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臨時でパーティを組んだらみんなからの視線が痛い
しおりを挟む今朝は早くに起き出して、食事も摂らずに冒険者の列に混じってギルドへ向かう。流れに乗って掲示板に行き、野盗の討伐依頼を見る。やっぱりパーティ推奨って書いてあるな。けどそれだと、パーティ人数より少なかった時はランクはどうなるんだろう?この張り紙のは10人前後居る模様、と書かれてる。場所など詳しく見ているとマッチョな手に毟られてしまった。
「あ?坊主、早いもん勝ちだぜ?」
「ランク上げに必要だって言われたから見てただけだよ。だからもうちょっと見せて」
「なんだお前ぇDランクか。パーティ組まねぇとこの先キツいぞ?ほれ、見るだけな」
目の前にバッと出して見せてくれた。おかげでちゃんと見る事が出来たよ。
「ありがとう。今日はゴブリンを殺るよ」
「臨時でも集まらねぇ時ゃそうしとけ」
大人しく宿に戻ってご飯食べよう。で、再びギルドへやってきた。受付に向かうとまだちょっと並んでるので空いてそうな列に並ぶ。
「おはようございます、ゲインさん。先程もいらしてましたよね?」
マーローネの列だった。仕事が早いのも困りものだ。
「臨時でも何でも良いけど、パーティメンバーを集めるにはどうしたら良い?」
「こちらに名前と特技等を書いて募集掲示板に張り出します」
「取り敢えず今日は聞いてみただけ。あれ見たらゴブリンに行くよ。それじゃ」
マーローネの指差した方向には紙の貼りまくられた一角があり、掲示板と言うより紙貼り場となっていた。寄ってって見てみると、紙の上に紙が貼られ、奥の方は黄色くなっちゃってる。この人は今どうしているのだろう…。
「あんた、独りもんかい?」
女の声に振り向くと、目の前は盾だった。
「最近の盾は可愛い声を出すもんだ」
「こっ、こっちだバカ」
立てた盾より小さい女がいた。僕よりも小さいけどよくこんなデカい盾を持てるもんだな。くしゃくしゃした茶色い髪を短く切った、丸い耳の獣人さんだ。
「もしかしてパーティ探してるの?」
「あんたは違うのかい?」
「ランク上げに野盗を殺らなきゃいけないんだけど、パーティ推奨らしくてねー」
「こっちは火力不足さ」
「じゃあ僕じゃダメっぽいな。ゴブリン程度しか殺れないし、と言うかまだゴブリンしか殺った事ない」
「こっちはゴブリンですらまともに殺れないのさ」
「盾振り回してぶちのめせば良いじゃん」
「それはタンクの仕事なのか?」
「…1人でゴブリンと戦う時に、タンクの仕事もクソも無いよ?」
ちょっと話を聞こうか。この子は現在ソロで活動してるのだけど、盾持ちの親父に憧れて盾持ちになったものの、盾じゃ戦えなくて困ってるそうだ。
「今からゴブリンを殺りに行くけど、見学でもするか?」
「パーティ組むのか?」
「出来高払いで良いならな」
「何それ?」
「お前がゴブリンを殺ったら、それの耳と袋はお前の物だ」
「それじゃああたいの取り分無いじゃないか!」
「だから殺り方を教えてやる。見て、学んで、殺ってみろ」
「分かった。あたいタララ、熊人だ」
「僕はゲイン、元村人だ」
「あたいの特技は盾だ、ゲインは?」
「盾は防具だ。武器は無いのか?」
「ナイフならある」
「それはあるとは言わない。折角の腕っ節が無駄になってるじゃないか」
「武器買う金ねーもん!」
「金が無くても用意はできる」
空いてた受付嬢にパーティ申請して、事務処理されて、臨時パーティとして認められた。
「所でゲインの特技を聞いてないよ?」
「金儲けだ。凄いだろ」
「……そりゃあ凄いけど」
「武器は複数使うからなー。近接と中距離だな」
ギルド証のランクがD/Tになった。タララはE/Tか。TランクからAになるのは遠いなーとか思っていたら、Tは一時的なパーティを表すんだそうな。
で、やって来たのは東門。西門は不審者がまだ隠れてるかも知れないし、南門はゴブリンが多くてタララには荷が重い。残るはここしか無い訳だ。近いし。
「時間が惜しいから走るぞ」
「お、おう」
2人並んで走るのだが、重い盾を背負っているのですぐバテた。親父の真似して奮発したのだろうが、ゴブリン相手には無用の長物、重量物だ。まあ武器にもなるしダメとは言わない。歩いて息を整えながら、ゴブリンについて教えてやった。
「そんなに脆いのかい?」
「この鉈で頭を引っ叩くだけで頭蓋骨が砕けて死ぬし、石ぶつけても死ぬ」
「どこから出したのさ?」
「お高いマジックバッグだよ」
「本当に金儲けが特技なんだね…」
「村の子の遊びは家族の収入に直結するんだ。薬草採ったりキノコ採ったりな」
「あたいんトコは鉱山傭兵だったから屑石から良いのを拾うのばっかりやってたよ」
「ダンジョン入ったら伸びるだろうなー。それまでは苦行だろうが」
「どゆこと?」
「タララの戦い方は狭い所専用なんだよ。道を塞いで、隙間から他のやつが攻撃って感じだろ?」
「親父にはそう教わってきた」
「ここには左右に壁が無いし、自分で殺らなきゃ敵は減らない」
「なるほどー」
そんな話をしてる間にやっとこさ木の門に辿り着いた。もうお昼だよ…。
「お、ゲイン…、その獣人、女…だな?まさか!」
「ふっ」
「くそっ!俺も冒険者になって女と「馬鹿もんが!」」
説教が始まる前に走って逃げたよ。この時ばかりはタララも早かった。
「ゴブリンやる前に昼飯にしようか」
「あたい、昼飯、持ってない…」
草藪にスペースを作り、そこでソーサー1枚あげた。足りない分はカツリョクソウを齧ろう…。甘い、美味い…。いつまでも油を売ってると塔の上から飛んでくるヤジで耳が痛いのでそろそろ行こう。
いきなりゴブリンを探す訳にはいかないので、先ずは森の入口で良さげな木を見繕う。
「太くてなおかつ握りやすい木を探せー」
「んじゃこれ」
「そうか、なら切るぞ」
剣鉈を振りかざし、根元近くに刃を入れる。多少太いがぐるぐる回りながら切ればさほど時間もかからずに切り倒す事ができた。それを1.5ハーン程の長さに切って皮を剥ぐ。
「デリートウォーター」
木の棒から水気が抜けて多少軽くなった。硬くもなっているはずだ。
「ほれ、武器だ」
「棍棒作ってたのか」
「持って構えてみろ」
棍棒を持たせて構えさせる。盾に隠れて棍棒が刺さってるみたいだ。
「盾を横にしてみ?」
「ん?うん」
「俺が見えるようになったろ。ゴブリンは小さいからその高さで充分だ。その状態で棍棒を横に振り回せ」
ブンブンと、当たれば痛い音がする。ゴブリンだったらこれで殺せる。
「よし、武器も手に入ったし戦い方も覚えた。ゴブリンを殴りにいこうかー」
「お、おうっ」
意気込んだは良いものの、こっちはゴブリン少ないみたいで全然見つからない。とても困る。せめてタララの生活費くらいは稼がせないとな。見切りをつけて森の入口まで戻ってきた。
「採集用のカバン持ってるか?」
「これしか持ってないぞ?」
冊子読まなかったか。そもそも文字の読み書きできるのか?僕もそれなりに苦労した記憶があるので心配になるな。タララのカバンは筒型で、紐でキュッと締めて肩に担ぐタイプだ。デカい巾着だな。タオルと下着しか入ってないのは良かった。スカスカのカバンに目の前のウサギノミミモドキを拾わせた。
「とにかく丁寧にな。それ品質最高だと300になるから」
「さすが金儲け。採れるだけ採るぞ!」
「少なくても良いから丁寧にな。それだと140を下回るぞ?」
「え?そんなに下がんの?」
「宿代と、飯代と、風呂代と、洗濯代。3000ヤンにはなると良いな」
「ゲインは採らないの?」
「周囲の警戒。それに僕は品質の良いやつしか採らないから」
「安くても売れたら良くね?」
「村人の習性かな?変なの採って来ると父さんが怒るんだよ」
「それ、あたいんちもだ…なんかくる」
振り返るが僕には見つけられない。木は疎らだが生えてるし、隠れてるのか?
「こっち!」
密に生えた草藪がガサガサ揺れる。現れたのは女に飢えた野獣と化した門番さんだった。
「お前らこんな所でイチャイチャしやがってー!」
塔の上から見ていたようで、とんだ勘違いだ。
「ジェーーン!帰って来ぉーーーい!!」
哀れジェーン、先輩に怒鳴られてすごすごと帰って行った。俺達も帰ろう。
「ゴブリンはいなかったけどいい物採れて良かったな」
「ゲインのおかげさ。これで風呂に入れるよ」
「明日の朝飯の分は残しておけよ?できれば昼もな」
「そだねーお腹すいたねー」
「イーッチャイチャーすんなーっ!」
被害妄想だ。まあ、驚かされた意趣返ししてるのは事実だが。木の門に着き哀れジェーンは先輩に説教を受ける。
「荷物持つから寄越せ」
「え?優しい。ゲインって実はモテる?」
「走るとキノコがグズグズになるんだよ。盾も出せ。門限に遅れると野宿だぞ?死ぬぞ?ほれ走れ走れ走れ」
「待ってよぉー」
盾と荷物をマジックバッグに収納し、走って帰った。体が軽くなったおかげでちゃんと走れてた。どんだけ重い盾なんだ。
「イチャイチャしやがってー!」
遠くでそんな声がした。
混雑するギルドにてタララの荷物を返し、買い取りを終わらせたら再度合流した。5460ヤンだって。端数的に130ヤンか?あの程度ならこの値段でも御の字か。
「こんなに稼げたの初めてだ!これで武器買えるぞ」
「生活費引いて2000ヤンじゃ棍棒の方がマシだよ。それにゴブリンじゃこんなに稼げないから貯めとけ」
「1日3000ヤン…だっけ」
「両耳揃えて50ヤンだぞ?60匹は殺らないと生活できん」
「うげぇ」
「ゴブリンなんてその場しのぎ。ないよりマシ。採集のついで。熊の餌」
「あたい食べないよ!?」
「四つ足の方の熊だよ。魔獣化すると魔石が出るからわざと食わせて儲けを増やすらしい」
そこから逃げ出した3匹に追いかけ回されたんだがな。僕のトラウマの1つだ。
「ねえゲイン、明日もしよ?まだちゃんと殺ってないし」
「そうだな。いっぱい殺って慣れないとな。明日は場所を変えて殺りまくろう」
風呂に入りたいし、取り敢えず一度宿に帰ろう。今日はここで解散だ。何故だか刺すような視線をいろんな所から感じるし。
「あたいすぐそこ」
「僕もだ。もしかしてギルド直営の宿か?」
「安いからね。ゲインって自分の事僕って言うよね」
「街に出てもちゃんと喋れるように努力したんだ」
「冒険者なんだから俺とかにしたら?」
「俺かー」
「そうそう俺俺、俺だよ俺俺」
オラを直して僕になったのに俺に戻すのか…。そんな事を話して宿に着いた。タララは1泊、僕は7日分払った。
「隣同士だね」
「僕の部屋はずっとここだけどな」
「ご飯一緒に食べようよ!」
「僕は先に風呂に行こうと思ってたんだが」
「じゃあお風呂行こ!」
ちょっと歩くけどマッチョじゃない方に行こうね。街の子セットに着替えたら、タオルを持って…湿ってるけどまあいいや。タララを待ってお風呂に行こう。共同浴場に着いたら体を洗ってお湯にどっぷり。お湯と体が溶けて行く…。ふぃ~…。
「ゲイーン、出るよー」
何故男湯に来るのか?逆なら捕まって狭くて暗い部屋に押し込められると言うのに、解せぬ。
「500ヤン払った分、たっぷり浸かればいいのに」
「体洗うだけで充分だからねー、最悪頭と尻尾だけでもいい」
「尻尾、あったのか」
「獣人にはみんなあるだろ?ああ、熊人のは短いからな、穴開けてまで出さないんだ」
宿に戻ってご飯を食べて、明日の予定など話し合って寝た。気持ちが疲れてたのですぐ寝られたよ。
「起きれーゲーイン起ーきれー」
ドアの向こうで声がする。タララか。ガチャガチャ始まると同時に起こしに来た。
「おはよう。腹でも減ったのか?」
「依頼見に行かないの?」
「先ずはゴブリン倒してDになれ。報酬が変わるから。実際に変わるのはCからだけどな」
「ダンジョン行けるからだね?」
「タララのメイン職場になる所だ」
「じゃあご飯食べ行こ!」
その前に着替えさせてくれ。ズボンを替えて、防具を着て、リュックを背負って見られてた。逆なら捕まって狭くて暗い部屋に押し込められると言うのに…。解せぬ心を押し込めて朝食を食べて仕事に向かう。タララはソーサー全部食べちゃったので、3枚100ヤンで買っていた。
今回は南門。武器もあるし、平地だから多分何とでもなるだろうきっと。走るとバテるので早足で移動する。
「タララはスキルチップ使ってるか?」
「お金無かったから買ってなーい」
「安売りチップが店売り8ヤン、露店で10ヤン、僕から買うと選べないが5ヤンで買えるぞー」
「お金取るの?」
「別に店で買っても良いぞ?」
「考えとくよ。稼がなきゃ買えないしね」
木の門には昼前に着いた。タララはこっちから定期馬車で来たそうで、その時もゴブリンに囲まれて、馬車が轢いて凄かったんだって。
「盾は横に、棍棒も横に」
「後ろは無視して前に来たやつだけ横殴りに打ちのめせ、ほれ走れー」
門番さんに挨拶し、橋を渡って街道の入口。タララに指示を出して走らせた。重い盾があるので早歩き程度の速度だ。僕自身、盾のチップは持ってないけど、この子には1000枚使わせたい。腕っ節はあっても遅いのは致命的だからね。とは言え頑張って100万ヤン稼ぐなら、金チップ10枚買う方が良いだろうな。
「ゲイン!」
前から後ろから、タララの周りにゴブリンが飛び出してきた。さあ走れ走れ。
前に居るゴブリンを盾で押さえながら棍棒でボコボコ殴ってる。しっかり頭を狙ってて偉いぞ。後ろにいるゴブリンは、少し後ろにいる僕の担当。小石を飛ばして頭を砕く。タララに当たらないように集中しなきゃ。
僕が殺ったのをマジックバッグに収納しながら進む事およそ200ハーン。タララがヒィヒィ言い出したので一旦引き返す。転がってるゴブリンの耳をナイフで切り落とさせたら回収し、川の下流で休憩する。もちろん水葬も欠かさない。
「ゴブリンの袋には小銭が入ってるからできるだけ回収しとけ。耳より儲かるから」
ドサドサと耳の無いゴブリンを出してやると、袋の中を見て一喜一憂してた。僕も耳を切って袋を回収。ゴミは川の流れに身を任せてもらった。
「ゲイン!見て!銀貨!」
「やったな、当たりだ」
ご飯2回分はタララにとってはデカい収入だ。僕の方には当たりは無かった。残念。タララは22匹、銀1銅20鉄139、僕は47匹銅49鉄243。銀貨が混じると美味いな。
「うまうま」
「良かったねぇ。飯を食ったらもう1回殺るか?盾のスキルチップも買えるだろ」
「そうだね。ちなみにいくらくらいすんの?」
「秘密だ、守れよ?」
「うん…」
「行きつけの店で1000ヤンだ」
「高いねぇ」
「店に並ばない汚いヤツで1000だよ。飾られてるのは2000以上だ」
「そう聞くとお得だね!」
「盾と、マジックバッグを買ってもらいたい。盾持って移動すんの大変だろ?」
「そうだね」
「なので次は後ろの敵も殺ってもらう。数は少なくなってるだろうけど、危なくなったら助けてやるからしっかり稼げよ?」
「殺ってやる!」
ソーサー齧って食休みしたら2回目に出発だ。タララが走り、少し離れて僕が行く。先に前を押し倒し、反転して殴り殺す。数匹殺ったら残ってるのを押し倒し、反転して正面に居たゴブリンをぶちのめす。これを繰り返して全滅させたら、息を整え先に進む。行って帰って下流に戻り、勘定するとゴブリン40匹、銅35鉄328。やるじゃないか。
「始めて2回でこれだけ狩れるなんて凄いじゃないか」
「ゴ、ゴブリン、多過ぎ…、ヒィ、ヒィー…」
「ちゃんとゴブリン60匹殺れたな」
「生、活、できると思うと、ふぅ~。達成感あるね。それにしても何でこんなにゴブリン多いのさ!?」
「さあなあ。近くに巣でもあるんじゃないか?」
「それ、ヤバくないの?」
「増え過ぎると大変だから間引きしてるんだよ。この街の冒険者は怠けてるみたいだけどね。そのおかげで俺達は美味い飯が食える」
普通、こんなにゴブリンだらけにはならない。2人で100匹以上殺れるなんて聞いたら初心者に毛の生えたパーティでごった返すはずだ。他の初心者は何やってんだ?考えるのも馬鹿らしいのでタララの盾を預かってとっとと帰るよ。
「Dランクなれた!」
報酬と、ランクの上がったギルド証を貰ってタララが喜んでる。僕も報酬を振込み、両替する。
「タララ、鉄貨1枚くれないか?今99なんだ」
「ほいよ」
「タララも両替しとけよ?鉄貨だいぶあるだろ」
「カバンに突っ込んでたから忘れてたぜ。お姉さん両替お願ーい」
「あ、待て待て。一旦全部入れて引き出した方が早くないか?」
「是非そちらでお願いします」
受付嬢はジャラジャラ出てくる小銭達を必死こいて数える事にならなくてほっとしたようだ。持ち金の振込は箱に入れて自動でやってくれるからな。そこから銅貨と鉄貨が数枚ずつ引き出された。
「財布と、鉄貨を入れる皮袋は買った方が良いぞ?カバンに穴が空いたら悲惨だからなー」
「明日買いに行ってくるよ。だから明日は休みにするね」
「僕もスキル屋に行くし、一緒に行くか?」
「いくー!」
受付嬢の目から光が消えた。危険な香りがするので早々に立ち去ったよ。その後、宿に戻って着替えたら、洗濯屋に寄って風呂。洗濯が終わるのに1オコンかかると言ってタララに長湯させ、洗濯物を回収したら宿で夕飯にありついた。
「ソーサー1枚残しとくと良いぞ?朝飯にそれと1枚食えば昼飯がソーサー2枚になる」
「それじゃ足りないよー。100ヤン払って3枚買った方が良い」
小さいのに食べ盛りなんだな、僕と同い年なのに。そんな話をしてその夜は別れた。
翌日はゆっくり目に起きたかった。廊下でガチャガチャ鳴ってるし、タララがドアをノックする。
「おはよう。腹減ったのか?」
「買い物行くんだろ?」
「お店の人はまだ寝てる時間だよ?」
「じゃあご飯食べよう!」
着替えるのは後にして、朝食を摂りに食堂に向かった。
「なあゲイン、昼飯どーする?」
「今朝飯を食べてる最中なんだけど?」
どうやら宿の食堂で食べるか、どこかの店へ食べに行くか、買って帰って宿で食べるか、と言うチョイスで悩んだらしい。
「僕は2枚残して露店で串焼きでも買おうかと思ったけど、沢山食べると高く付くんだよね」
「あたいがたくさん買うと考えてるんだね?多分合ってるよ。あの匂いでソーサー3枚いける」
「なら僕が買って食べるからタララは匂いだけで」
「酷い!獣人虐待!」
「はは、冗談だよ。無駄遣いしなきゃ冒険者は自由だ」
「2本なら良いよな?な?」
好きにしなさい。昼飯の話をしながら朝食を摂って、部屋に戻って街の子セットに着替えたら、2人で街に繰り出した。先ずはタララの言ってた雑貨屋に向かう。何気に僕は初めてだ。
「ここー」
佇まいは普通の店だが女子率高いな。服も売ってるし台所用品もある。皮袋は…あるある。動物を模した物や多角形なんてのもある。これはカエルの皮だ、良いなぁ。けど買い換えるのはまだ早いなー。財布もある。大きさも色も素材も形も様々だ。どちらも紐が付いていて、首から下げるようになっている。首を切られなきゃ取られない…ってね。
「これどうかな?」
タララの選んだ財布はベルトポーチだった。革のベルトで丈夫そう。けどお金を入れたらジャラジャラ言うぞ?
「ギルド証を入れたりするのには良いかも知れない。ベルトも丈夫そうだしナイフの鞘も通せるね。けどお金入れたら音が鳴るな」
「そうかー」
「小銭と一緒にタオルでも入れとけば良いんじゃないのか?」
「そうかー!」
値段は4000。新品でこの値段なら買いだろ。悩むな。
「彼氏さん、ここは甲斐性の見せ所ですよ?」
女店員がにこにこしながら寄ってきて馬鹿な事を言う。
「命を預ける道具を他人に買い与えられて、もしそれで死んだらどうする?」
「え?あ、はい。申し訳ありません…」
自分の物を自分で買えないやつは冒険者じゃない。と言うより大人じゃない。黙ってしまった店員を無視してタララの買い物に付き合った。長い時間苦悩して熟考した結果、ベルトポーチと菱形の皮袋を買っていた。
「良い物買えて良かったね」
「生活費、3日分…」
「また稼げば良いのさ」
まだ心折れちゃいかんよ?これからチップ買いに行くんだから。タララの背中を押しながら、やって来たのはブラウンさんのチップ屋だ。
「こんにちはー」
「お?これはゲイン殿。そちらの方はお仲間ですかな?」
「チップ初心者なんだ。この子には普通に付けてやりたい」
「そうですな」
「盾と袋、それと足と棒をこの子に売ってやってくれないか?」
何かを察したブラウンさんは箱の中からゴソゴソと、4枚のチップを出してきた。2020ヤン。銀の2枚は買わないと後悔するぞ?
「買い物が、こんなに精神を削る物とは思わなかったよ…」
「是非名のある冒険者になってください。そうすれば良い思い出になります。ゲイン殿にはこちらを」
ドンッと出された紙束。これ1000枚セットじゃねーか。買えと?無言の笑顔に買うしかなかった。5000ヤン也。2人とも魂が抜けかけてるのでもうおうち帰る。串焼き買って、逃げるように宿に戻った。
「あは、あは…、あんなに稼いだのにもう2日分しか残ってない…あはは…」
「1000枚…何日かかるやら…はは…」
街から戻って僕の部屋。2人で魂抜けかけてる。取り敢えずご飯食べよう。ソーサーの上に串焼き置いて、思い思いにいただきます。
「ふー、食ったー」
タララの魂は無事に肉体に納まったようだ。僕もまだ生きてる。良かった。食べたらチップを使う。使い方はブラウンさんに説明されてたので大丈夫みたい。ビリビリ破いて煙に包まれていた。
「これで良いの?」
「ステータスを確認してみな。スキルの文字を注視すると説明が出るぞ」
「…お、おお。ある!…えと、盾が軽くなるっぽいって。こっちは棒術みたい。脚力は足早くなって…、マジックバッグはどうやって使うの?」
文字が読めた事にほっとする。マジックバッグの使い方と注意点を説明した。盗みダメ絶対。わざわざ自分の部屋から持ってきた盾を出したり入れたり中身を確認したりと喜んでる。僕も紙束の検品をしよう。
ウサギ208
ハシリトカゲ52
カメ303
石223
鳥212
蝶2
6種の中にレアな蝶が2枚入ってた。ボロボロだからだな。しょぼいのに数の少ないハシリトカゲは単純に数が居ないのだろうな。鳥に星が付く。ブラウンさんは僕に飛べと言うのか?
「この2つとこれ、1枚ずつ買うと良いぞ?」
「買わなきゃダメ?」
「走ると硬化だ。タララに必要だろ」
「15ヤン…、ほい…」
「お買い上げありがとうございます。またのご利用をお待ちしています」
渋々鉄貨を寄越し、ビリビリモコモコ。ステータスを確認して変な顔をした。
「走るの表示が、おかしい気がする」
「違う種類のチップで同じ効果だとこうなるみたいだぞ」
さて、僕はどれから使おうか…。タララが部屋に戻り、折れそうな心を必死に立て直す。考えるな、齧れ!少ない順から千切って吸った。
スキル : 飛躍☆ 飛躍
飛躍 : 飛ぶ為のスキル。飛ぶ為の能力が僅かに増し、更に少し増し、無駄な動きを僅かに抑え、更に少し抑える。
☆が付いて極が消えたけど、飛べるとは微塵も思わない。数値で表示して欲しい。そう言うスキルがあるなら多少高くても買うぞ?それでも飛ぶ能力が100%増えたとして、飛べるとはちっとも思わないのだけれど。
腹ぺこ女に夕飯に誘われ、今日は仕事してないからと風呂に入らない不潔女の言葉に乗っかり不潔男となった。その後はベッドで寝ながらチップに噛み付いて、気付いたら半分くらい使い終わって朝となった。
「金稼ぎー、金稼ごー。起ーきーれー」
金無しめ、僕は金稼ぎなんて名前じゃないぞ?とは言えやる気があるのは良い事だ。ダンジョンで活躍できるようサポートしてやるか。
「おはよう。腹でも減ったか?」
「減ってるけど、稼がなきゃ食えないもん」
「そうだな。軽く掲示板を見てまたゴブリンでも狩るか」
「今度はちゃんと貯めるからねっ!」
冒険者なりたては何かと入用だからな。安定するまでは仕方ないのだよ。僕だってまだまだ足りない物だらけだ。着替えるので追い出して、外で待ち合わせした。
「待たせた」
「待ったぞ、早く殺りたいよー」
「そうだな、いっぱい殺ろうな」
「今度は最初に1人でするから見てて」
そこらからチッチと鳥の鳴き声みたいな音が聞こえてくる。周りの人がチラチラ見ている。昨日風呂に入らなかったのがバレてるのかも知れない。早足でギルドに向かった。
依頼掲示板で野盗の討伐依頼を見て、場所を確認する。まだ依頼を受けないのは、野盗の居そうな場所に当たりを付けておく為だ。貼ってある依頼みたいに10人単位、団体単位では返り討ちに遭うからな。
場所だけ見てギルドを出て、ソーサー6枚買って食べながら向かうは南門。串焼き食べたい。南門は数が居るのもあるけれど、ゴミ処理が楽なのがとても良い。門番さんに挨拶し、走って歩いて木の門へ。手ぶらになったタララは僕の足にちゃんと着いてこられた。流石獣人。
「足、早くなった気がする」
「荷物が無いからだな」
木の門の門番さんに挨拶し、本日1回目。装備を固めたタララを先行させて、僕はこっちに来たやつだけ殺し、後はサポートに徹した。
僕4匹、タララ47匹で1回目終了。下流で戦果を確認して休憩した。今回は2人とも当たり無し。2回目をしようと思ったんだけど、5人組の駆け出しがやろうとしてたのでちょっと早いが昼食にする事にした。見物も兼ねて門の側で食べようか。
「稼ぎが減っちゃうね」
「本来もっと安いんだ。袋の中身含めて3000とかだよ普通。パーティ組んでたらもっと安くなる」
「あれは5人だから、300匹殺んなきゃいけないんだね」
「袋に期待して100だから、2回でギリギリだな」
「あたい、均等割でも良いよ?」
「金はあるんだ。気にすんな」
「けど、このままだと稼げないよー」
「それは困ったな」
ゴブリンに囲まれてボコられてるタンクの周りでボコボコしてる駆け出しを見ながら思案する。
「そう言えばタララよ、石炭って、売れるか?」
「質と量によるよ。多ければ嵩張る…のはマジックバッグで解決するのか。質は見てみなきゃわかんないなー」
「んじゃ、ちと見てくれるか?」
「あんの?」
「あんぞ?」
下流に戻り、余計な荷物をマジックバッグから取り出したら、河原の石を片っ端から収納する。寝っ転がってゴロゴロしながら触れた物を収納すると、河原に凹みを作って収納できなくなった。中身を確認して必要な物だけ残して凹みを埋めた。これを数回繰り返し、結構な量の石炭を採集できた。
「これなんだが、見てくれ」
キラリと光る面を持つ黒い石を見て、売れそうかも?と判断された。後はギルドが買うかどうかだな。
石炭の他にも良さそうな物があった。黄銅鉱だ。マジックバッグの中身を確認して、黄銅鉱と書かれていたので間違いない。
「なあタララ、こいつも見てくれ」
「ん?んっ!?んー」
掌に乗せた黄色いつぶつぶを見て唸った後、何とも渋い顔でこちらを見てきた。
「どうだ?」
「銅だね」
「売れそうか聞いたんだが」
「売れるよ、銅だし」
「これも持って帰ってみよう」
「あたいはそれで散々馬鹿にされたよ。金と間違えたりしてね」
「よくある話だ。僕もよく毒草摘んで怒られてたよ。毒草キラーって呼ばれてた頃もあったさ」
「銅だって売れるっ!って息巻いてた頃が懐かしいよ。今になって売る羽目になるとは思わなかったけど」
互いの心の傷を舐め合いながら、表示に星が付くまで石炭と黄銅鉱を集めて帰路に着いた。5人組の駆け出しは1回目の半ばでボロクソにやられて逃げてたみたい。
現在のステータス
名前 ゲイン 15歳
ランク D/T
HP 100% MP 100%
体力 D
腕力 E
知力 E
早さ D-
命中 E-
運 D
所持スキル
走る☆ 走る
刺突☆
硬化☆
投擲☆
急所外物理抵抗☆☆
飛躍☆ 飛躍
木登り☆
噛み付き☆
腕力強化☆
脚力強化☆
知力強化☆
体力強化☆
ナイフ格闘術☆
棒格闘術☆
短剣剣術☆
避ける
魅力
鎧防御術
マジックバッグ
魅了
威圧
水魔法☆
ウォーター
ウォッシュ
デリートウォーター
所持品
革製ヘルメットE
革製肩鎧E
革製胴鎧E
皮手袋E
皮の手甲E
混合皮のズボンE
皮の脚絆E
耐水ブーツ
耐水ポンチョ
草編みカバンE
草編みカバン2号
布カバンE
革製リュックE
木のナイフE
ナイフE
剣鉈E
解体ナイフE
ダガーE
革製ベルトE
小石中538
小石大305
黄銅鉱☆
石炭☆
冒険者ギルド証 517250→516200ヤン
財布 銀貨10 銅貨19
首掛け皮袋 鉄貨31
冊子
中古タオル
中古タオル(使用済み)
中古パンツ
パンツE
ヨレヨレ村の子服セットE
サンダル
革靴E
街の子服Aセット
街の子服Bセット
スキルチップ
ウサギ 0/566
ハシリトカゲ 0/54
ハチ 0/133
カメ 0/576
石 0/491
スライム 0/1001
鳥? 0/301
?S 0/1
サル 0/109
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