1,320 / 1,519
王選
しおりを挟む「商いは辞めましたが、代わりに仕官先が決まりましたよ」
「仕官?まさかギッツか!?」
トリントンよ、流石にそれは浅慮だろう。ギッツに行くならこんな所で公には出来ないし、此方に攻め入る支度で忙しかろうよ。
「まさか。南の海を越えた先、カケラント国に参ります」
「南の海…」「ヒズラーでしょうか…」
またもヒソヒソやり出す取り巻きだが、此奴等の事はスルーで良いだろう。
「良し。三方気持ちは固まったようだな。国葬前だが王選を始めてしまおう」
トリントンはとっとと楽になりたいのか、葬儀後にやる予定の王選を繰り上げようと提案する。
「俺に異議は無い」
「分かったよ」
就職先が決まったハーラデーに異論無し。それを見たハークもそれに続いた。
「ちょぐっ」「ばっ、ばばっ」
三人がノって来た所に水を差すべく声を荒らげた二人は、リュネによって動きを封じられた。多分だが、俺がやった感じになってる。二人の目がそう言ってるし。
「私は父の跡を継ぐ。よって継承権を放棄する。何より私は宰相と成る可く学んで居たのだ。王になる等とんでもない事だ」
「俺は他国へ行く身。継承権は放棄させてもらおう」
「では、継承一位のボクが父上を継ぐよ。後見人は聞いたね?」
「はい、ハーク様」
「ハーク様を王と認め、忠誠を誓いまする」
「ぐ…ぐぐ…」「ぶぎ…」
「リュネ」
「はぁい」
《威圧》が解かれた二人はドバッと汗を流しその場にへたり込む。
「メリトロ侯、バーン伯。ご回答を」
「ぐはっ、ぜぃ…はぁ……」
「げっほ、はっ、はぁっ」
ブルランさんの問い掛けに荒い息で返す事しか出来無い二人は、メイドから差し出されたお茶を煽る。
「こ、こんな事、許されませんぞ…」
「儀式に則って行う物でありましょうに」
「侯爵殿。国葬前に王権を主張する者が集まったのならば、先に筋を通しても構わんだろう?それに俺は葬儀が終わり次第国を出る。出る国の事を話し合うのは時間の無駄であるからな、葬儀後に王選をするとしても俺は欠席させてもらうぞ?」
「権利を放棄した者は王選に参加する事叶わず。であれば私達兄弟は王選には出られん。アルアイア嬢に父上、それにまだ幼いスティマイト様もだ。ハーク様お一人しか居られない王選を、何故侯達は引き留めようとする?」
「ひ、引き留めよう等とは」
「そうですともっ」
「いいや、時間稼ぎ、でしょうな」
取り巻きの声を止めて割り込んだのはエレデリマ大司教。
「貴殿等、ギッツと繋がっておりますな?」
「お前こそが繋がっとるでは無いか!」
「左様。されどギッツが片方だけに肩入れするとは考えておりますまい?誰が王と成られても攻め入るつもりなのですからな。ハーラデー様が大アトールから消えた今、侵攻を早める算段を弄しておりますでしょうよ」
「時間を稼いで王選をさせたとして、国葬で集まった貴族を一網打尽にでもするつもりか?侯爵、答えるのだ」
トリントンの問いに、メリトロは答えられず押し黙る。バーンは震えて動けなくなっているようだ。それもそうだろう。公爵の息子は王戚である。良い血を掛け合わせた結果の子だ。その子が赤く輝く魔力を放って威圧している。伯爵程度ブルっちまうのは当然である。この場でそれに耐えられない者はこの二人だけであり、ハーラデーが眉間に皺を寄せている程度であった。
「沈黙は是。でよろしいのでは?」
目付きの悪いハーラデーが提案し、トリントンとハークはそれを支持した。
「二人を特別牢へ」
「「はっ」」
ブルランさんの掛け声でメイドが動き、二人を後ろ手に縛り部屋を出る。
「私も牢へ行こうかと思います。誰か案内頼む」
「大司教、貴方には仕事が御座いますぞ?」
「仕事…何なりと」
「王の最後を送り、最初の王を迎える仕事。貴方で無く誰が為せると言うのです」
「……その栄誉、賜りましょう」
「よろしくね、司教」
エレデリマはその言葉に涙を流し、部屋を後にした。
0
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
【絶対幼女伝説】 〜『主人公は魔王なのに』を添えて〜
是呈 霊長(ぜてい たまなが)
ファンタジー
彼の昔、最強の吸血鬼であり最強の魔王『ゼティフォール』が世界を闇で支配していた。
時を経て、神の力を手に入れし勇者率いる英雄によって、100年の闇による統治は終わりを迎えたのだった。
それから400年後、魔王が目を覚ました!
闇と共に滅ぼされるかに思えたゼティフォールだったが、勇者と神の意思により長らえていたのだ。
『再び危機が迫った時、新しき勇者と"共に"世界を救う』ために。
目を覚ましたゼティフォールは危機の訪れを察し、敵を迎え撃つ!
最強の名を欲しいままに、魔王の名を知らしめるが如く、勇者など必要ないと言わんばかりに!
最強の名は伊達じゃない。
復活した魔王軍だけの力で世界を救ったのだった!
…………という予定だったが、うまく行かず、敵こそ撃退したものの魔王たる力を無くし、圧倒的強さも奪われ、残ったのはプライドだけ。
しかも、見ず知らずの土地に飛ばされ、雑魚モンスターにいじめられる始末。
服もボロボロ、体もボロボロ、唯一残ったプライドすらもボロボロ。
そんな哀愁漂うゼティフォールを救ったのは、天使のような翼を持った"最強"の幼女『ステラ』だった!
ステラというチートな仲間を手に入れたゼティフォールの快進撃? が始まる──
頑張れゼティフォール!
負けるなゼティフォール!
今は幼女にお守りされる身だが、いずれ最終的には、多分、きっと、いつの日か、ひとり立ちしてプライドに見合った実力を取り戻すのだ!!
※一応主人公は魔王です
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる