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国葬
しおりを挟む「…仕事ご苦労。何か変わりは無いか?」
声を掛けるとグリグリを止めて膝を着くメイド達。冷や汗をかくから最初からしないで欲しい。
「ゴモラン隊長の部隊が夜間行軍の訓練に出ました」
コレは既出の情報だ。コレが無ければハーク達の乗り物が無いのだから。
「其方からの情報はまだ此方には流れて来ておりません」
「攻撃魔法の爆発とかは見えなかったのか?」
「山向こうが少し明るくなりましたがそれだけですね。音等は聞こえませんでしたし、衛兵達には稲光だと思われているでしょう」
…コレはリュネが何かしたかな。まあ直接手出ししたのでは無いし問題無いか。
「それで、彼処はどうなりましたか?」
「一先ず皆無事だよ。詳しくは仲間が戻ってから聞くと良い。帰る迄が遠足だしな」
「はぁ」
夜もすっかり更けたおかげで眠いのだ。島に戻って朝迄寝る。
目覚めて朝食を摂っているとリュネが帰って来た。
「「「お帰りなさいませ、リュネ様」」」
「ただいまぁ~。カケルさぁ~ん」
リュネの帰宅に女達からの出迎えの声が上がると、リュネは応えてこっちに飛んで来た。リュネも疲れたと見える。膝に乗せてやり撫でる。
「お帰り~。ご飯はまだか?」
「食べてませ~ん」
俺の食事をリュネに与え、リュネに給餌されたりして朝を過ごした。
食後は城へ直行する。リュネは寝ると言うので休んでもらい、一人で城へと《転移》した。
「「「いらっしゃいませ、カケル様」」」
「うム」
ナイフを後ろ手に隠し持ち、メイド達が頭を下げる。ハーク達にブルランさんも居るからじゃれ付いては来ないようだ。何時もそうであれ。
「カケル、待ってたよ」「カケル様、お待ちしておりました」
天才兄妹も飛び込んでは来ないか。少し寂しいぜ。
「おはよう。体の調子はどうだ?」
リュネのおかげで魔力は戻っているが、仮眠だけで城へと戻り、命を懸けたストレスに疲れが重なった上、まだしっかり寝て無いとなると、子供の健康によろしく無い。トリントン兄弟は宛てがわれた客室で寝ていると言う。
「少しでも寝た方が良いな」
「カケル一緒に寝よ!?」「カケル様、私寂しくて一人で寝られません」
「一人で寝ろ。寝るのも仕事だ」
「ちぇ。カケルは仕事と建物の事になると人が変わるよねー」
「昼間と夜とでも変わりますねー」
「グハハハハ、俺は二つの魂と、二つの精神を持って居るのだー。甘いモン持って来てやるから昼迄お休み」
「「はーーい」」
入浴施設は営業中で連れてけないので昼迄ゆっくり休んでもらった。
午後になり、レッグルートのじっくり焼きを持って報告を聞きに行く。
ジョンとジジババは夜の内に合流出来たエルシド部隊に帯同して小アトールへと向かったそうだ。
「結果、俺達は何も出来無かったな」
「死ぬ予定の者を一つ場所に押し込めただけだったな」
「ボクも戦いたかったよ」
為政者三人、戦いに出て戦わずに帰って来た事を悔やんでいるが、口だけなら誰でも言える。
「支援も立派な戦いだ。それに、現場を知るのは大事な事だぞ?それに、前線で戦うような貴族は誰かの謀略に引っ掛かったか、余程の武人か無謀者だろ」
「無謀者には、なりたくないな」
「戦いはテーブルの上で起きている訳では無い。と言う事だな?」
「その時に、やれる者がやれる事をする。皆様はそれをなさいましたわ」
アルアが男達をフォローする。良い子だ。
それから数日。国葬の日となった。俺はゴモラン邸で過ごす。貴族は皆、喪服だ。一時的に街の人口が膨らみ、街には商人と貴族の縁者が、貴族街には貴族と世話人が溢れ、どの貴族家も寄子や親戚筋の者を滞在させ、葬儀に参列すると夫人は言う。
「この家には親戚筋等は来ないのか?」
「ええ。皆私とエルシドの実家にて逗留なさっておりますわ」
黒い喪服から伸びる色白い細指は俺のアイツを扱くのに夢中だ。家主は訓練中に緊急案件が発生し、その対応に追われて現地で指揮を執っている。国葬を休む事の出来る数少ない事例の一つだ。
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