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嫌な感じ

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「次の人ー、一人ですか?」

 受け付けの男に訝しまれるが、そんなに一人は珍しいか?群れてる雑魚ばかり見て目が腐ったか。

「今回は下見だからな。三万だっけ?回収だけでもしときたいぜ」

「無理せずですよ。中で共闘相手を見付けても良いですしね」

「見付けたいモンだな」

金貨三枚を鑑札に変え、列に並んだ。

カーンコーン…

鐘が鳴ると最前の者から鑑札を見せて入って行く。最初のパーティは歩き、そして続く者の歩みはジワジワと速くなり、俺は早足で中へと入った。

《感知》を使い、《結界》を纏い、全速力で階段を目指す。前を往く邪魔者を《威圧》で止めて、天井付近の壁を駆けるように飛んで行く。
階段を降りたら走らない。纏っていた《結界》を張り直し、飛んで移動する。

『リュネ!ミーネネーヴェ!何処だ!?』

ダンジョン内なら届いてる筈だ。移動しながら《念話》を飛ばし、返事を待つ。階層毎に《感知》で全体を見渡すのも忘れない。調査依頼で癖付いた習慣が地味に役に立つ。勿論こんな浅い所に居る筈も無いのだが、つい期待してしまう。

通路の脇道から出て来た敵が、《結界》にぶつかり奇声を上げる。正面に居る敵は左右の壁に押し付けられて煙に変わる。全て無視して階段を降りる。

 地下十階のボス部屋に飛び込んで、部屋全体に《結界》を張る。魔法陣から出ようとした敵は《結界》と地面の板挟みとなり直ぐに煙へと変わった。下に向かう階段の扉が開くのを見て、一直線に飛んで行った。

敵が武器を持ち、魔法を唱える。それがどうした。立ち塞がる者は壁に押し付け、速度を落とさず下へ下へと降りて行き、体感で一オコンしない内に地下八十階のボス部屋となった。だが此処も殺り方は変わらない。ドロップも取らずに階段を降りる。


(これが嫌な感じか…)

 降りた先で感じる何とも言えない感覚。これが龍に嫌な感じと言わしめた感覚か。此処迄の階層にリュネ達の姿は無かった。隠し部屋なんてのも無いし、隠れて居なけりゃカラクレナイとサミイは分かる。この先に居ないと辻褄が合わない。
どうしてこんな所で寝泊まりしたんだ。ボス部屋前でも良かった筈だ。そんなに帰るのが惜しかったか?そんなに真っ暗で息が詰まる部屋が好きか。サミイもカラクレナイと一緒の方が良いのかよ。

ムカムカして、苛立つ。もう、良いか。前を向いていた足が半歩下がり、体が回る。もう、帰ろう。

「帰るかよっ!!」

叫んで自分に言い聞かせた。コレ、精神攻撃だ。精神攻撃に気付けたのはアラクネ達のおかげだな。偶には会いに行くか。良し、善は急げだ。たっぷり産卵させてやろう。

「後でだってヤれっからあっ!!《結界》!!」

結界を三重に張り、嫌な感じが晴れる。リュネ達ならこの程度一枚で充分だろうに、一体どうなっているのか?とにかく先に進まなければならない。踵を戻して階段部屋の扉を開けた。

 《感知》で調べ、途中の敵を磨り潰して階段を降りる。地下九十階のボス部屋迄来たが、正直キツい。《結界》が足りず、此処迄に二枚追加した。
だがそれがどうした。サミイはもっとキツい筈だ。扉を潜り、五枚の《結界》を部屋一杯に広げてボス共を押し潰し、更に一枚《結界》を増した。

少し休む。水の棒で飲水し、ダンジョンフルーツに齧り付く。俺の《結界》が魔法で無い事を悔やむ。魔力だけは無駄にあるのに、水と煉瓦と光しか出せない。ちゃんと習っておけば良かった。何が熟練度マックスだ。《結界》が一枚でも破れたら動けなくなるじゃねーか。役立たずの人の子め、こんなポンコツ使ってられっか!

「うおっ!」

突然左目に光が刺さり、怯んで目を閉じ尻もちを着いてしまった。まさか今のも精神攻撃だったのか?視力のある右目を開けると、そこには小さく光る粒が浮いていた。
敵じゃ、無い。何処かで見たような…。

「ダンジョンに、居たよな」

それは応えない。





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