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噛み締めてる
しおりを挟む「シッ、シッフォオオオーンッ!」
「ひやっ」「何事ですか!?」「シンク!?」
ごねてごねての食事を終えて、満を持して待望の物を口に入れる事が出来た愛娘と、周りに居た大人達の反応である。
『これ』「シフォ」『ンよ』「ねシ」『フォンケー』「キなの」『よね!?』
「落ち着けシンク」『念話と混ざってるぞ?』
会話と《念話》がごっちゃになる程、我が愛娘には衝撃的な事だったのだろう。
『マジコレシフォン。クリームはホイップだしスポンジはメレンゲにバター使ってるっ。「パパマジパティシエ」』
「静かになったと思ったらまた訳の分からん事を」
「ノーノさん、今のは何かの呪文ですか?」
「じっくり味わうフェーズに移行したんじゃないか?」
「成程」
メイド達の禅問答に答えを示すと、大人達は納得する様子を見せた。所でパパは冒険者なのだが、愛娘にとってはパティシエであるようだ。しかしシルケにはパティシエなんて職業は無いので、シルケ人の言葉では意味不明な言葉として認識されてしまったみたい。
「あーんっ、あーーんっ」「あ、はいはいっ」
それからは《念話》もせず、甘味を摂取する事に集中する。それを見た大人達も、少ししてシンクが暴走した意味を理解した。
「んまっ、んまい。んまー」
ガンダーの普通過ぎる反応が逆に癒しである。
「甘い物なんてお貴族様の無駄金程度に思ってたけどさ、こりゃあ貴族が利権欲しがる訳だね…」
「利権以前の問題です。これだけの物、国が動きますよ」
タマリーの言葉にカロが応える。白糖や、今回は地球産の鶏卵を使ったが鳥卵を使う辺り、あながち間違いでは無い。それに主食であるマタルやまだシルケに浸透していない獣乳を使うとなると平民の生活にも影響が出てしまい兼ねん。
「ご主人、コレを城には持って行ったのか?」
「ミソプファンティアだけな。アフマクシアに持ってくとバルタリンドに遷都し兼ねんから」
「ミソプ…何だい?」
「ミソプファンティア、ノースバーのアルア様の国ですよ」
「あー、旦那は小さい子が好きだったんだねぇ」
「後で愛してあげよう」
「ふ、強請った訳じゃ無いんだけどね」
とか言って頬を染めるタマリーと子犬みたいな目で見て来るカロ。お風呂でたっぷり愛してあげたよ。
カロ邸の朝食は、早い。カロ母子と、今朝はタマリー母子も夜明け前に職場へ向かうからだ。愛娘の《念話》によるモーニングコールで起こされて、食事を摂るとギルドへの護衛任務を仰せ付ける。報酬は愛息子娘のハグだ。ちょっぴり浮かせてるので日に日に重くなる我が子の成長を…とはならないのは残念だが、二人の重さを感じる事は出来る。
「パパ?」『私の事重いって思った?』
「幸せの重さだよ」
「?どうされました?」「重いなら代わってやるよ?」
「噛み締めてるんだ。どうかこのままで」
「馬鹿親だねぇー」
何とでも言うが良い。空と我が子の間には、今日も冷たい風が吹く。我が子が笑ってくれるなら俺は悪にでもなる。
我が子達との別れは惜しいが仕事をしろと言われたらパパらしい所を見せねばなるまい。我が子に見せられない仕事ではあるが、働いてる事は認知させないとならん。働く子供達が席に着くと、俺はギルドから逃げるように飛び出した。
しかし、子供に見せられぬ仕事をする為入浴施設迄来たものの、今中に入っても無駄に時間を過ごす事になるので雑草でも毟って過ごす事にした。地面全体に生えた雑草が一部膝丈を超えているのが気になったのだ。タマゲルを放てば短くなりそうだが、アレでも一応モンスターなので街に入れる訳にはいかん。雑木をAの形に成形し、横棒の所に《収納》の平面を繋げて引っ張ると、ある程度刈り高を揃えられる事に気付いたのは、外壁に浅からぬ傷を付けた後であった。
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