上 下
1,343 / 1,519

寝た振り

しおりを挟む


 すっかり黙りこくってしまったタタールちゃんを捨て置いて、カロは部屋を出て下へ向かう。ハイネルマール商船会社への繋ぎを付ける為だ。本来それをするのは立ち尽くして俯いてるこの子の仕事なのだがな。重苦しい時間を過ごすくらいなら出て行って欲しい。
話をしてて喉が渇いたのでお茶でも淹れるかな。コレもこの子の仕事だったのかも知れん。《収納》の肥やしになってるお茶を使ってしまおう。茶葉を取り出し《散開》で粉にすると、浮かせた魔法水に添加して魔力を当てながら色が出る迄練り練り混ぜ混ぜ。粉を《集結》して排除すると、キレイな黄色のお茶となる。雑木ストローを突き刺して、キンキンに冷えたのを飲む。美味し。
美味いんだが、島でも施設でも飲めないコレは、随分前にクリューエルシュタルトで買った獣人をダメにするお茶だ。
お茶はあっても茶菓子は無い。ルドエで全部食べられちゃったからな。塊の黒糖を口に放り込む。甘し。

「……の癖に…」

ちゅーーーー

「冒険者の癖に!」

シャリシャリシャリ、ちゅーーー

「何で貴方みたいなのが黒糖なんて食べてるのよ!?」

「稼いでるからな」

お茶を飲み干しソファーに体を預けると、目を閉じて体力の温存を図る。反論が来ないと分かると雑音が聞くに耐えない内容になって行く。この子の中での俺は童貞で彼女も居らず、娼館通いする度胸も無い貧乏禿げだそうだ。ソファーに横になろうとした所で暴言が止まる。部屋から出ていたカロの《威圧》で止められたのだ。

「タタール、貴女の居場所は此処にはありません。今日はもう帰りなさい。本部とメルタール、それと貴女の家にも報告しておきます。呼び出しがあるまで出て来ないでください。誰か!何人か来て!」

目を開けたくない。そんな声色。寝た振りしてじっと待つ。ギルマスの怒声に職員が飛んで来て、俺を囲む…おい。

「カケル様じゃありません!この女を外へ!」

「「は、はいっ」」

俺を囲んでた職員が、タタールを引き摺って外へ出た。あの子、漏れてたぜ?

「カケル様…、カケルさまぁっ申し訳ございませえ~んっ」

部屋から職員が居なくなると、カロがソファーに飛び込んで来る。

「女神に吐かれた暴言よりはマシだよ。殺され掛けなかったしな」

「うう、何とお詫びしたら良いか…」

「ギルドやら親やら。自分が偉いとか強いとか。思い込むのは自由だけど勘違いさせちゃいけないな」

「はいっ、徹底させますっ」

「で、ハイネルマールへの繋ぎは?」

「急ぎで行かせました。此方の手紙を商船会社へお持ちください」

推薦状だったり受領証の意味を持つお手紙だが、成り済まし防止の意味が強いらしい。今直ぐ行っても伝令を追い越してしまうので、カロを抱いて時間を潰した。


「カケル様、お待ちしておりました。代表もお待ちですので、此方へどうぞ」

 カロとイチャイチャして時間を潰し、ハイネルマール商船会社へ向かうと、話が通ってる受付嬢に誘われ、執務室へと連れてかれた。

「カケル殿、久しいな。イゼッタ殿も息災ですかな?」

「暫くです。病も無く、皆元気にしておりますよ」

手を差し伸べてソファーへ促すハイネルマールは俺の事をしっかり調べている様子。今回の仕事、単なる護衛では無いのだな。上座へ座らされると鈴を鳴らし、お茶と茶菓子が供された。

「カケル殿のおかげで儲けさせてもらって居る」

「野菜を食べないと体が持たないですからね」

「嵩は張るが、腐り難さが段違いなのが良い。それにあの安い甘味にも助けられて居る。一日一かけで職員の働きが変わったよ」

ビタミンにミネラル、甘さによるリラックス効果って所か。娯楽無く、働き通しの船員は、心に癒しが必要なのだな。
大陸を股に掛ける海運業者なだけはある。水や光の棒、火の鉄板も逸早く導入してコストを抑えて居たそうだ。

「カケル殿に口利きをお願いしたい」

相手を褒めてから本題に入る。商法の基本だな。










しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

処理中です...