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フェザータッチ

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 外に出て、空気が冷たくて美味い。山の法面に半ば埋まって造られてるのは集合住宅か。崖崩れの防護の意味合いもありそうだ。見学しながら街を歩き、右大外回りでぐるっと大体半周した。法面を過ぎた左手側には外と街とを隔てる外壁の代わりに密着した家が建っていて、民家に混じって店舗が増えて来る。隙間であった場所は詰め物がされて、意図的に壁にしているのが分かる。建物の高さも揃えてあって、住民が雪下ろしか何かの作業してた。襲撃の応戦に使われるのだろうな。
店舗の業種は様々ではあるものの、雪の季節は木戸を閉め切り、欲しい者が来るのを待つスタンスとなっているのが《感知》によって分かる。一見さんには分からないシステムだな。木戸前が雪掻きされてるかで見抜けば良いのだろうか。
木戸で隔てられた店舗の合間に、時折開いてる店がある。気の無い振りして《感知》で凝視すると、皮製品の防寒着や角スコ等が置かれている。季節雑貨の店らしい。他にも魚や肉を扱う食料品店も開いていた。冷蔵庫の中で商売してるようなモンだなこりゃ。

 人通りはそこそこ多く、買い物する男女、一部毛が多過ぎて不明な者が見受けられ、その合間を縫う様に子供達が走り回ってはキャッキャしておる。

だがスリだ。

可愛らしい犯罪者達は無邪気に走り回りながら獲物を探し、不用心な獲物から巾着を掠め取ろうと目を凝らしていた。あ、こっち来た。

「え?」「あれ?」

滑りを纏った俺にフェザータッチした子等が不思議そうな声で呟いた。が、その前に、俺は見える範囲には何も持って無いのだ。来る前に気付いて欲しい。

「あきゃっ」

可愛らしい声が目の前で五体投地する。獣民にもドジな子がいるものだ。

「立てるかな?」

「う、立てるもんっ」

膝を折って話し掛ける。外野からの視線を感じるし、俺がやらかしたと思われても困る。

「強い子だな」

立ち上がった正面は泥に塗れ、帰ったら大目玉を食らうに違いない。それを察しているのか、目の前の犯罪者予備軍の顔も体毛に隠れて暗く見える。

「うう…」

「強い子にはご褒美だ」

「うっ」

ちょっと集中して、表面だけ《洗浄》する。肌の露出する鼻は流石に冷たかったのか、小さな声を漏らした。

「ぅあ、すげ」

「走る時は、周りを良く見てな。特に足元」

「うん」

  「それと、巾着切りより儲かる仕事を探せよ?」
「う…」

可愛い毛むくじゃらを残し、俺は退散する。遠くで兄貴分達が覗いているし、関わっても碌な事無いだろう。

 開けっ放しの門から更に半周、こっち側は海に面しているので崖沿いには土塁が敷かれ、その先へ行くのを躊躇わせる坂になっていた。反対の建屋は店舗に宿屋が並び、外から来る客の目に留まる様、寒い中開店して客の対応等精を出している。

「お客さーん、ジェムの宝飾が安いよー」

「現物資産に興味無いかねー?」

まるで魚でも売るような売り言葉は、残念な事に俺に向けられた物では無い。ミスリルの装飾をたっぷり付けた海竜の鎧を着た俺は、可愛いスリがミスリルを剥がしに来る程の見栄えなのだが、天を衝き、光を浴びて輝きを放つペニスケを見るや、売り言葉が右へ左へ逸れて行く。この世界、音は曲がるらしい。

 土塁と法面の際は開かれていて、以前ワーリンと入山して子供の小銭稼ぎの真似事をした場所に繋がる。崖の際には階段があり、そこを下ると港があって、鉱山に住む荒くれ者より荒い荒くれ漁師達の縄張りとなっていると、地もピーの二人に聞いた。

君子危うきに近寄らず。俺、一応君子だし、港って関係者以外立入禁止の場所が多いと前世で学んでいるので近寄らず、街の中心に向かって一本路地に入った。今度は左回りで行くかな。
背中合わせに建てられた建屋を抜けて通りに出ると、外側の通りとは雰囲気が変わる。日が当たらない分寒さが増したのだろうか。外側、閉め切られた店舗には武器防具が並び、内側は宿屋に…あれは診療所か。外側より少し物騒な店舗が多くなったな。







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