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有能スキルも使い方次第でとんでもない事に

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 木の門に近い草藪で昼食にした。外で食べる串焼き美味しいです。肉ソーサー水ソーサー肉ソーサー…。

 よく晴れて温かい風がそよいでいるのに、木の門の近くには門番さん達と僕以外の人は居ない。何故か?それは昼だからだ。
 すぐ側の畑で働く人達は、昼ご飯を食べる為に自分達用の大きな木と小さな小屋のある休憩地で休んでる。小さな小屋で煮炊きしたり、木陰で涼んだり、居なくなってる人が居ないか確認したりしてるのだ。
 商人は朝、もしくは夕方に着くように出発時間を調整してるので、何事も無ければ街道を進んだ先にある休憩地にいるはずだ。
 冒険者は僕みたいにお昼をゆっくり食べる人は少ない。今頃は森の中で歩きながら、もしくは小休止してソーサーなり干し肉なり齧ってるんだと思う。門番さんが僕を見て、敵から逃げてきたのを言い当てたのは、僕に何事かあった可能性を予測したからなのだ。走ってたしね。
 なので門番さんは今の時間に歩いてるローブ姿の2人組なんてのは必ず声をかける。

「お前達、この先に何の用だ!身分を明かせ」

 堂々としてればこんにちはでスルーできるのに馬鹿なヤツ等だなー、なんて思って見てると、前にいたローブの1人が突然抜剣した。

「敵襲ーっ!!」

 門番さんの一声で小屋から見張り塔から増援が出てきた。門を固めるように4人、2人組の前に2人、槍を構えて対峙した。こんな時、冒険者はどうするか?門番に加勢しなくてはならないと冊子には書いてある。Eランクになったばかりの底辺冒険者の僕であってもだ。僕は地面に散らばってる土や石ころを片っ端から収納し、ダガーを抜いて2人組の背後に駆け付けた。

「冒険者の務めとして加勢しなきゃいけない!逃げるなら追わないよ?」

「加勢ご苦労!逃げるなら追わん、引き返せ!」

 わざわざ有利な背後から声を上げたのはこれが目的だ。多分だけど、前の1人は門番を軽く捻れる実力者だと思う。けど後ろの1人はそうじゃない。魔法メインの可能性はあるけど、この囲まれた場ですら棒立ちなのだ。実力者風の1番の弱点を僕が抑えた…と思ってもらえたら嬉しい。

 ダメだったみたい。門番さんが声を上げた途端、僕の左肩に刺突剣が突き刺さっていた。痛い。
 痛いで済むのは剣と腕が良くて、おまけとして痛みを抑えるスキルの効果だろう。逆に冷静になる。貫通してるので下がって抜くのは無意味。なので踏み込んで肩に力を入れて、右手でありったけの土砂を相手の顔目掛けて投げつけた。

「くっ!」

 相手が怯んで剣を離した隙に刺さった剣を収納した。僕が死んだら返って来ないぞ。剣を失った奴に土砂を投げつけながら門番さんの所まで逃げてきた。

「痛いです!」

「よくやった。治療費は出してやる!」

 門を守る槍衾の後ろに隠れると、使えと言われてポーション瓶を渡された。平時には飲んで、緊急時には傷にかけて傷を塞ぐポーションだ。けどこれ、傷にかけても内側は穴開いたままなんだよね。なのでしっかり飲んで、傷口には少しだけ塗る感じにしといた。穴が残ったら切り開かなきゃいけないからね、嫌だけど。取り敢えず出血と痛みが治まりほっとした。
 そうこうしてる間に2人組は逃げ出したみたい。武器もなしに野宿するのは大変だろうな。

「改めて助勢感謝する。よくやったな、若いの」

「ゲインです。冊子に書いてあるんで仕方なく、ですよ。底辺冒険者のやる事じゃないです」

「お前、あんなの律儀に守らなくても良いんだぞ?命優先だ」

 そうだったのか!奪った剣が証拠品になると思って提出しようとしたら、特徴を紙に書いた程度で返された。戦利品、だと。鞘ないし、売るしかないかなー。更に2枚の紙と合わせて3枚、くるくるして持たされた。街の門番に渡せってさ。今起きた事の報告と、僕の治療費を肩代わりする要求書なんだって。
 傷が開くと良くないし、今日はここまでにしよう。お礼を告げて街に戻った。時間はかかるけど早足で帰るべきだろう。
 歩きながらあの2人組の事を考える。武器なしで野宿は危険。ならばどうするか?答えは簡単、門を通らなければ良いのだ。柵沿いに街に向かい、畑を突っ切り街道に出て街に向かえば良いのだ。農民用の休憩小屋を使えば夜を明かす事だってできるだろう。
 そんな事を考えてると、普段は気にも止めない休憩地が見えてきた。僕は畑の中を大きく迂回して、そこからは門まで走った。足手まといの1人を置いていけば隠れて待ち伏せできるだろうからな。多分素手でも僕よりは強かろう。命大事に、だ。

 街中へと繋がる西門に辿り着いた僕は、早速門番さんに報告と、紙束を手渡した。そして詰所で細かい報告をし、木札を1枚渡された。治療院に渡すと無料になるそうだ。売ったり貸したり複製したら鉱山送り、だって。こわやこわや。
 門番さんに、治療院は南門の入口、西側にあると聞いてやってくると、三階建てで幅も奥行きもたっぷりある大きな建物だった。中には結構人がいるね。受付に木札を渡し、指示された2階の奥の待合室で待ってると名前を呼ばれて診察室へ。上着を脱がされ痛い肩を揉み揉みされて、

「ヒール」

 これで終わりだ。村だと薬草を煎じたり軟膏にしたり、切った張ったで大変なのに、魔法はこれだけ、とても便利である。

「またどうぞー」

 完治してるはずなのでお大事に、は違うと思うけど、出来ればあまり来たくはないな。
 街に戻ってしまったので、取り敢えずギルドに向かう。ゴブリンの討伐を報告しないとね。空いてる受付の列に適当に並び、数人で僕の番。

「ゴブリンの常設をしてきたので確認お願い」

 ギルド証と耳を出して、ササッと処理して200ヤン貰う。ゴブリンを討伐したのでランクを上げてもらった。これで僕もDランクだ。
 残り物しかない掲示板を見ても、常設依頼より報酬が高いのが見て取れる。その分危険度も増すんだけどね。明日は早起きして品揃えが良い時に見に来よう。
 ギルドを出て、向かうのは中古武器屋。珍しく店主が起きてて箱に武器を刺していた。それは陳列してるのか?

「ん?ゲインか、仕事は…誰にやられた?」

 肩に開いた穴と血を見て鋭い眼差しを向けられた。きっと、僕の怪我の心配より、どんな得物でどんな使われ方をしたのか気になるのだろう。

「これで刺されたよ。買い取れる?」

 マジックバッグから刺突剣を取り出して渡すと、ふんふん言いながら見回してた。やっぱりそっちだったか。

「こりゃあ良いモンだな、よくぶん盗れたもんだ」

「痛みに耐えてよく頑張ったと思うよ?」

「買ってやっても良いが、お前は使わんのか?金ならあるじゃろ」

 刺突のスキルと相性が良いし、剣のチップも安い。貰っても良いけど返せと言われて襲われる危険があるんだよな。

「鞘がないんだ。肩に刺さった時に収納したからねー」

「そんなモン、収納しときゃよかろう」

「スペースの無駄になるんだよ。マジックバッグは10種類をたーくさん収納できるってスキルだから、剣1本よりキノコた~~っぷり入れたいんだ」

「仕方ない、買い取ろう。できればお前が買い戻せよ?」

「ほとぼりが冷めるまで保管するって事だね?」

「買い手が付けばその限りでも無いがの。ほれ、ギルド証を寄越さんか」

 買取価格、2万ヤン…だと?いくら上乗せして売り付ける気だろうか。ダガーと剣鉈の手入れもして貰って、気になる事を聞いてみた。

「ダガーの刺突って、あんまりゴブリンに効いてないみたいなんだけど、やっぱり急所を狙わないとダメなのかな?」

「普通はそうじゃろ。剣鉈で脳天かち割るのと一緒じゃ。それに衝撃や痛みが違う。この剣で突かれて、大した痛みも無かったろ?」

「逆に冷静になれたよ」

「そうじゃろうの。ワシが武器を荒く研ぐのは相手に与える痛みや出血を増やすためじゃ。この剣は良い剣だが、殺す気の無い剣じゃ」

「出処が良さそうだね、ますます僕には持てそうにないな」

 2本の刃物をシュイーンと研いで返してもらい、2人組の風体を教えたら次は中古防具屋へ。

「…誰にやられた?」

 やたらと低い声が一段と低くなってる気がする。

「なんか凄い使い手。生きてられて良かったよ」

 服の穴をさすさすり、《洗浄》してくれた。

「ありがとう。防具じゃないけどこの服の穴、直せる?」

「すぐ直してあげるから、こっち来て服を脱ぎなさい」

 店主は店の鍵を閉めると、引き返してカウンターの奥の部屋に僕を連れ込んだ。店主さんは上着を脱いで椅子に座る僕を見ながら、器用に服を繕ってる。手元見ないと危ないよ?

「あなたをやったのは街のヤツ?」

「いや、外から入ってこようとしてた。木の門で追い払ったけど…、今日明日には入ってそうだよね」

「特徴を教えなさい?気にかけておくわ」

 此方にも2人組の特徴を伝えておく。服屋界隈に話を通しておくってさ。武器を買うなら鍛冶屋か武器屋、服を買うなら服屋か防具屋。情報を共有し合って街の治安を守っているそうだ。
 繕い料を払おうとしたら要らないって。その代わり、ちゃんとした鎧を買えと言われちゃった。このエプロン程度じゃこんな鋭い刺突には効果をなさないって。そもそも皮じゃ受け止められない。最低でも革にしなさい、だって。命の値段は仕方ないとして、重くなるし、装備しにくく脱ぎにくい。更に蒸れるんだよね。隙間を狙われたら刺さっちゃう訳だし。けど店主の目は僕を心配してくれる強くて優しい目だ。エプロンも下取りしてくれると言うし、店主の言葉に乗っかる事にした。

 この部屋のさらに奥。倉庫の部屋に連れて行かれてガサガサ。出てきたのは肘辺りまで革で包んだ肩鎧だった。シンプルだけど格好良いなー。腕部が筒状なので筋肉量が増すと動きにくくなり、それで売りに出されたのだとか。
 1人で装備できないと買う意味が無いので説明を聞きながら試着してみた。筒に手を通し、きっちりハマるまで反対側にあるベルトを締める…。それを両肩分。この上から胴鎧を着けるんだって。腕と肩をグリグリ動かしてる間に、これに合いそうな胴鎧を持ってきた。腰から上を守る用だ。前後2枚で1つの鎧になっていて、後ろを背負ってベルトで締めて、前を着けてサイドのベルトで締めて…、と言う感じ。首元も守られてるな。これは単純に新規と交換での売り出しだとさ。
 下半身の防御がお留守になってると、皮のズボンを持ってきた。皮のズボンは安物のイメージがあるけど、これは一目で違うと分かる。膝には重ね張りしてあるし、太腿とお尻には革が張ってある。この深い茶色のズボンは、トイレの時脱ぎにくいとの事で売り出されたんだって。確かに切羽詰まった時は困るなぁ。

「試着してみなさい」

「え?ここで?」

「着ないと動きを確認できないわよ?それにほつれも見ないといけないの。さあ早く」

 店主が凝視する前で、仕方なく装備を外し、ズボンを脱いだ。いろんな角度から見られてるけどほつれてるの?装備を着けて靴履いて、足腰の稼働については問題無さそう。しゃがむ時皮特有のぶりぶり音が鳴る程度だ。ゆっくりしゃがめば大丈夫。
 今までより、より茶色くなった。

肩鎧
革製。肘~肩用防具。22800ヤン

胴鎧
革製。胴体用防具。12000ヤン

皮ズボン
皮革混合。補強入りのズボン。6000ヤン

総額 40800ヤン

 エプロンは1000ヤンで下取りしてくれるそうなので39800ヤンだそうだ。着ちゃったし、気に入ったので買っちゃおう。商売上手な店主さんめ。脱いだ街の子セットのズボンは街歩き用だな。畳んで仕舞ってカウンターでお金を支払った。

「ふふ、冒険者らしくなったわね」

「今までは職人でしたからね」

「鎧を着る事っては命のやり取りの覚悟が出来てるって事、忘れないでね?」

「逃げられたら逃げます」

「それで良いわ、坊や」

 お礼と共に店を出た。鎧とズボンを馴染ませたいので少し歩こうと思い、やってきたのは昨日休みだったブラウンさんのチップ屋だ。今日はやってるな。

「こんにちはー」

「おお友よ、いらっしゃい。鎧を変えましたな?」

「いつまでもエプロンじゃダメだって言われて。所で昨日は休みだったの?」

「売り物の仕入れをしておりましてな」

 カウンター横の額には『新入荷!』の文字と共に9枚のキレイなチップが飾られていた。しばらく売る気は無さそうだな。

「あ、気になって聞こうと思ってたんだけど」

「聞きますぞ?」

「威圧のチップっておいくら万ヤンします?」

「銀の上位、目のチップですな。意識を以て発動する、能動的スキルでありますぞ」

「威圧しようと念じる訳だね?」

「左様。お値段は1万ヤンと、なっておりまする」

 手を向ける方には目のチップが並んでた。なんか微妙に目付きが違うのが気になる。

「目付きの違いに気付きましたな?」

「はい」

「目のチップは数種類ありましてな、威圧の他に暗視や魔力視、鑑定眼、魅了等あるのです。威圧を使うのでしたら魅了とのセットをお勧めしますぞ?」

「魅了…ですか?」

「威圧等、能動的スキルは魔法スキル同様、発動にMPを消費しましてな。魔法スキルとは違い、使用後1~2リットの休憩を入れねばなりませぬ。足止めの回数を増やすのと同時に、同時に使えばどちらかが破られても相手の時間を奪えまするぞ?」

「けど、お高いんでしょう?」

「威圧1万、魅了15000の所を…」

「所を?」

「此方の白チップを1枚5ヤンでお好きな数お売り致しましょうぞ!」

 ドンッ!と出された箱は前回の箱より小さいものの、こりゃまたみっちり詰まってた。

「露店の真似ですね」

「買い漁っていたのはゲイン殿でありましょう?」

「まあそうだけどね。取り敢えず数を数えるよ…」

 にんまり顔のブラウンさんを横目に白チップを数えます。10枚1セットにして、カウンターの上で横に並べて100枚で1列。10行作って奥さんがご飯を告げに来た。僕もお腹空いたよ…。

「時間も遅いのでこの1000枚と2種を買います」

「お買い上げありがとうございますぞ!数はこちらでも数えて纏めておきますので、使い切ったらまたいらしてくだされ」

 この箱の中身はいつ来ても1枚5ヤンで良いと言うのでお言葉に甘えるが…、多過ぎて心が折れる。3万ヤンを支払って店を出た。

 夕食を食べてから部屋に戻り、よれよれの服に着替えたら、ベッドに座って今夜もチップを食い千切る作業に入る。先ずは高いヤツ!

スキル : 魅了

魅了 : 相手を魅了する為のスキル。魔力を消費し相手を魅了する。相手の好感度を上げ、動きを制限し、判断を鈍らせる。

スキル : 威圧

威圧 : 相手を威圧する為のスキル。魔力を消費し相手を威圧する。相手の動きを制限し、判断を鈍らせる。

 どちらも凄い効果だが、水魔法の時みたいに魔力量に依存してたら怖い。魔力をどこまで使うかの確認は必要だな。次は1000枚、先ずは種類と枚数を確認しなきゃ…。

ウサギ211 ハチ32 カメ146 石167
鳥54 サル108 オオカミ131 水滴151

 8種類で1000枚もあるのでウサギが200枚以上あったりする。サルとオオカミと水魔法には星が付きそうだな。木登りも洗濯もしてないけど。それにしても、水滴なんてどんなモンスターが落とすのだろうか?…ダメだ考えるな、千切れ。寝落ちするまでひたすら破り吸った。

 ガチャガチャと朝の目覚ましが鳴り、寝落ちしていた事を知る。多分100枚くらいしか使ってないな。今日は休みにして全部千切っちゃおう。洗濯屋さんにも行きたいしな。外着に着替えて朝食食べて、昼前まではチップを使う。
 程よくお腹も空いたので、街に出ていろいろしよう。洗濯屋のおばちゃんに洗濯物とお金を渡し、串焼き買って一旦宿へ。昼食食べたら午後までチップを使い、洗濯物を回収してお風呂。宿で夕食を摂り、寝る時間までチップを使い、自分の指を噛んだ痛みで目が覚めた。どうやら寝ながら千切ってたみたい。全部終わってたけどちゃんと使えてたかは心配になるな。ついでに1枚だけ持ち続けてるチップも使っちゃおう。

スキル : 木登り☆

木登り : 効率よく木を登る為のスキル。木登りに関する移動速度が僅かに増し、無駄な動きを僅かに抑える。

スキル : 噛み付き☆

噛み付き : 効率よく噛み付く為のスキル。攻撃速度と命中率が僅かに増し、無駄な動きを僅かに抑える。歯の強度が僅かに増す。

スキル : 水魔法☆

水魔法 : 水魔法を扱う為の基礎スキル。
ウォーター : 魔力を消費し水を発生させる。
ウォッシュ : 魔力を消費し対象を洗浄する。
デリートウォーター : 魔力を消費し対象の水分を消滅させる。

 木登りはともかく、噛み付きはよく使うのでありがたい。用途違うけど。水魔法は☆が付いた以外は変わらず。威力増してるのかな?朝からMPを消費したくないので、これの確認は夜にでもやろう。しかし木登りか…、木の上から投石で殺れるならそれなりに面白そうだけど、証明部位を取るのに降りなきゃ行けないからなー。収納スペースの1つを石ころにすれば出来なくは無いのか。んー…。

 朝食を食べて、やってきたのは南門。冊子に載ってる簡易地図によると、こっちは木の門のすぐ先に街と外を隔てる大きな川があり、その先は草地が広がっているそうだ。
 新しい装備で走るのは初めてなのでどんな感じか確かめながら走って歩いて木の門へと移動した。走って見て気付いたけど、少し膝が曲げにくいかな。腿も上がりにくい。布より生地が厚いからだな。防御力と運動性は相反するから、そこは我慢するしかないね。速さ的には我慢できるレベル。けど蒸れる。

「お前、何をそんなに急いでる?盗みでもやったか?」

 木の門に着くと、門番さんに怪しまれた。と言うより茶化された。

「ぶひー、おはようございます。装備を新しくしたので走る時の具合を見てたんですよ。皮のズボンも密着するタイプの鎧も初めてなので」

「はは、なら中はもうビタビタだろう?」

「パンツもシャツもビッタビタですよ。川で涼んできます」

「遠くに行くと水を飲みにくる野獣に絡まれるから注意しろ」

 親切な門番さんにお礼を言って、門のすぐ先にある橋の横から川に降りていった。橋は、土台と橋の中程までは切った石で出来ていて、真ん中は木で作られてる。敵が来たら木の部分を落として、足止めとかするのだろうな。橋の下は休憩中の門番さんが3人寝っ転がって休んでる。

「ん?どうした冒険者、水でも汲みに来たか?」

「おはようございます。走ってたので涼みに来たんですよ」

「そうか。野獣をこっちに寄せなきゃそれで良い、俺達は寝る」

 門番さん達は金属鎧を着たまま寝てしまった。門番とは大変な仕事なのだな。僕はと言うと、ビッタビタの服を乾かすため、魔法を使ってみる。まだ試してない、デリートウォーターだ。寝てる人がいるので少し離れて、濡れてないリュックを置く。対象は着てる物全てだ。集中、集中…。

「デリートウォーター」

 おお、パンツとシャツがふわっとした!靴の中のヌメ感もなくなってる!MPは…8%多いか少ないか分からないがこの快適さなら充分だ。よしよし。リュックを背負って更に橋から離れ下流に向かった。

「この辺りなら平気だろ」

 少し下流。鳥が水浴びする川辺には手頃な大きさの石がゴロゴロしてる。今日の目的はこれがメインだ。投げやすそうな石を見繕い、対岸に剥けて投げてみる。投擲スキルの効果はぶっちゃけ分からないが、当たれば痛そうなのでこれでよし。投げやすそうな大小2種類の石をマジックバッグに収納していった。ひとしきり収納して中身を確認すると4種ある事になっていた。

小石小
小石中
小石大
石炭

 石炭は木のように燃える石だ。野外料理には使えるけど今の僕には要らないな。取り出してみると、なんか黒っぽくて光ってる場所がある。金になるなら持って帰っても良いけど、今日の所はさようなら。小石小もさようなら。その後も中と大だけ確保して他のは手放し、所持数上限が判明した。

小石中☆500
小石中140
小石大305

 ここでも星が付いた。星の付いてる方から1つ取り出すと消えるので、上限を示すものだと分かった。小石中で500。砂粒でも500なのだろうか?大きさと重さの変わらない物で試してみないと正確な所は分からないな。
 一旦星の付いてない小石中を草を倒した平地に出して、星の付いてる方の量を確かめたい。掌を平地に向けて、星の付いてない小石中全部出ろ!っと念じるとドバドバ出てきて少し焦った。これだけでも攻撃になるぞ?
 もう1ヶ所草を倒し、小石中を今度は1つ、勢いを付けて出るように念じると、僕の投げたのよりかなり速い射撃となった。マジックバッグは攻撃手段…マジで?この速度でドバドバ撃ち出し、空になると小山が出来ていた。小石中500個、なかなかの量である。
 出すのは早いが回収は大変。手でちまちまするのは時間を無駄にするので小山に抱き着いて全身で収納したよ。さあ、ゴブリンを撃ちに行こう!

 門番さんにゴブリンの居そうな所を聞くと、ほとんどが川の向こうにいて、草地に身を潜めて獲物を待っている、との事だった。それは面倒臭いな。けど街道が東西よりだいぶ広いので何とかなりそうだ。
 橋を渡り、街道の真ん中を歩く。武器は持たず、耳をそばだてて進むと、風でさらさら揺れるのとは違う、ガサッとした音がした。勢いよく街道を走り抜ける僕の横から緑のチビが飛び出してきた。左右から3匹そして2匹、3匹と、どこにそんなに隠れてたのか、どんどん街道に湧いて出た。数えるのよりも殲滅するのが先と判断。振り返ってチビ共に向かって行き、突き出した両手からドババババッと石弾を撃ち放った。頭に当たって即死する者も居るが、身体だと骨折止まりで死んではいない。それでもこの場に来た全員を行動不能にするのは充分だった。倒れてるゴブリンの頭に丁寧に射撃してトドメを刺し、ダガーで耳を切る。耳とゴミと小石を収納してお掃除完了。橋まで戻って数を確認すると、耳56、ゴブリン28、小石中604になってた。拾い忘れてる小石があったようだ。
 川の下流でゴブリンを水葬にする。臭い袋は中に小銭とかが入ってるのでキープして、残りは魚の餌になれ。ゴブリン食った魚が美味しいかどうかは不明だし、下流に漁師がいたら困るかも知れない。袋は全員持ってたみたいで28袋。中身は鉄貨と銅貨のみだったけど、耳より儲かるじゃん。
 橋の下で昼飯のソーサーを齧る。肉が恋しい。魚でも…と思って泳いでる魚に魅了をかけてみた。寄ってきて撫でたりできたけど、調理道具も無いし、愛でるだけで解放した。MP10%減った。2%回復してるのは、きっと自然回復なのだろう。
 昼食を食べて一休みしたらもう1度街道を走ってゴブリン32匹。商隊がやってきて警戒してるので速やかに回収して下流で仕分けと水葬した。耳64と小銭のみ。美味いなー。小銭で財布と皮袋がパンパンだ。木の門に戻るとさっきの商隊が居たので挨拶して先に出た。ゴブリンとは言え商隊の護衛してる冒険者の獲物だった訳だしね。ゴブリンなら良いよって事で勘弁して貰えた。

 混んでるギルドには入りたくないけどとっとと耳を手放したいので出来るだけ短そうな列に並んだ。

「こんにちは、ゲインさん。お久しぶりですね」

 マーローネの列だったか。手早く挨拶して耳120枚とギルド証を出す。左右1セット、2枚で50ヤンであると説明をして明細の板を出してきた。

ゴブリンの耳 120枚 60セット×50ヤン 3000ヤン
総額 3000ヤン

 不満は無いので振込にしてもらう。ついでに鉄貨と銅貨を両替した。長居したくはないけど、聞かなきゃ教えてくれんので聞いておく。

「次のランクまでどのくらいかかる?」

「野盗の討伐が必須条件となっています」

「人数は?」

「1つからですが、臨時でもパーティを組むのが安全ですね。証明部位は顔ですが、全身ある方が理想です」

「どうも」

 どのくらいかかるかの説明は無かった。僕なら採集で好きなだけ上げられるからだな。あるいはいつまで経ってもまだまだ言われるか。全身持ってこいってのはマジックバッグがあるからだろう。死んだ人は入れた事無いけど、多分最大で10人しか入れられないと思う。人は皆名前があるからな、人の死体で一纏めには出来ないだろう。

 宿へ戻って蒸れた装備を外してヨレヨレに着替える。井戸に水を汲みに行き、部屋に戻ってタオルを収納して風呂に向かう。そう言えば近所にも公共浴場があるんだよな。女将さんに聞いて行ってみたら、そこはマッチョの園だった。冒険者ギルドに近いから冒険者が入りに来てるだけなんだけど、みんなして大胸筋をヒク付かせてる。すれ違う度にみんなピクピクってするんだ。あれは挨拶なのか?挨拶もできない無礼者の僕は、浴槽に体を沈める事もできず、体を洗って早々に風呂屋を後にした。マッチョになるまで此処には来れないや。

「あら、坊やもこのお風呂使ってたのね」

やたら低い声の中古防具屋の店主さんが桶とタオルを持ってやってきた。マイ桶か、いいなー。

「こんばんは。ここを使うのは今日が初めてだよ。いつもは西のお風呂に行ってるんだ」

「そう、私もそっちに行こうかしら」

「ゆっくり浸かるならあっちだね。こっちは浴槽が狭く感じるよ」

「ふふ、それもお風呂の醍醐味よ。お風呂で会えたら背中流してあげるわ」

 そう言って別れたけど、その可能性はないよな。混浴じゃないんだし。宿に戻って夕飯食べて、部屋でまったりした。チップを千切らないってだけでこんなにのんびりできるとは。けどチップが無いと口寂しいな…zzz



現在のステータス

名前 ゲイン 15歳
ランク D/-
HP 100% MP 74%
体力 D
腕力 E
知力 E
早さ D-
命中 E-
運 D

所持スキル
走る☆ 走る
刺突☆
硬化☆
投擲☆
急所外物理抵抗☆☆
飛躍 飛躍
木登り☆
噛み付き☆
腕力強化☆
脚力強化☆
知力強化☆
体力強化☆
ナイフ格闘術☆
棒格闘術☆
短剣剣術☆
避ける
魅力

鎧防御術
マジックバッグ

魅了
威圧

水魔法☆
ウォーター
ウォッシュ
デリートウォーター
所持品

革製ヘルメットE
革製肩鎧E
革製胴鎧E
皮手袋E
皮の手甲E
混合皮のズボンE
皮の脚絆E
耐水ブーツ
耐水ポンチョ

草編みカバンE
草編みカバン2号
布カバンE
革製リュックE

木のナイフE
ナイフE
剣鉈E
解体ナイフE
ダガーE
革製ベルトE
小石中588
小石大305

冒険者ギルド証 568150→517250ヤン
財布 銀貨10 銅貨40
首掛け皮袋 鉄貨56
 
冊子
中古タオル(使用済み)
中古タオル(使用済み)
中古パンツE
パンツ(使用済み)
ヨレヨレ村の子服セットE
サンダル
革靴E
街の子服Aセット(使用済み)
街の子服Bセット

スキルチップ
ウサギ 0/358
ハシリトカゲ 0/2
ハチ 0/133
カメ 0/273
石 0/268
スライム 0/1001
鳥? 0/89
?S 0/1
サル 0/109
オオカミ 0/206
腕 0/101
鎧S 0/1
袋S 0/1
脚 0/101
頭 0/101
体 0/101
棒 0/101
ナイフ 0/101
短剣 0/101
蝶 0/1
花 0/1
水滴 0/152
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「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

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