上 下
1,441 / 1,519

義理を通す

しおりを挟む


 詫びを入れた二人には丁寧に接する。世の理だ。

「お詫び、聞き入れましょう。ケーンケーン殿は何処かのご令嬢で?」

「え、あの…」

「私とケーンケーン以外は皆、元令嬢だ。ソイツは当家の子飼いだがな」

そう言ってドヤ顔するルジェ・バンドン。しかしお前には聞いてない。

「努力なさったのですね。感服します」

華麗にスルーしケーンケーンを褒めると、山羊っぽい顔に紅が差した。

「ハリシュ様、獣人好きとは、どうかしているのでは無いか?」

「それは当人の嗜好だ。仕事には関係あるまい」

「差別は良くない。それに俺は角のある女性には優しく接すると決めてんだ。妻も妾も、角が生えると怖いからな」

「女の尻に敷かれるか。全くお笑いだな」

「ハハハハハ」

「何が可笑しいっ」

俺が笑うと何故か怒るバンドン。キレ芸かよ。

「お前が笑う所だと言ったから笑っただけだ。取り敢えず話するなら座ろうぜ?」

「そうだな。皆、席へ着くのだ」

俺が座ると右からケーンケーン、カルーセル、バンドン、ハリシュ。左隣には何故かタックが座った…ああそうか。そう言う事か。

「タックは真面目なんだな」

「ど、どうした急に」

「直ぐに依頼に出るのでは無いのだろ?良かったら俺がやってる風呂屋に来てくれ」

「石鹸なんて使ったら敵にバレるだろうが…」

「大丈夫だ。後でハリシュに聞いてみれ」

「うむ、それはまた後程、な。では…」

訝し顔のタックに割り込んで、ハリシュが音頭を取った。

 依頼の内容を聞いて頭を抱える。依頼内容の前に、先ずこの依頼はギルドを通してない。直接依頼が無い事は無い。俺だってディカッカの依頼受けてたしな。だがそれは報酬面等で揉めたりする訳で、折り合い付かぬ間柄に、仲良くしろとか言われたりするのだ。反故に出来なきゃ笑うしかないよな。
で、依頼の内容だが、ハイネルマール絡みであった。

「密航船の護衛だろ?そんなに食い扶持足りないのか?」

「何を馬鹿な事を。義によって請けたに決まっているだろう」

ドヤ顔バンドンは内外問わずガワだけなのな。

「その心意気や良し。だが、俺の知る限りあの海峡封鎖の経緯を教えといてやるよ。それを聞いて義理を通すのなら、止めはしない」

俺はバルタリンド南征ルートが封鎖になった経緯を説明した。そして今回の依頼がギルドを通さなかった訳も。

「ドラゴンが統べる国…」

「国と言うか、ウラシュ島全土だな」

呟いて俯くケーンケーンの横顔は髭は無いものの殆ど山羊だ。

「その説明を信じると仮定して、キネイアッセンに乗り込んだら私達の命は無いよね」

「軍港には無人で飛べる騎竜も居るし、話は聞いてくれそうも無いな」

長台詞を吐いたタックが俺の水を飲む。俺のなのに…。

「これ水じゃん」

「お代わりもあるぞ?」

水の棒からジョロジョロ注ぐ。無詠唱魔法と勘違いされた。

「聞いたからには行かないとは言えんよな?」

ドヤ顔のバンドンが一番問題だ。

「問題山積みだけど、本当に請けるのか?もう受けちゃってるんだろうけどさぁ」

「問題等無いっ」

「お前、その鎧で泳げんの?落ちたら死ぞ?」

「落ちなければどうと「冒険者は常に最悪を想定して動くモノだ。それに」」

「山積みと言ったな。他に何がある」

「金属鎧の件を抜いて二点…三点か。ルート封鎖は国同士が決めた事。それを破ればハイネルマールは国賊だ。それに加担するのか。これが先ず一点。次に、ドラゴンの統べる国、ミネストパレスの女王は俺の妾で、ウラシュ島を盗り合ってたキネイアッセンの旧帝国、現カケラントの国王は俺だ。俺がアフマクシア王を退位させて迄結ばせた決め事を破るとなると、三国からのお尋ね者になる。それでも逆賊に加担するのか。以上…何点だ?」

五人固まってしまった。

「王…、とてもそんな風には見えないが」

「成り上がりなんだよ。偉そうでなくて悪かったな」

バンドンの、嫌味で無く、素の意見に反応してしまった。

「カケル殿、私達はどうしたら良いのか…」

報連相出来るハリシュは良い子だ。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...