気にしちゃ居られない。
タララの射撃でも足を取られた野盗にはよく当たる。10人程居た野盗も1人になっていた。
「たっ!助けて!」
無言で撃ち抜き、殺す。全員の体に地面ブロックを撃ち込みトドメを刺す。通路の先を改めて感知系スキルで見て敵が居ないのを確認する。そしてようやく息を吐く。
「ふぅ。1人収納したら帰るぞ」
「1人で良いの?」
「持ち切れないからな。まだ居る可能性もある」
この場に来たのは総勢24人。まだ半分以下なのだ。飛ばしまくった石を出来るだけ回収し、四角く切った地面や壁で通路に壁を作った。1つ100ナリの塊だ。これなら早々破れまい。
「ゲイン、それ土魔法?」
「マジックバッグだよ。100ナリ分に切って収納できる、と言うか出来た」
「…すごいね」
「ダンジョン切れるのが凄い。後で教えてやるが、今は脱出するのが先だ」
「うん」
野盗を回収したのを見届けて先に進む。進んだ先にも野盗が潜んでいた。あと少しで外なのが分かる。タララが目でどうするか聞いてくる。俺は回収していた地面をそっと置いた。
奥に潜んでいるのは総勢22人、殺したのも含めると46人。壁を作った側にまだ何人か居るとしても、更に増援が来る可能性がある。ここは撤退したい。壁を切り取り通路に敷き詰め壁にする。タララも無言で真似てみて、同じ事が出来るようになった。これで効率が上がる。壁を切り取り壁を作り、開いたスペースを小部屋にして塞いだら、階段状に切って行く。普通の地面なら地表に出るはずの高さだが、ダンジョンは何故か地表にはならない。入口と出口からしか出られないのかも知れない。困ったね。
「ねぇゲイン、やっぱ殺るしか無さそうだね」
空気を読んだタララが囁く。覚悟を決めたなら俺も覚悟しないとな。丁寧に階段を戻し壁まで戻る。どうやら反対側からは来てないみたいだ。諦めて迂回してるか、待機してるかは分からない。地下に降りてモンスターに殺られてくれ…はしないだろうな。
壁のブロックを1人通れるだけ退けて、回収出来るだけ回収したら、改めて感知系スキルで敵を確認する。まだ居るかー。タララも怖い顔してるから感覚で分かるのだろう。
集中して殺りに…行こうとして違和感?に気付く。野盗共に動きが無さ過ぎるし、そもそもこの場所に見張りを立てるべきだ。14人が帰って来てないのに余裕ある見た目。見た目に反して恐怖と殺意の感覚。
角地からそれだけ離れる意味を考えて対面の壁に感知系スキルを集中する。するとあった。矢の発射口が蜘蛛の巣みたいなので隠してある。今はランタンを仕舞ってあるし、暗がりじゃ気付かないな。壁を作るべきはどうやらここだったようだ。
壁を回収し、壁を作る。何度もやったおかげで慣れちゃったよ。1人分の壁を作り、タララを先頭に静かに進む。
ドバババババババババババッ!!
背後から物凄い数の矢が壁の穴と言う穴から発射された。どんだけ残弾あるんだよ。もう静かには無理だからのしのし行ってくれ。座ってた野盗共は音に気付いてすぐさま盾を構えてた。板に金属の補強をされたタワーシールドだ。前が見えないならやりようがあるぞ。かくれんぼしてる野盗に向けて壁のブロックを射出した。
ブロックの直撃で6人が潰れ、矢の餌食になった。死んだ野盗と転がってるブロックに矢が当たり、小山になって消える。自動装填か、羨ましいぜ。
「あれ、邪魔だね」
「棍棒で触れれば回収出来る。俺が使うから後ろに出してくれ」
「あいよ」
死体とブロック、棍棒に刺さった矢を回収して、俺達の移動先で生き永らえてる奴等に射出する。タララも理解したようで、棍棒で矢を集めては射出してる。落ちたり当たったりして矢が消えるまでは少し時間差があるので殺傷力のある方を使う方が効率良いわな。ブロックの裏に隠れてる奴は上から乗せるように投げて押し潰し、近くに寄ってトドメを刺す。
汚い声と汚れを撒き散らして野盗共が死んで行く。矢の射程外に逃れた8人も石の波状攻撃で動きを止め、ブロックでトドメを刺した。
「これで…、全部?」
「まだ22人だって思った方が良いな。外に出る時が1番危険だろ?」
「ブロックが使えなくなるからだね?」
「森の中だと隠れる場所も多いからな」
死体を集めて22体。石も各種回収して準備よし。出口に向けて、盾で死体を押し込んでもらう。俺は腹這い。死体が出て行くと同時に出口の隅から顔と手をそっと出す。ドサドサ倒れ込む死体に紛れて感知系スキルを展開したが、辺りに敵の姿は無かった。そっと中に戻る。
「外に敵影無し。油断は出来んけどな」
「やっと帰れるー」
「残念なお知らせなんだが、もう夜だ」
「帰れないー」
「木の門なり、農民の休憩小屋まで行ければ何とかなる」
出口の隅からそっと顔を出し再確認。敵の無いのを確認して2人外に出た。長居するとモンスターや野獣が死体を食べに来るのでとっとと移動するぞ。野盗の気配、野獣達の気配に気を配り、盾を構えてのしのし走るタララの後ろをついて行き、何とか木の門に辿り着けた。
「こんな時間に来ても門は閉まってるぞ」
「こんばんはー。敵がいっぱいで仕事が長引いちゃったんだ。そこの草藪で夜明かしさせてね」
「構わんが、変な事するなよ?塔の上から見てるからな?」
「ゲインはそんな事しないよ」
「腹減ってるし、朝まで休むだけだよー」
草薮に入り、少し行った所で草を互い違いに倒してベッドにする。鉈で壁を作る場所を刈り込んで、周りの地面をブロック状に収納して並べる。3ハーンも高くすれば野獣も入って来れまい。空堀だが足せば5ハーンはあるからな。リュックを枕に、草のベッドに横たわり、薬草を齧りながら2人並んでポンチョをかけて仮眠した。縦横無尽に動き回るタララが気になってほとんど眠れなかった。なんつー寝相だ。
朝になり、ステータスを確認する。ほとんど寝られなかったけど全快してるようで良かった。タララは壁に両脚をかけて寝てるが、その姿で寝られてるのが凄いな。カツリョクソウを齧ってそろそろ起こすか。
「起きろ。飯食いに行くぞー」
「おなかへったー」
口の中にカツリョクソウを突っ込むとモグモグして目を覚ました。
「甘い…」
「起きたら行くぞ。飯食って風呂入って、部屋で安心して寝た方がいいだろ」
「ねぇ、ゲイン。なんであたい、足が壁登ってんの?」
「そこに壁があるからだな。壁を戻すから起きれ」
ポンチョを仕舞って装備を整え、地面を直して出発だ。木の門番さんに挨拶して走り出した。
現在のステータス
名前 ゲイン 15歳
ランク C/-
HP 100% MP 100%
体力 D
腕力 E
知力 E
早さ D-
命中 E-
運 D
所持スキル
走る☆ 走る☆ 走る
刺突☆ 刺突
硬化☆ 硬化
投擲☆ 投擲
急所外物理抵抗☆☆
飛躍☆ 飛躍
木登り☆
噛み付き☆ 噛み付き
腕力強化☆
脚力強化☆ 脚力強化
知力強化☆
体力強化☆
ナイフ格闘術☆ ナイフ格闘術
棒格闘術☆
短剣剣術☆
避ける☆
魅力☆
鎧防御術
察知
探知
マジックバッグ
魅了
威圧
水魔法☆ 水魔法
ウォーター
ウォッシュ
デリートウォーター
ウォーターバレット
ウォーターウォール
ボーグ
土魔法
ソイル
サンド
ストーン
火魔法
エンバー
ディマー
デリートファイヤー
所持品
革製ヘルメットE
革製肩鎧E
革製胴鎧E
皮手袋E
皮の手甲E
混合皮のズボンE
皮の脚絆E
耐水ブーツ
耐水ポンチョ
草編みカバンE
草編みカバン2号
布カバンE
革製リュックE
木のナイフE
ナイフE
剣鉈E
解体ナイフE
ダガーE
革製ベルトE
小石中385
小石大411
石大18
板
石炭85
冒険者ギルド証 392058→381558ヤン
財布 銀貨9 銅貨54
首掛け皮袋 鉄貨31
部屋の鍵
冊子
寸胴鍋
コップ
ランタン
油瓶
中古タオル
中古タオル(シワシワ)
中古パンツ(シワシワ)E
パンツ(使用済み)
ヨレヨレ村の子服セット(シワシワ)
サンダル
革靴E
街の子服Aセット(シワシワ)E
街の子服Bセット(使用済み)
スキルチップ
ウサギ 3266/3974
ウサギG 0/1
ハシリトカゲ 3047/3167
ハチ 2726/2859
ハチS 0/1
カメ 2500/3175
ヨロイトカゲS 0/2
石 1201/1854
石S 0/1
スライム 1024/2025
鳥? 861/1360
トンビS 0/4
サル 622/764
オオカミ 583/943
ワニS 0/1
蝶 0/204
花 0/161
腕 441/542
脚 424/525
脚S 0/1
頭 0/101
体 423/524
棒 420/521
ナイフ 358/459
ナイフS 0/1
短剣 0/101
鎧S 0/1
袋S 0/1
水滴 158/395
水滴S 0/1
立方体 0/25
火 0/1
魅了目S 0/1
威圧目S 0/1
頭三本線S 0/1
頭三本線G 0/1
未鑑定 1000/1000
9
お気に入りに追加
192
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
もういらないと言われたので隣国で聖女やります。
ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。
しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。
しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる