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辞世の句

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「ネーヴェよ、《時間操作》を」

「ん。部屋全体でい?」

「構わぬ」

 《時間操作》ってスキルなの?魔法なの?気にはなるけど人の力程度では使える気がしない。ネーヴェがムムンと何かして、時の進みが遅くなったと思われる。まるで実感が無い。

「さて、始めようかの」

リュネが出したマットに仰向けになった俺に、ママ様が手をワキワキさせながら寄って来る。勿論皆も覗き込む。バイクに乗るバッタ男にでもなった気分だ。

「旦那様、覚悟は良いか?」

介錯を、頼んだ覚えは無いけれど、俎の上の鯉の心境。辞世の句を詠んで自分でも《遮断》を掛け直す。そこにミーネの《遮断》が掛かる。顔の左側の感覚が無くなった。

「おへやーらあにあのうろ…」

歯医者で麻酔を打たれたような事を言い、右目を閉じる。見たら泣いちゃうかもだし。

「うむ。では抜け。中も抉れ」

抜く!?抉る!?思わず両手がマットを握る。リュネの笑顔より怖いぞっ!仄暗かった左目の視界が真っ黒になる。痛みは無い…。それでも汗がヤバい。

「止血して浄化せよ」

「はぁい」「ん」

今、血塗れなのか…。マジか~。最初のインパクトがデカかったのでやっと慣れて来た。人レベルの《恐怖耐性》でも何とかなるモンだ。

「…して、母よ。再生で良いのだな?」

再生で良いよね?リームは俺を改造人間にするつもりか!?

「そうだな。治した所で再び光に潰されては適わんのう。カケル、暫し待つが良い」

何するのよ?ママ様はそう言って離れて行くようだ。足音が遠ざかって行く。

「おえ、ろーなったうろ…」

「母に任せよ。主様には必要だろうよ」

「ひうおー…」

「ダンジョン、壊しに行くんですよね~」

「い、いうえろさー」

「私はもう、旦那様に傷を負ってもらいたくは無いぞ?」

一番傷を貰ってんのは龍からなんだがな。

「カケルさんを護る為の力でぇす」

「こんな物でしか与えられぬ愛で済まぬ」

「もろやらいお…。いんら、あいひえる」

「我も愛して欲しいのう」

「母さんっ」

「我だってしたいのだ。偶には貸せ」

「母よ、その対価がソレか」

「こんな物を愛等と烏滸がましい。爽健なる我が子を見て居られる時間は、長ければ長い程尊い物なのだ」

三龍共、子供が居るからママ様の言葉が刺さった様で言葉が出なくなる。因みにネーヴェの気配は無い。寝てるのか?

「坊や、良いか?」

「うん…」

返事しないとどうなる事か。半ば諦め返事する。多分ママ様だろう、魔力の圧が直ぐ近く迄寄って来て、左目の入れ物に何かをしたのか暫くして魔力を感じた。左目、と言うか顔半分は何も感じない。もう半分と体全体に浴びせられる魔力がもの凄い。柔い人の子なら死んじゃうぞ?ママ様の魔力が体に入り、俺の魔力とマーブルになって頭の辺りから抜けて行く。ソコから何かが抜けるのはとてもとても不安である。

「ふう」

「終わりましたね」

「ん…おわた?」

「終わったぞ」

「旦那様、スキルを解くぞ?」

お、終わったようだ。《遮断》を解かれるのは怖いけど、まだ俺のが効いてるから大丈夫。

「うん、頼むよ」

あ、俺のも解かれてる。

「坊や、目を開けてみよ」

スキルが解かれ、ママ様の言葉に従う。右目は変化無し。当たり前だ。左目をゆっくり開ける…。右目に見える刺々しい鍾乳洞と同じ物が見えた。

「見えるよ、ママァ…。見えるよ、皆が…」

「当たり前だ」

「ダメでもやり直させまぁす、うふふ」

「カケル、よかた」

「主様よ、鏡があるぞ?見るか?」

鏡…。俺が以前作ったのを持っているそうで、円盤状に切られた物をキュキュッと磨いて渡して来た。

「……マージかーーー」

厨二臭え。そんな感想の湧くオッドアイ。魔力の色、紫色した瞳が左目に埋め込まれていた。治癒再生して出来た物では無いので、どうやって見えているのかなんて勿論分からない。多分、聞いても無駄だろう。目を動かすとグリグリ動く。コレは慣れないとダメみたい。




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