1,301 / 1,519
淑女の嗜み
しおりを挟む「どうなさったの?」
料理が配膳されるのを待つ夫人はにこやかに問うて来る。
「毒を盛られましたね」
「え!?それはいけないわ。貴女達、厨房へ。直ぐに作り直しなさい」
「待ってくれ、此処の料理じゃ無いんだ」
俺の答えに慌ててしまった夫人を慌てて止める。言葉が足りなかったのは狙った訳じゃない。だから俺のスープを持って行くなっ!
「え、違う?違うのね?ふぅ……ではまさか」
「ハーク達の食事に盛られたようだが、これもう治したって事だよな?トリントンには薄らと残ってるが」
「今から治しまぁ~す」
トリントンの微毒が消えて、貴族の食事は恙無く進んで行く。微毒とは言え気付かんモンなんだな。
「ハーラデー派と思わせたトリントン派の貴族達ね」
当たり前だが、夫人は貴族が分かっている。その手の学も学んでいるのだろう。淑女の嗜みと言うヤツか。
「居ない者のせいにするとか無理あるよな」
「歴史は書いた者が正義なのよ」
「確かに」
両者に毒を盛り、方やハークは口封じ。方やトリントンは毒に気付けば弟を疑える。気付かなければ覚悟を決めて弟と対峙する事になるだろう。貴族のやる事は気持ち悪いぜ。
そしてリュネ曰く、毒を盛ろうとした者はハーク達の鍋と間違えて使用人用の鍋に毒をぶち込んだそうだ。主人達より先に食事をする使用人は居ない訳で、毒入りスープは誰も口を付ける事無くコトコト煮られていたのだが、料理人が味見と称して口にして、その場で泡吹いて倒れたと言う。リュネはその料理人と、トリントンの微毒を治したんだとさ。
「流石は魔装だな」
「ハーク君の首飾りって、そんな効果があったのですねぇ」
「どんな効果は聞けないけれど、貴重な物なのね」
「そうだね。魔装自身がハークを守りたいと思っているので、色んな効果が出るかも知れない」
「お嫁さんが嫉妬してしまうわね。ふふっ」
「その時は仲を取り持ってください」
此方の食事も恙無く進み、サロンでお茶の時間となる。此処にもあったよサロン!
「ほう…。このタイプのサロンは初めてお見受けします。極軽く、それで居て金属を縁取る扉を通り抜けると一面に敷かれた絨毯が足元を柔らかく包み込んでくれます。そしてその柔らかさは壁へと続き…、ほう、これは毛足の長い布を壁紙にしているのでしょうか。外気を遮断する為の工夫と見て取れます。窓はサロンの天井付近をぐるりと囲み、寒冷地であるが故に窓を作りにくいこの土地で、明かりを得る手段として鏡を利用する知恵。甚だ感服致しました。椅子は布張りで丁寧で且つ温かみのある造り、上品に纏められた調度品の数々と見事な調和は正に眼福と言った所でしょう」
「カケルさん?」
「褒めてくれたのね、嬉しいわ」
「建物が好きなモノで」
「けれどあの鏡、明り取りだけの物では無いのよ?」
「なんと」
「此処に来て見上げてご覧なさい」
「これは…。見上げた先には外の景色。正直な所、全周を囲むのは意匠を凝らした物かと思っておりましたが大間違い。コレは防犯の物見としても使われていたとは。無知蒙昧な自分を恥じるばかりです」
「カケル様、貴方方がいらした時も、私この場に居たの。それで直ぐに駆け付けられたのよ?うふ」
「タジタジですねぇ~」
「そうですわリュネ様。よろしければなので御座いますが…、カケル様との約束を果たさせては頂けませんでしょうか。長らくお会い出来ませんでしたので、次の機会がありますでしょうか…」
「…………仕方無いですね。その代わり、カケルさんの力になりなさい」
「畏まりました。お誓い致します」
「…ふぅ。カケルさん、夕飯迄ですからね?」
「お、おう…」
何となく、察しが付いた。これリュネ妬いてるヤツだ。
「リュネ」
「はぁい」
抱き締めてキスをする。舌を絡めてねっとりと。夫人の願いを聞いたのは、夫人が俺の為になると考えたからだろう。感謝して口内を犯した。
0
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる