上 下
1,324 / 1,519

見送り

しおりを挟む


 飯を挟んで夜迄ハーク達をウォッチして、本日の業務は終了となる。飯を食って横になるだけの簡単なお仕事だが、音が聞こえないながらも彼等の計画は見えた。
どうやら少数で要塞を落としたいようで、国葬が始まる前に終わらせてしまいたいと考えているようだ。今から兵を集めるには時間が無いし、敵対貴族を城に抱えたままでの出征は、大手を振って行く訳に行かん。戦闘に紛れてハーク達を殺し、適当な傀儡を擁立され兼ねんからだ。

「歯痒いな…」

小さく独り言ちると左右に纏わる温もりが蠢き、俺の毛布を奪う。肌寒さを覚えて起き上がり、風呂へと向かった。

湯に浸かり、目を瞑る。見守ると決めた以上、ヤキモキする心を耐えねばならん。それは分かってる。指がシワシワになる程長湯して、それでもモヤモヤは晴れなかった。

 翌日は朝食後から城へ向かい、ハーク達の様子見をする。これから皆で集まって出発すると言う。

「カケル、何か、怒ってる?」

「否、そんな事は無いぞ」

城に《転移》した際、ナイフを突き立てて来たメイドに《威圧》を纏わせたりはしたが、それだけの事だ。リュネがペニスケ持ってっちゃったままなので今日はライデンの服を着ているが、人の子が作った程度の刃物では、リュネの作った此奴に傷一つ付く事は無い。それでもちょっと煩わしかったのだ。

「お兄様、カケル様は悩んでおいでなのですよ」

「悩み?」

「悩み…、悩みか。確かにそうだな。手伝ってやりたいが見守ると言った手前手を出せん」

「安心ししてよ。ボクはもう、覚悟決めたんだから」「私もです」

「カケル様、私が命に代えましてもハーク様とアルア様をお守り致します」

ブルランさんはそう言って頭を下げる。執事服の上から身に着けた軽装の鎧がカチャリと音を鳴らした。

「アタダーン様達がお見えになられました」

ドアをノックし入って来たメイドが横に逸れ、後ろの二人を前に出すと、見知った二人が現れた。

「む?カケルも居たのか」「見送りご苦労」

アタダーンってトリントン達の家名かよ。何処かへ出掛けるような素振りの無い、何時もの貴族な出で立ちで来た兄弟は、挨拶もそこそこに号令を出した。

「ハーク様、よろしいですか?」

「大丈夫だよ」

「行きましょう、お兄様」

「頑張るから、ちゃんと見ててよ?」

「…分かった。皆、ご無事で」

見送りの俺と三人のメイドを残して姿を消した。アルアが《転移》を使ったようだ。天才め、無理はするなよ?

「カケル様、お茶は如何ですか?」

「…貰おうか」

メイドの一人に促されてソファに座る。アルアの位置を《感知》すると街を出て池の外、森を貫く街道の中に居た。ゾーイの居ない客車が並び、デュセルとエルシドの姿がある。彼等が用意したのだろう。ハークとブルランさんにメイドが二人、アルアにはメイド三人、デュセルとエルシドにはメイドが二人。そしてアダターン兄弟にメイド二人が組になり、示し合わせたように乗り込んで行く。余ったメイドが馭者席に座り、車輪が回って移動が始まる。これはハークの魔法か。

アルアの《転移》は客車四台余裕で飛ばせる威力はあるが、距離は短くクールタイムがあって回数にも上限があるようだ。それを補う為、ハークの魔法で移動の足しにしているみたい。リュネの仕込みの結果だな。

「所でリュネは何処行った?」

「はい。昨夜お休みになられてからお顔を伺っておりません」

「てっきりカケル様の所へ向かわれたのかと…」

因みに昨夜は島に帰って来ていない。この場に居なくても見ているだろうが、居ないと少し不安である。メイドより供されたお茶を飲み、《白昼夢》で追跡した。
四回目の《転移》で大アトールの手前迄来た一行は、客車に乗り込んだまま森の中へと踏み入ると、そこで夜を待つようだ。




しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

【絶対幼女伝説】 〜『主人公は魔王なのに』を添えて〜

是呈 霊長(ぜてい たまなが)
ファンタジー
彼の昔、最強の吸血鬼であり最強の魔王『ゼティフォール』が世界を闇で支配していた。 時を経て、神の力を手に入れし勇者率いる英雄によって、100年の闇による統治は終わりを迎えたのだった。 それから400年後、魔王が目を覚ました! 闇と共に滅ぼされるかに思えたゼティフォールだったが、勇者と神の意思により長らえていたのだ。 『再び危機が迫った時、新しき勇者と"共に"世界を救う』ために。 目を覚ましたゼティフォールは危機の訪れを察し、敵を迎え撃つ! 最強の名を欲しいままに、魔王の名を知らしめるが如く、勇者など必要ないと言わんばかりに! 最強の名は伊達じゃない。 復活した魔王軍だけの力で世界を救ったのだった! …………という予定だったが、うまく行かず、敵こそ撃退したものの魔王たる力を無くし、圧倒的強さも奪われ、残ったのはプライドだけ。 しかも、見ず知らずの土地に飛ばされ、雑魚モンスターにいじめられる始末。 服もボロボロ、体もボロボロ、唯一残ったプライドすらもボロボロ。 そんな哀愁漂うゼティフォールを救ったのは、天使のような翼を持った"最強"の幼女『ステラ』だった! ステラというチートな仲間を手に入れたゼティフォールの快進撃? が始まる── 頑張れゼティフォール! 負けるなゼティフォール! 今は幼女にお守りされる身だが、いずれ最終的には、多分、きっと、いつの日か、ひとり立ちしてプライドに見合った実力を取り戻すのだ!! ※一応主人公は魔王です

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...