上 下
1,489 / 1,519

立ち惚け

しおりを挟む


 施設での朝の仕事を終えて、その足で寝具店に向かい、既に帰省していたサミイとエージャの三人で商品の搬入を行う。

「はいっ。水と光各三千に火が千。確認出来ました!」

「品切れ状態でしたので直ぐに無くなると思われます。私の中にも補充お願いします。今直ぐ」

メッツ君を抱いてないと平常運転のエージャだ。

「この後はすぐにエディアルタですか?」

「お手紙持ってかなきゃだし、ゆっくりは出来無いな」

「素早くお願いします」

「するならゆっくりな。つーか島に来いよ」

島に永住したいとか言ってる癖に来たら来たで借りて来た猫になるんだよな。ちゃんとママ上殿を説得してメッツ君も連れて遊びに来いと告げた。

早く仕事を済ます為、エディアルタへと《転移》する。

カツンッ

気が付く前に体に何か当たった。落ちてってるのは…矢か。上手いモンだな。真下を通る街道に向かって降りて行き、矢を拾った。早く仕事を済ませてしまいたいが門前では列を成している。諦めて列に並んだ。

「あ!お前!アタシの矢ー返せー!」

最前列迄後三人と言う所で街の中から女が駆け寄って来て、俺の拾得物を奪おうと手を伸ばす。矢を持つ右腕を高く上げると、女は両手を伸ばし飛び跳ねる。俺はそっと左手を胸に添えた。

「ウゲッ」

門内の壁に背中を打ち付け、女の子らしからぬ声を上げる女。

「コレがお前のだとしたら、お前が俺を狙って撃ったんだよな?」

「うう…、空なんて、飛んでるから…」

「殺る気なら殺られる覚悟もあるんだよな?返してやるから受け止めてみろ」

矢を浮かせ、回転を掛ける。

「おい!貴様っ!」「ウチのメンバーに何すんだっ!?」

威勢は良いが、離れ過ぎだ。俺が情け無用の男ならこの女は死んでるぞ?回転する矢は女の首を逸れ、壁にめり込んだ。

「あ…あわ…」

「おしっこ漏れちゃったね~」

「コラ。面倒事を起こすな。壁の補修も只じゃ無いんだぞ?」

門兵が呆れた様子で問うて来るので後始末はこの女とパーティーで賄ってもらうよう返しておいた。

「メルリンッ!メルリーンッ!」

「貴っ様ーっ!」「それより回復!ポーション出して!」

やっと駆け寄って来たパーティーメンバーが俺に掴み掛かろうとして仲間に止められた。

「ナシならソコで付けてやる。俺の仕事が終わったらな」

門を潜り、ギルドへと向かった。

「えっと、マスターにご用件とは?」

丁寧な対応だが話が通って無いらしい。俺があまりに来ないモノだから忘れられちゃったのかも知れないな。魔道具を出して卸しに来た旨を伝え、ギルマスには倉庫での確認作業の立ち会うよう、連絡してもらう。

「では、一旦買取りの方でお待ちください」

「全部で七千あるからね?カウンターで済むと思うなよ?」

「わ、分かりました」

カウンターで終われると思ってたなこりゃ。倉庫に近いから買取りカウンターの方に行くけどさ。

「もしかして、カケルさん?」

買取りカウンターの近くで立ち惚けて居ると、カウンターの隅から声がする。大型の水晶玉から顔を覗かせるのは数少ない男の知り合い、マニアだった。

「覚えてたのか、久しぶりだな」

「そんな鎧着てるの貴方だけですからね。魔道具の納品ですか?」

「察しの通りだ。流石古株」

「あの受付嬢よりは、ですがね」

立ち惚けで勃ち勃起な俺は目立つので、とっとと此方へと倉庫に連れて行かれた。体の良いサボり草を見付けたな?

「マスターが来なかったら《威圧》とかするでしょ?先に物を出しといてください。僕も検品出来ますので」

真面目に仕事をするようだ。荷降ろしすると、薄板にペンで中身を確認。間違いが無い様、俺も立ち会う。

「水三千の…光が三千。火の鉄板は本当に嵩張りますね。コレが千…っと確認お願いします」

途中から仲間が加わり検品を終えると、漸くギルマスがやって来た。

「何だ、先に終わらせちまってたのか」

終わる時間を見越して来たんだろうが。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...