上 下
1,342 / 1,519

勝てる?

しおりを挟む


「シンク~、ガンダ~。頑張ってら~」

「パパもげー」「あぶ」

 カロとタマリーは子供達を抱いて一階に降りて行く。俺は下に降りても意味が無いのでソファーに掛けて待つ。目を閉じて体を背凭れに預け、無心のまま暫く待っているとドアが開いてカロと誰かが入って来た。

「カケル様?寝てますか?」

「起きてるよ」

「でしたら目を開けてくださいね。お仕事ですよ?」

仕事モードの俺、覚醒。資料を持って来た職員がテーブルの上に紙束を置くと、正面の席にカロが座る。

「海の討伐としか聞いてないからな。詳しく頼むよ」

「はい。今回の依頼者は…」

ハイネルマール商船会社からの依頼だそうで、渡航中に現れる魔物の討伐であると言う。この手の依頼は片道で一回の事が多く、港毎に依頼を出すのだそうだ。で、海運業の殆どは自社で護衛を賄っているらしいのだが、偶に欠員が出たりすると今回みたいに冒険者に白羽の矢が飛んで来ると言う。
今回の行程はバルタリンド~キャクエール間十五日。帰りは風の関係で三十日程掛かるらしい。キャクエールは公都から見ると遥か南にある都市で、ウラシュ島の対岸でもある。

「そんな街あったのか」

「以前出兵がありましたよね?キャクエールで合流して、島の西岸より上陸する手筈だったと聞いております」

「マスター、冒険者に流す情報ではありませんよ?」

「大丈夫。売る相手も居ないのですから」

カロの後ろに控えてた女職員が注意するが、カロは大丈夫だと一蹴する。ウラシュ島もキネイアッセンも俺の関係者が治めてるからな。

「ウラシュ島はともかく、元帝国のカケラントですか?信用なりませんよ」

「止めなさい。外交に口出しするのはギルド憲章に触れます」

「カロさんや。その子は不安なのだろうよ。平和な世の中なんて百年もしたら崩れる訳だし」

「そうですが…」

「パーティーならともかく、この人一人ですよね?ソロで、しかもBランク。魔物の撃退なんて絶対無理ですよ」

「大丈夫よ」

「大丈夫だ」

「何なんですかその自信は…」

「カケル様、申し訳ございません。この子メルタールからの出向して来たばかりなので」

「よくあるよくある」

「何よ、貴方迄っ」

カロの後ろで俺を睨め付ける職員は、自分が偉いとでも思っているのだろうか?

「なあ、この子って貴族?」

「え、ええまあ。子爵令嬢なので私よりも立場は上ですね」

「親はな」

「私はフリューケン子爵の四女、タタール・フリューケンよ」

「俺はカケラント国国王、カケル・カリバ・カケラントだ」

「またまたー」

「フリューケンってブラマハーンの親戚筋か?」

「何で分かるのよ!」

「王に会った事あるしな。ピエルタちゃんとは友達だぜ?」

「まさか…」

「カケル様は王籍です」

「成り上がりだけどな。まあ、爵位の事はともかくとして、タタールちゃん、俺に勝てる?さっきから随分喧嘩腰だけどさ、コレ指名依頼だよ?適当な冒険者捕まえて来て依頼請けさせてるんじゃ無いんだよ?」

「私に危害を加えるならギルドが黙って無いわっ」

「ソレって君が死んだ後の話だよね?」

「……」

「勝てるの?」

「…けど海の魔物には勝てないでしょ!」

「ソレ君と関係無いよね?しかもこれから顔合わせする相手の情報とかさ、見てないの?」

「あんなの、不正して…」

「タタール、下がりなさい。ギルド証の不正は出来無いわ。カケル様、申し訳ございませんっ」

「今に始まった訳じゃ無いから良いよ。けどなぁ、ギルド職員が貴族の子女の花形職ってのは分かるけどさぁ、何でこんなに冒険者を下に見るんだろうね。職員を害してギルドに追われた所でさ、当人は害されるんだよ?」

「よく申し付けますので、ご容赦ください」

「で?勝てるの?俺王、此処の王とも知り合い。で、ドラゴン単騎討伐数二位のドラゴンキラー。今着てるのも俺が一人で狩った海竜。君子爵令嬢。そんだけ。ねえ?」

タタールちゃん、黙っちゃった。






しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

世界樹を巡る旅

ゴロヒロ
ファンタジー
偶然にも事故に巻き込まれたハルトはその事故で勇者として転生をする者たちと共に異世界に向かう事になった そこで会った女神から頼まれ世界樹の迷宮を攻略する事にするのだった カクヨムでも投稿してます

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

処理中です...