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勝てる?
しおりを挟む「シンク~、ガンダ~。頑張ってら~」
「パパもげー」「あぶ」
カロとタマリーは子供達を抱いて一階に降りて行く。俺は下に降りても意味が無いのでソファーに掛けて待つ。目を閉じて体を背凭れに預け、無心のまま暫く待っているとドアが開いてカロと誰かが入って来た。
「カケル様?寝てますか?」
「起きてるよ」
「でしたら目を開けてくださいね。お仕事ですよ?」
仕事モードの俺、覚醒。資料を持って来た職員がテーブルの上に紙束を置くと、正面の席にカロが座る。
「海の討伐としか聞いてないからな。詳しく頼むよ」
「はい。今回の依頼者は…」
ハイネルマール商船会社からの依頼だそうで、渡航中に現れる魔物の討伐であると言う。この手の依頼は片道で一回の事が多く、港毎に依頼を出すのだそうだ。で、海運業の殆どは自社で護衛を賄っているらしいのだが、偶に欠員が出たりすると今回みたいに冒険者に白羽の矢が飛んで来ると言う。
今回の行程はバルタリンド~キャクエール間十五日。帰りは風の関係で三十日程掛かるらしい。キャクエールは公都から見ると遥か南にある都市で、ウラシュ島の対岸でもある。
「そんな街あったのか」
「以前出兵がありましたよね?キャクエールで合流して、島の西岸より上陸する手筈だったと聞いております」
「マスター、冒険者に流す情報ではありませんよ?」
「大丈夫。売る相手も居ないのですから」
カロの後ろに控えてた女職員が注意するが、カロは大丈夫だと一蹴する。ウラシュ島もキネイアッセンも俺の関係者が治めてるからな。
「ウラシュ島はともかく、元帝国のカケラントですか?信用なりませんよ」
「止めなさい。外交に口出しするのはギルド憲章に触れます」
「カロさんや。その子は不安なのだろうよ。平和な世の中なんて百年もしたら崩れる訳だし」
「そうですが…」
「パーティーならともかく、この人一人ですよね?ソロで、しかもBランク。魔物の撃退なんて絶対無理ですよ」
「大丈夫よ」
「大丈夫だ」
「何なんですかその自信は…」
「カケル様、申し訳ございません。この子メルタールからの出向して来たばかりなので」
「よくあるよくある」
「何よ、貴方迄っ」
カロの後ろで俺を睨め付ける職員は、自分が偉いとでも思っているのだろうか?
「なあ、この子って貴族?」
「え、ええまあ。子爵令嬢なので私よりも立場は上ですね」
「親はな」
「私はフリューケン子爵の四女、タタール・フリューケンよ」
「俺はカケラント国国王、カケル・カリバ・カケラントだ」
「またまたー」
「フリューケンってブラマハーンの親戚筋か?」
「何で分かるのよ!」
「王に会った事あるしな。ピエルタちゃんとは友達だぜ?」
「まさか…」
「カケル様は王籍です」
「成り上がりだけどな。まあ、爵位の事はともかくとして、タタールちゃん、俺に勝てる?さっきから随分喧嘩腰だけどさ、コレ指名依頼だよ?適当な冒険者捕まえて来て依頼請けさせてるんじゃ無いんだよ?」
「私に危害を加えるならギルドが黙って無いわっ」
「ソレって君が死んだ後の話だよね?」
「……」
「勝てるの?」
「…けど海の魔物には勝てないでしょ!」
「ソレ君と関係無いよね?しかもこれから顔合わせする相手の情報とかさ、見てないの?」
「あんなの、不正して…」
「タタール、下がりなさい。ギルド証の不正は出来無いわ。カケル様、申し訳ございませんっ」
「今に始まった訳じゃ無いから良いよ。けどなぁ、ギルド職員が貴族の子女の花形職ってのは分かるけどさぁ、何でこんなに冒険者を下に見るんだろうね。職員を害してギルドに追われた所でさ、当人は害されるんだよ?」
「よく申し付けますので、ご容赦ください」
「で?勝てるの?俺王、此処の王とも知り合い。で、ドラゴン単騎討伐数二位のドラゴンキラー。今着てるのも俺が一人で狩った海竜。君子爵令嬢。そんだけ。ねえ?」
タタールちゃん、黙っちゃった。
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