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視線が痛い

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 会議室に連れられて、俺は冷や汗を垂らす。円卓の上座にはハークが座り、後ろに控えるはブルランさん。そしてハークの隣にはアルアが居て、後ろに控えるリュネと同じ顔してた。

「俺の席は何処か?」

ハーラデーはそう言うと、アルアの近くの席に案内され、俺も着いて行く事になる。

「カケル様」

「なんだい?」

「何でもありません」

何なんだよ。名前を呼ぶだけで用は無いと言うアルア。リュネが居るからある事無くない事言われてるんだろうけどさぁ。

「久しぶりだな、ハル」

「兄上もお元気そうで」

ハルと呼ばれたハーラデーの対面には、後ろに顔も知らぬ多分貴族であろう男達を従えたトリントンが居て、眉をハの字にしていた。当人はやらないと言っていても、決め事を済ませなければ口約束だからな。ハーラデーも昨夜のお楽しみでお楽しみだったのだろう、少し疲れた声で返していた。

「カケル、コッチおいでよ~」

唯一の癒しであるハークが俺を呼ぶ。だがハークの元へ行くにはアルアとリュネを越えて行かねばならない。うん、無理。

「ハーク様、自分はこの場全体の護衛でありますので、何卒」

「むう~」

「カケルよ、アレを出してやれ」

「アレ…。はいはい」

ハーラデーに言われるまでも無いのだが、先に言われてしまっては仕方が無い。皿に乗せた煎餅を五枚ずつ、メイドに頼んで四人の席に供させてもらった。そして呆気に取られていた取り巻きががなり出す。

「貴様!毒味も無しに!メイド共も何とか言ったらどうなのだ!?」

「申し訳御座いません。口出し出来る立場ではありませんので、ご容赦下さいませ」

パリパリパリパリサクサクモグモグ…

「黒糖が濃くって美味しい!」

「カケル様狡いですっ。こんなのあるなら早く持って来てくださいましっ」

「兄上も食してみると良い。メイド、茶を持て」

「畏まりました」

トリントンの取り巻きを無視して齧り出す三人に、今度は取り巻き達が汗を流す。正面後ろに居る謎の冒険者が、誰の後ろに付いているのか分かったからだ。何も言わないブルランさんにきっと名乗っても無いだろう謎の美女、そしてハーラデー。この三人の信を得ている全身皮鎧の推定男は一体何者なのであろうか。そんな目を此方に向けてヒソヒソやっていると、ノックがありメイドがドアを開けた。

「皆様、お集まりですな」

護衛の信者を外に起き、一人入室したのはエレデリマ大司教。三方に一礼し此方に寄って来る。

「司教様が俺の取り巻きだったのですか」

「ハーラデー様、申し訳御座いませんでした。そしてハーク様にもお詫びを。我欲に溺れた私めをお許し頂けますならば、残る生涯全てを国へ捧げさせて頂きます」

ハークはブルランさんを見て、俺を見る。二人が頷いて、許す判断を下した。

「では、三方揃いました故、話の場を開きたいと存じます」

「ちょっ!ちょっと待てい!何故ブルラン殿が音頭を取るのか!?」

「貴方はハーク様の後見人、些か贔屓が過ぎますぞ?」

「メリトロ侯、バーン伯。お静かになされませ。この場はお三方の場であらせられます。静かに見守るが肝要かと」

「ぐっ」「ぐぬ…」

ブルランさんの目力で言葉を失う取り巻きに、主人のハークが口を開く。

「カケル、さっきのお菓子もっと出してよ」

「…分かりました。お茶しながらお話下さい」

メイドが持って来る皿に、五…視線が痛い。八枚ずつ盛って戻す。後はお好きに歓談してくれ。

「ハーク様、美味ですな。ハルよ、お前これを先に食べたな?」

「ええ。大アトールに監禁されましてね。助けに来てくれたカケルに貰いましたよ」

「監禁だって!?」

「御用商人共に商材を見に行くと言われ、ホイホイと付いて行った無能をお笑い下さい」

「笑い話になるならな。カケルと言ったな。我が弟を救い出してくれて感謝する。私は宰相としてこの国とハーク様にお仕えすると決めた。ハルは如何するのか?」

「兄上。俺は商人にはなれそうもありません」

夢諦めた言葉は明るかった。



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