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タマゲルの楽園

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 ツルツル容器作りに失敗し、新たな釉薬の材料を求めて島の中を歩く。釉薬の色は黒くても良いが、罅割れたのが問題だ。それに量が断然足りてない。シルケのガラス職人は、機械や薬品を使う前の地球と同じくらいのレベルでは無かろうか。

「カケル、草~」

「色は変わりそうだな」

散歩に付いて来たイゼッタが草を摘んで差し出した。断崖際に近付くに連れ増えて行く雑草達は、踝程に短く生え揃い、風にサラサラ揺れている。そしてプルプルと蠢く丸い奴等。タマゲルだ。この島の下草を短く刈り揃える愛らしい丸まりは軽く見える範囲だけで三匹。食堂裏のゲルの巣から独り立ちした者の末裔だろう。今では畑や果樹の近く以外、探せば一つは見付けられる程になった。

「増えたね」

「タマゲルの楽園になりつつあるな。タマゲルか…」

ああそうか。すっかり忘れてしまってた。そして焼き物で作ると言う拘りが、ソレを選択肢の中から外してしまっていたようだ。

「ゲル版で良かったじゃん」

「ん?入れ物のこと?」

「ああ。焼き物だとどうしてもコストが掛かるし、クリスタルもどきなら素材は売る程あるじゃないか」

足元に転がって来た一匹の上に、イゼッタから受け取った草を乗せると、触れた面から溶けて行く。
触れた物を溶かし、吸収すると言う恐るべき能力を持ちながら、人相手には触れられても反応せず、草も根元迄溶かす事は無い。そして畑や果樹でおいたをしない。脳は無くても知能はありそうだよな。

 場所を変え、食堂へ。ゲルを固化させるには二つの方法がある。スキルで固める方法と、熱と圧力で焼き固める方法だ。今回はシルケ人でも出来る方法で容器作りをする。パチモンが出ても性能に差が出なければ文句も来ないだろうと言う判断だ。
先ずは試作から。柔らか煉瓦の円柱を回転させ、《収納》の面でトリミング。角を丸く落とし、面を平らにした。その上から更に煉瓦を被せ、内側だけをギュッと《集結》で固めると凸型となる。外側も削って整え固めれば凹型だ。

「煉瓦だけど、い?」

「いくないな。耐火煉瓦じゃないと崩れちゃうし、量産するなら鉄で作るのが良いね」

型の中に柔らか煉瓦を入れ、凸型を押し込む。意外と硬くて溢れて来ない。かなり柔らかくしてやっと出て来た。

「液体を注ぐ感じの方が良さそうだ」

型抜きされた煉瓦を固めて取り出す。穴の無い植木鉢になった。
次にミズゲルの粘体を型に入れる。此方は寒天状態で、型を押し込むとブチュブチュ言って零れて来た。固めて型から取り出すと、底面は押されてキレイだが、側面はボコボコになっていて使い物にならない。成程な。ゲル版屋が押し焼きしてた理由が分かった。

「カケル、コレちょーだい」

「どうぞどうぞ」

バリを取ってくれてやると、色んな面から眺めながら出口へ向かい、陽の光を当てていた。

ゲルを細かく《散開》させ、型に注いで凸型を押し込んで固める。今度はトゥルトゥルな容器になった。スキルでの試作はこのくらいで良いだろう。容器と蓋の型を鉄で作り直し、出しっ放しのUFOへと飛んでった。

型にゲルのトロトロを流し込み、予熱を与えた窯にセット。熱いので直ぐに蓋をし耐熱処理もして食堂へと戻る。
なんか女達が集まってるな。

「カケル、できた」

「なんぞ?」

イゼッタが何か作って、女達が集まったらしい。輪の中に入ると、さっきくれてやったボコボコ容器に魔法で光の粒を入れ、光を乱反射させる照明器具にしたようだ。お洒落なお店にありそうな感じだな。

「キレイに出来たね。魔道具としての需要もありそうだ」

「でそでそ」

この一件のおかげで、島に窯を作る事になった。UFOに設置した窯よりデカい物を作らねばならんが、容器の増産の事を考えればやらん訳にはいかん。平地…作るか…。

窯で焼いていた容器はと言うと、だいぶキレイに焼き上がった。キレイ過ぎて転売起きそう。




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