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ミスった。けどまあ良いか
しおりを挟む冒険者の朝は早い。けど僕は昨日同様ゆっくりギルドに入り、短くなった列に並んだ。
「おはようございます」
「おはようございますゲインさん。今日は常設以外のご依頼ですか?」
目を閉じて、声を聞くだけで誰か判るとは、マーローネさんはなんてプロフェッショナルなお姉さんなんだ。
「今日も常設依頼で薬草を採るつもりなんだけど、聞きたい事があったので」
「聞きましょう?」
「昨日、常設の薬草をいっぱい採ったんだけど、採り過ぎて値崩れとかしないのかなって。それと、ウラアカキズフサギみたいに需要がある採集品があれば教えて欲しいんだ」
「確かに、持ち込みが多くなると買取価格にも反映されますね。ギルド証をお預かりします」
ギルド証を渡すと箱型の道具に入れて何やらやってる。話の流れからすると昨日の仕事を確認してるのかな?
「へぇ。だいぶ頑張ったようですね。昨日の今日なのでまだ捌けていませんが、この程度ならまだ値崩れはしないでしょう。それと、需要のある採集品ですが、メモを書いてお渡ししますね」
机の下から薄い木の板を取り出すと、インクとペンでカリカリと品物を書き出していき、確認の終えたギルド証と共に差し出された。
「この中で知らない物はありますか?」
ウラアカキズフサギ
ヌメリニガタケ
デラカライタケ
ウサギノミミモドキ
糖の実
板に書かれた品物を見て難易度の高さを感じる。けどコロニーさえ見つけてしまえば定期的に収穫できてしまう品物ばかりだ。
「下の4つは森の中にある物ですね。一番下のは装備的に無理ですが、どうしても欲しいなら準備しますよ」
「本当ですか?と言うより街の近くにあるんですか?」
「森を歩けばそれなりにありますよ?」
「個人的に買うのでその時はこちらにお持ち下さいお願いします」
マーローネさんの目が開いた。糖の実は、近寄るだけで注意され、取ろうものなら烈火のごとく怒られる子供のトラウマとなっている木の実だ。その怒りはカツリョクソウの比ではない。
2つ歳上のヤックくんは、頭に落ちて来た実に齧り付いて歯を折って、その上大人に百叩きに遭っていた。その惨劇を戒めとして子供達全員が見せられたのだ。あの時の絶叫と鳴き声、そして鞭の音は今でも耳から離れない。ヤックくんは15歳になると、家の家財を盗んで村から逃げるように姿を消した。
マーローネさんが百叩きに遭わないか不安になるが、これも仕事だ。きっと大丈夫だろう。
「では今日はその準備する事にするよ。中古で良さそうな武器と防具の店を教えて欲しいんだけど」
「是非ともお願いしますね」
閉じた目の笑顔が眩しい。中古屋の場所を教えてもらい、お礼を言ってギルドから出た。中古屋が並ぶ通りは、大通りを挟んだ向かい側を1本入った所にある。馬車2台がすれ違うギリギリの道幅しかなく人通りも疎らだ。夜は近付きたくない。
2本の剣が交差する看板の店が教えて貰った中古屋の1つに違いない。中に入ると、薄暗い店内に武器を押し込んだだけにも見える雑多な品揃え。店主はどこだろう?
「こんにちは。客ですよ?」
返事はない。仕方ないので欲しい武器を探す事にした。この店で買いたいのは金属製のナイフだ。投げナイフでも解体ナイフでも、なんなら鉈や手斧でも構わない。切れるナイフが欲しいのだ。箱の中にごちゃごちゃ入ってるナイフ類を見つけたが、この中に手を突っ込む気にはなれないな。
「刃引きしてあるから切れはせんぞ」
カウンターの奥で寝ていたのか、むっくり起き上がる毛むくじゃら。店主はドワーフの人だったみたい。
「ギルドの受付に勧められて来たんだけど、これ刃引きしてても刺さるよね?」
「冒険者なら上手く躱せ」
なって2日でそれは出来そうにない。なので上にあるやつから1本ずつ引き抜いて箱の脇に並べながら良さそうな物をチョイスした。そして僕の目に適ったのがこの3本。
ナイフ
見慣れた形で切る刺す出来る。料理にも使える。
剣鉈
ナイフを大きくした感じで少し重い。薪割りだけでなく料理にも使える。
解体ナイフ
ナイフより刃が短く薄刃。皮を剥ぐのに使われる。
「全部買ったら研ぎはタダにしてやるぞ?」
「値段次第だよ。3つでいくら?」
「鞘込みで3400だ」
「鞘込みなら安いかな。買うよ」
「研ぎたくなったら持って来い。1つ300ヤンで命が守れる」
その言い回しは断りづらいな。それにしてもこの店は物を売るより研ぎで稼いでるようだね。店主は品物を持って奥に行くと、ヂュイーーーンと大きな音を何度か鳴らして帰って来た。
「ほら、出来たぞ」
「早いね」
「冒険者の持ち物ならこれくらいで充分だ。研ぎ過ぎるとすぐに身が無くなっちまうからな」
鞘に入ったナイフをカバンに仕舞い、お礼を言って店を出た。次は防具屋だ。防具屋はこの店の4軒隣の向かい側、盾の看板が目印だ。中に入るとこちらは明るい店内だった。雑多なのは変わらないけどちゃんと店主が起きている。
「いらっしゃい、可愛い坊やくん」
「こんにちは。お客さんです」
店主はやたら声の低い女の人で、体のサイズを測っているのか、僕の体をずっと見ている。
「動きやすくて軽い靴と上着が欲しいんだ」
「予算は如何程?」
「難しいなー。命の値段は付けられないよ」
「んふ、良い子ね。ならこれでどうかしら?」
カウンターの奥に体を突っ込み、お尻を振りながら何か探してる。回り込んで探した方が早いと思う。で、出てきたのは皮?一枚皮に革紐が何本か付いている。
「皮と、紐ですね」
「エプロンよ」
「なるほど。家具屋さんとか細工屋さんが着けてるね」
「手足や背中は守れないけど、そこは他の防具で補えば良いのよ」
腕と脚を守る脚絆と手甲、手袋に靴。皮の帽子を被ってリュックを背負えば防御はバッチリ…なんだけど予算が足りない。特にリュックはそれだけで18000ヤンもするので今回は諦めた。
エプロン
皮製。膝から首元まで汚れやダメージから守ってくれる。2000ヤン
手甲
皮製。手首から肘の付け根まで汚れやダメージから守ってくれる。800ヤン
脚絆
皮製。足首から膝下まで汚れやダメージから守ってくれる。1200ヤン
革靴
革製。足元の汚れやダメージから守ってくれる。5000ヤン
手袋
皮製。手の汚れやダメージから守ってくれる。2000ヤン
帽子
皮製。頭部のダメージから守ってくれる。2000ヤン
安いのを見繕って貰ったけど全部は買えないな。今回は初めの希望通り、エプロンと靴にしよう。
「予算の都合でエプロンと革靴を買う事にするよ」
「そう。お金が貯まったらまたいらっしゃい。貯まってなくても3日に1度はいらっしゃい。装備を《洗浄》してあげるわ」
洗浄とは?と聞くより早く、店主の両手が頬に当てられると、ビシャッと濡れてすぐ乾いた。
「うっ!これは?」
「キレイになったわね?本当は体にはしないけど、《洗浄》はサービスだから必ずいらっしゃいね?放っとくと皮は汗を吸って臭くなるから」
よく見るとカバンも服もキレイになってる。洗濯する手間が省けてとても助かった。この店もまたアフターケアに力を入れてるみたいだね。因みに修理は有料だそうな。準備の半分は揃ったので装備を着させてもらってお礼を言って外に出た。
3400+7000ヤンで10400ヤン。残りは確か8400ヤンだったかな?買おうと思えば買えたけど、予備費は残しておかないと悪天候で野宿する羽目になるから散財注意だね。パッと見職人になった僕の向かう先は森だ。門番さんに挨拶して門を抜けたら街道を走って歩いて移動する。糖の木を探す所まで出来たらいいのだけれど、とにかく準備がまだなのだ。木の門の門番さんにも挨拶したらそのまま走って森に直行した。
森の手前。草薮と木の枝葉で奥が見えないが、今日の目的地はここなのだ。木の枝葉に蔓植物が絡んで上へ上へと伸びている。コイツが必要だったのさ。
蔓を掴んでゆさゆさ揺すって引っ張ると、ガサガサゆっくり降りてくる。長い物は30ハーン以上もあったりするけど、森の手前のやつは日当たりが足りてるのでそこまで長くはならない。それでも15ハーンは超えてたけど。蔓の先の方に、赤ちゃんの頭程の大きさの丸い実が付いてる。これはワタウリ。布の原料となる綿が採れる実で、熟す前だと食べられる。勿論大人に見つかると怒られるのでガサガサは慎重にやらなければならないし、蔓や葉もしっかり隠す必要がある。吐き出した種が見つかって、食べていた兄と、連帯責任で食べてない、しかも近くにいなかった僕までこっ酷く怒られた。あまりに不条理だったので母さんに泣き付いて逆襲したよ。
ナイフを使って蔓から葉を切り取ったら1ハーン程の長さに鉈で切る。先の方は使えないが、枝分かれしてるので21本の棒が取れた。それをナイフで縦に1本切れ目を入れて皮をめくり、後は手でミリミリーっと皮を剥ぐ。ここでの作業はこれにて終了。蔦の皮を縛って担ぎ、カバンに若ワタウリを詰め込んで、更にカツリョクソウを30本摘んで帰った。
「こんにちは。その担いでるのは何でしょうか?」
ギルドに寄る前に宿に荷物を置いてくれば良かったかな?買い取りのメロロアお姉さん、売り物じゃない方に気が行ってるよ。
「こんにちは。これはただの蔦の皮だから売り物じゃないよ。売るのはこっち」
カバンからカツリョクソウを出してるのにメガネをかけて蔦の皮見てる。何がわかるの?若ワタウリも見られてしまった。
「ワタウリの蔓なんてどうするのですか?それに、その実だと綿も種も取れませんので買い取りできませんよ?」
「食べるんです」
「へ?まあウリですから食べられるとは思いますが…、それも村の知恵ですか?」
「食べると怒られる、子供のおやつだよ」
「種や綿の方が価値は高いですからね」
布は高いからね、仕方ないね。甘いのに。ナイフで割って中身を見せてあげた。
「ああ、まだ実がふわふわになってませんね」
「このワタワタを食べるんだ。種は食べないよ?」
「頂きます…」
ワタワタを一摘みすると、種を外して口に入れる。舌を伸ばして食べる姿がちょっと色っぽいな。
「ん、んん…。確かに甘いです。ただやはり、種や綿の価値が優ってますね」
「村でもたまに未熟なのが採れると、煮詰めてソーサーに塗って食べたりしてたよ」
「買います。私が買います。1つ800ヤンで全部買います」
成熟した種よりはだいぶ安いと思うけど、食べ切れないし調理器具もないから売ってしまっても良いだろう。
カツリョクソウ 品質高 30本×80ヤン 2400ヤン
ワタウリ(未熟実) 品質高 6個×800ヤン 4800ヤン
総額 7200ヤン
と、なった。もうお金出してるし、断れない雰囲気作りに余念がないメロロアさんである。ギルド証に全額振り込んでもらったよ。ホクホク顔のメロロアさんに見送られ、ギルドを後にし宿へと戻った。
いつもの部屋で、明日のための準備に取り掛かる。担いできた蔦の皮の外皮を削り取る。エプロン越しの膝の上に皮を乗せ、鉈を押し付けて皮を引っ張ると外皮がどんどん削れていく。それを何度かやると柔らかい内皮が残る。全て内皮に削り終えるとそれを綱に加工する作業だ。細めに割いたら2本撚りにして、太さ1ドン、長さ5ハーン程のロープを作る。これを更に2本撚りにすると、僕の体重を余裕で支える綱になった。両方の索端を余った繊維で縛って完成だ。ロープ作りは雪の時期の内職だ。バサバサした麦の茎でやるよりずっと楽で早くできたよ。お風呂は入らなくて良いし、今夜はご飯食べたらすぐ寝ちゃおう。
夕飯は食べやすく小さく切った焼肉と、とろみのあるスープ、ソーサーが3枚に1杯無料の水が出た。料理があるとソーサー3枚は多いんだよね。夜なら2枚、朝なら1枚で充分だ。夜の分のソーサー1枚を朝食に回して、朝の3枚を昼ご飯にしたら物足りなくならずに済むな。カバンに仕舞って部屋に戻った。
予定通り、翌朝は昼ご飯を3枚ゲットした僕は森に直行する。ギルドに寄らなかった分早く街を出るので周りには冒険者や商隊の馬車が街道を移動してる。走って歩いての移動は僕しかやってないので追い越した人にチラチラ見られるが、時間は人を待ってはくれないのでペースを変えずに移動した。
木の門で門番さんに挨拶したら、柵沿いに森に入る。野獣やモンスターが現れても分かりやすいように草を刈ってあって歩きやすいんだ。それに薬草を踏まなくて済むしね。
草薮を抜けて森に入ると、薄暗くて湿度が高く、ほんのり肌寒く感じる。左右をゆっくり見渡しながら、目的の木を探すためゆっくり歩き出した。
糖の実は熟すと枝などにぶつからない限り、真っ直ぐ下に落ちる。そして斜面を転がって、窪みや転がり切った先で根を下ろす。なので、斜面の落ちきった所を探すのが糖の木を見つけるポイントなのだ。この場所は平地とは言え斜面がない訳では無い。森の外側からは見えないだけで結構斜面があったり凸凹してるのだ。
1オコン程歩き回り、やっと目的の場所を見つけ出す。窪地の中央、群れるように何本も生える太い幹。これなら実もあるはずだ。その前に、先ずは地面を、そこらに落ちてる枝等で掃いて掃除する。落ちた実を見失わないためだ。既に落ちてる実は、割って白かったらカバンにキープして、赤い筋があったら古いので遠くに投げ捨てる。そのうち芽が出ると思う。
一頻り掃除したら収穫作業に取り掛かる。幹に綱をぐるりと回して輪っかに結び、中に入って背中に体重をかける。すると摩擦の力でずり落ちにくくなって木に登りやすくなるのだ。枝分かれしてると登れなくなるけど、その時は枝に乗って結び直せば良いんだ。切れない事を確認したら、えっちらおっちら登ってく。
糖の実は、幹や枝に直接成っている。木の下を囲むように網を張れば落ちた実を簡単に収穫出来るので、村ではお金を出しあって網を設置してた。網の補修をしたり辞めずに続けてたので費用対効果はあったのだろうね。
こちらでは、綱に触れた実がボロボロと落ちていく。手の届く範囲だけはカバンに仕舞い、枝分かれに到着したら、怖いのを我慢して枝を揺らしてやるとこれまたボロボロ落ちていく。手付かずの木だからか結構成ってるな。あまり採り過ぎても持ちきれないのでこの辺にしとこうか。下に何もいないのを確認してスルスル滑り降りてった。
落ちてる糖の実を拾い集めてカバン2つがパンパンだ。カバンに入れてたパンツは二重に履いて、ナイフや鉈は、綱を解いた細いロープで体に括り付けてスペースを確保。スキルチップはもうぶっちゃけ捨てても良いけど、何か勿体ないんだよね。貧乏性ってやつ?捨てるくらいなら使った方が良いだろうって事で、破いて煙をスーハー。森から抜けるまでスーハーしながら移動した。
スキルチップのスペースよりも、シャツインした服の中に入れた方が多く入る訳で、スーハーしながら移動してた僕を殴ってやりたい僕がいるのはギルド前。大漁の喜びで考えが及ばなかったんだな。300ヤン程の空気、美味しかったです。
スイングドア越しに中を見るが、夕方のギルドは朝にも増して混んでいる。真夜中だろうとギルドは営業してるので、一旦宿に帰って後でまた来よう。
「あ、ゲインさん!待って!」
買い取りのお姉さんメロロアさんに呼び止められて注目を集めてしまった。今の僕は荷物がパンパンだから出来れば後にしてほしい。
「また後で来るよ」
「でしたら迎えに行きますので、宿で待っていて下さい」
待てと言われて素直に待つ僕ですが、お腹は空くのでご飯は食べました。明日の昼ご飯はソーサー2枚です。二重に履いたパンツを1枚にしたり、残ってたスキルチップを使っちゃったりして暫く部屋で過ごしていると、女将さんが呼びに来た。カバンを担いで降りてくと、メロロアさんとマーローネさんが迎えに来てくれていた。
「こんばんは。マーローネさん、採ってきましたよメロロアさんの要件は何でしょう?」
「ここではなんですからギルドで話しましょう」
糖の実が手に入れられるとあって嬉しいのか、マーローネさんはとびきりの笑顔だ。
「取り敢えず移動しましょ?」
早く要件を済ませたいのか、メロロアさんは急いでいるな。僕も荷物を売り捌いてしまいたいので急ぐ事にした。
ギルドに着いて、カウンター…へは向かわずに奥の部屋に通される。他人に聞かせたくない話をする時に使われる部屋なんだってさ。テーブル1つに椅子4つ。椅子に座ると対面に2人が座る。
「……では私からでよろしいですか?」
話を切り出してきたのはメロロアさん。昨日作ったワタウリの煮詰めたのが思いの外美味しかったそうで、売り出す為に取ってくれないかと言う相談だった。マーローネさんは甘味と聞いて驚きの顔をしていたが、僕は断った。熟した種や綿を採った方が断然儲かるからだ。それだったら綿農家と契約して未熟実専用の畝でも作ってもらった方が良い。農家は嫌がるだろうけどね。綿の収穫量が増えて種が安くならない限り、実を食べるなんてとんでもないのだ。
次はマーローネさんなんだけど、メロロアさんと僕が話してたので着いてきただけだった。品物はあるのでテーブルにカバンを乗せて、買えるだけ買ってもらう事にした。
「これ、全て糖の実…ですか?」
「え?糖の実採って来たんですか?見ますのでちょっと、ちょっとお待ちを!」
だだっと部屋を出て行ったメロロアさんは、メガネを持ってすぐに帰ってきた。
「うわ、本当に糖の実ですよ。モドキじゃないです」
「この辺りだとモドキを探す方が難しいよ?あれ海がないと育たないんでしょ?」
モドキ。トウノミモドキと呼ばれるそれはサンヤシの実だ。海沿いの砂地に群生し、種を波に乗せて移動させると言われている。僕は見た事ないけど父さんと母さんは見た事も食べた事もあるそうで、とにかく酸っぱいらしい。糖の実がよく採れた日の夜、自慢げに聞かされた古い思い出だ。
「流石に、こんなに採ってくるとは思ってなかったので全ては買い取れません、申し訳ございません」
「でしたらギルドが買います。貴族に売りつけて暴利を貪ります」
「売り先は製造者じゃないの?」
「あ…、そうでした…」
砂糖は砂糖屋で作られる。なので買うのは貴族ではなく砂糖屋となる。元々高い糖の実が、貴族を仲介しようものなら値段が跳ね上がるどころか売上すらなくなる。要するに、奪われちゃうのだ。やれ献上する栄誉を…だとか、やれ我が領地で採れた物は我の物…ってな感じで。なので、小売店以外は貴族に物を売ってはならない。奪われて殺されても良いならご自由にどうぞ?
「適切に売って下さいね。貴族といざこざしたくないし、他の国に引っ越すのも面倒なので」
「分かりました。申し訳ございません」
糖の実68個は2つがマーローネさんの手に、残り66個がギルドの買い取りとなった。
糖の実 品質高 66個×4500ヤン 297000ヤン
同 2個×4500ヤン 9000ヤン
総額 306000ヤン
「一気にお金持ちになっちゃったな」
ギルド直営店で寝泊まりするだけなら3ヶ月は寝て暮らせるだろう金額になったよ。これで悪天候が怖くなくなった。冬越しするにはちょっと足りないけどね。財布に金がないので6000ヤンだけ受け取って、残りはギルド証に振り込んでもらい、今夜はこれで解散。宿に帰って寝た。
翌日は休み。朝食を摂って買い物に出た。一昨日の店で買い逃したリュック等がほしいのだ。ソロ活動に一番必要なモノは背後を守るモノ、と冊子にも書いてある。それは装備であり、スキルや能力であり、仲間である。最後のはソロじゃなくなってしまうけど、いつまでもソロなんてしてるなよ?って言う戒めなのだろう。まあ、稼ぎ次第だよね。
とにかく、今用意出来る物は装備だ。スキル屋さん知らないし、Fランクなんてパーティ組むと損しかしない。
「いらっしゃい、ちゃんとまた来たわね」
やたら低い声の店主さんに一昨日の装備を用意してもらう。稼いだならもっと良いのを…って言われたけど、まだ戦闘もしてないし、ゴブリン相手に良い装備は勿体ないのだ。
リュック、手甲、脚絆、手袋、そして皮の帽子ではなくちょっと性能の良い皮のヘルメットを購入した。
リュック
革製。荷物の入る背中用防具。中の荷物が雨に濡れにくい。18000ヤン
手甲
皮製。手首から肘の付け根まで汚れやダメージから守ってくれる。800ヤン
脚絆
皮製。足首から膝下まで汚れやダメージから守ってくれる。1200ヤン
手袋
皮製。手の汚れやダメージから守ってくれる。2000ヤン
ヘルメット
革製。頭部用防具。4000ヤン
総額 26000ヤン
「《洗浄》してあげるから装備を外しなさい?それと、おまけにコレあげるわ」
ベルト
革製。腰巻等を固定する道具。武器にもなる。
ナイフをロープで縛っていたのが気になったようで押し付けられてしまった。けどこれは良い物だ。鞘のベルトホールに差し込んで、カバンに入れてた時より断然取り出しやすくなった。
《洗浄》した物と買った物を装備して、とても茶色くなった。
「新米にしたら良い装備よ?」
「新米には買えないだろうね」
「なら新米脱却ね」
「まだまだ街の中も知らない新米だよ。スキル屋さんすら行った事がないんだ」
それならアソコとアソコ…と三店舗教えてもらえた。先日見つけた露店は良い物はかなりぼってるそうで、200ヤンしたハチのチップも多分倍くらいぼってるかも?だそうな。それでも350ヤン値切ったのだからこちらの儲けは大きいはず。…なんだけど、
「同じスキルチップを何度も使う人なんて初めて見たわ」
だって。素直にギルドに売っ払っちゃえば良かったなー。お礼を告げて店を出て、教えてもらったスキル屋さんに行ってみた。
高い。店の中は壁一面にチップが並び、通路にも壁を作り表裏にチップが飾られていた。チップの下には値段と簡単な効果が書かれていて、全部は見てないけど最低は1000ヤンくらいからかな?例えば…
剣のスキルチップ
剣技上昇系
2000ヤン
こんな感じで書かれてる。銀色のチップでこの値段は、この店の他の品と比べると安い方だ。僕が使いまくった白いチップも、流通量や効果の善し悪しで値段が変わってる。その最低額が1000ヤンで、それ以下のクオリティの物は扱ってないそうな。低ランクの物を欲しがる僕を訝しそうに見てきたので、趣味でコレクションしてると嘯いてみたら、奥から虹色に輝くチップを持ってきて見せびらかされた。
「これは…、使うなんてとんでもない品ですね。袋の絵?でしょうか?」
「その通り。これは空間系スキルの頂点、異空間収納のチップですぞ?同系統スキルであるマジックバッグの100倍、マジックボックスの10倍は収納できると言われておる代物なのですぞ」
「輝きからして違いますね。もしや、これは遺物で?」
「その通り!ダンジョンや遺跡からでしか発見されない奇跡のチップなのでありますぞ」
遺跡やダンジョンってのは、冒険者なら必ず行くと言っても過言ではない場所で、モンスター等を倒すと死体の代わりにアイテムを落とすのが特徴的な場所なんだ。なのでスキルチップのドロップは自然と多くなるらしいんだけど、剣や石、袋みたいな生き物じゃないチップの殆どは宝箱から出るのだそうで、ドロップ品とは分けて遺物と呼ばれているそうな。虹色に輝くチップなんてのは相当奥の奥の宝箱からしか出ないのだろうね。良い物を見せてもらったと、お礼を言って店を出た。この店は、まだ僕の来るような場所じゃなかったよ。次の店まで移動して、入るのを止めた。店の作りからして更に敷居が高かったんだ。
踵を返して三店目。こちらは中古屋と同じ匂いがするのできっと僕向きだ。お金はあるんだけど生来の貧乏性が使わせてくれないのだ。今日はリュックとかも買っちゃったしね。
「こんにちはー。お客でーす」
中に入ると、カウンターには女の子の首だけ見えてる。お店番しててえらいな。
「貴様、ワレが子供に見えておるな?」
「見た目を気にするなら仮面でも付けたらどうかな?女の子に歳は聞けないし、仕方ないよね?」
「帰れクソガキ!」
「スキルチップ見たら帰るよ。仕事を仕事と割り切れないような奴は大人じゃないよ?」
壁に飾られたチップと説明、値段を見ながら大人の仕事を教えてやった。それでも罵声を浴びせてくるので無視して見まくろう。安いの無いかなー?
ぐるりと見て、カウンターの横に束になってる箱を見つけた。1枚8ヤンだって。束を掴んで1枚1枚確認してく。
「勝手に触るなクソガキ」
「これ以上罵声をくれるなら衛兵詰所に被害届出すから」
やっと静かになったよ。束になったスキルチップは単品2枚を含めて6種88枚。全部買っても704ヤン。財布から銅貨7枚と金袋から鉄貨4枚取り出してカウンターに置き、チップの束を持って外に出た。
気分も害された事だし、宿に戻ってゆっくりしようか、それとも露店でスキルチップを買い漁るか…。お昼ご飯はソーサー2枚なので口寂しくなるけど、宿のご飯だとソーサー多過ぎちゃうんだよね。露店で売ってた串焼きでも買って部屋で食べるかな。
そんな訳でやってきた露店街。街中を歩き回らなくてもここなら大体揃ってる。冒険者用の小型コンロに水筒やヤカン、鍋に食器、食料品に薪や石炭まであるよ。勿論スキルチップも売っていた。1枚10ヤン。露店はやっぱり多少なりともぼっているようだ。
「お前、他の店でゴミチップを買い漁ってたろ?」
「スキルチップの研究してるんだけど、高いのは買えないからね」
「ならコイツら全部買ってけ」
「おまけしてよ。前の人もそうしてたのは聞いてるんでしょ?」
「ちっ、ならこれも買えよ。10枚で500だ。買ったらこっちは1枚5ヤンで良い」
「そんなに売れない?」
「ああ。ダンジョンで稼いでる奴らは同じのばかり取ってきやがる。希少でも需要が無ぇんだ」
「それわかる。常設の薬草も採りまくると買取り下がるしね」
売れると判るとそれなりに対応してくれる。強面だけどこっちの人はちゃんと大人だな。
ゴミチップは枚数だけ調べて156枚。種類は宿で検める予定だ。780+500で1280ヤン払って露店を離れた。串焼き買って帰ろう。大きなお肉がいっぱい刺さってタレがかかって1本300ヤン。財布に銅貨が足りなくて、銀貨を出したら凄く嫌な顔をされた。ごめんて…。
現在のステータス
名前 ゲイン 15歳
ランク F/-
HP 100% MP 100%
体力 D
腕力 E
知力 E
早さ D-
命中 E-
運 D
所持スキル
走る
刺突
硬化
投擲
所持品
布の服E
布のズボンE
パンツE
革製ヘルメットE
皮手袋E
皮の手甲E
皮のエプロンE
皮の脚絆E
革靴E
草編みカバンE
布カバンE
革製リュックE
木のナイフE
ナイフE
剣鉈E
解体ナイフE
革製ベルトE
冒険者ギルド証 18800→306000ヤン
財布 銀貨3 銅貨11
首掛け皮袋 鉄貨26
冊子
中古タオル
中古タオル
中古パンツ
サンダル
串焼き
スキルチップ
ハチ 0/1
ウサギ 0/23
カメ 0/35
石 0/13
未確認 88
未確認 10
未確認 156
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一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
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公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
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「婚約は破棄だ!」
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彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
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【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
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侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
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「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
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