上 下
1,179 / 1,519

逃亡者

しおりを挟む


 バットを担いで待つ俺の前に並ぶ五人。口だけ達者で構えもしない。危機感が足りないな。

「とっとと掛かって来いよ」

誰も来ない。来れる訳が無い。足に纏った《威圧》を解ける者は居ないのだ。

「クソっ」「卑怯だぞテメェ」

「温いわっ」

ドバッ!

かなりの速度で男共の背後に回り込み、下から振り上げるようなスイングでバットを振り抜いた。名物ケツバットである。尻を打たれた男は声も無く意識を飛ばし、前に倒れ込もうとするが纏った《威圧》が足止めしていて前のめりとなり、膝を曲げて更に尻を突き出す形となった。

「なっ…」「一撃で…」

ドバンッ!

「びっ!」

ドバッ!ドパンッ!ドバッ!

二人目の男は声を上げる余裕はあったか。三人、四人とケツバットをキメ、全員の意識を一撃で刈り取ってやった。

ドバッ!

「ひぎっ!」

「何寝てやがる。腹ごなしになんねーぞ?」

尻を向ける一人目の男に更なる一撃が見舞われると、悲鳴を上げて目を覚ます。が、痛みでそれ以上の言葉は考えられない状態だ。
バチバチと全員を起こしたら一人目に戻り、回復掛けて最初から。ギャラリーからの声も無く、バチバチと尻を叩く音と少しの悲鳴だけが黒い森に響いた。

 食事の仕込みもあるので最後の一撃を叩き込んで回復を掛けてやるが、痛みによる疲労で《威圧》を解いても倒れ込み、動けなくなっていた。

「俺は強いぞ?人の中では一番くらいにはな。さて飯の支度だ。手伝ってくれー」

寝てる五人以外の皆が手伝って、肉を焼いたり皿を並べたりしているが、皆静かに手だけ動かしてる。

「翔、やり過ぎだぜ」

「自分が殺されないとか思ってるから、あんな棒立ちで居られるんだ。危機感無いと普通に死ぬぞ?」

「…まあな」

皆、分厚い肉を食い、ソーサーとスープを流し込んで夜を過ごした。そして翌日、一人が姿を晦ました。

「一人でどうやって帰るってんだ」

「逃げ出した者は放っときなさい」

「それでは依頼に支障が出ますよ?」

「自業自得だ。俺はカケルを支持する」

出発準備の整ったホルスト車が並ぶ前で付き添い達が持論を述べる。グリオーソだけは黙して語らず、渋い顔。

「逃げるなら皆で逃げりゃあ良かったのにな。まあ連れ戻すけど」

《感知》で辺りを見回すと、森の中の木の虚に、体育座りの逃亡者を見付けた。遠くに行ってなくて楽だったぜ。《転移》でこの場に連れ戻す。

「えっ?あっ!」

「お前はもう冒険者じゃ無い。借金奴隷になってしっかり働くんだな」

「誰が買うのよ」

「暗殺者ギルドとかな。精々見張りの下っ端にしかならんだろうが。後は好色家か男娼か」

「売れたらこっちに支払われるのかしら」

「俺に一番入るだろうな。これから食事の度に借金する訳だし」

蹲り、自分勝手な言い訳を呟く男を《結界》で囲い、四号車の中に押し込むと、負の感情が湧き上がる。俺は無視して自分の車両に乗り込んだ。


 馭者の声でホルストが歩き出す。街道に出る迄は車内に居る五人はすっかりお通夜モードである。

「あの、奴隷って本当すか?」

「本当だ。逃亡者は放置か処刑か奴隷落ち。コレは街を出る前から決まってる。逃げ出して、野盗にさせない為だ」

「こう言うのって、ランクの降格とか除名とかが先じゃねーの?」

「冒険者を続けるってんなら降格もあるだろう。けどよ、コレが普通のパーティー遠征だったらどうなる?」

「最悪、全滅も…」

「だな。一人で死ぬのはともかく、パーティーが全滅するのはギルドとしても見過ごせんのさ」

「なら、カケルさん。パーティーメンバーが結託して一人を逃亡者扱いにしたら、どうなるんです?」

「んー、弥一ならどう考える?」

「俺に振るなよ…。逃亡者扱いが戻って来たとして…、疑いを晴らす事になるが…。余程の事が無いと通らんよな?」

「んだ。成り上がるか没落させるか、名前を変えて逃げるか…」

「割と知ってるネタだな」

パーティーから脱退させるにしても円満な方が良いよな。



しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

【絶対幼女伝説】 〜『主人公は魔王なのに』を添えて〜

是呈 霊長(ぜてい たまなが)
ファンタジー
彼の昔、最強の吸血鬼であり最強の魔王『ゼティフォール』が世界を闇で支配していた。 時を経て、神の力を手に入れし勇者率いる英雄によって、100年の闇による統治は終わりを迎えたのだった。 それから400年後、魔王が目を覚ました! 闇と共に滅ぼされるかに思えたゼティフォールだったが、勇者と神の意思により長らえていたのだ。 『再び危機が迫った時、新しき勇者と"共に"世界を救う』ために。 目を覚ましたゼティフォールは危機の訪れを察し、敵を迎え撃つ! 最強の名を欲しいままに、魔王の名を知らしめるが如く、勇者など必要ないと言わんばかりに! 最強の名は伊達じゃない。 復活した魔王軍だけの力で世界を救ったのだった! …………という予定だったが、うまく行かず、敵こそ撃退したものの魔王たる力を無くし、圧倒的強さも奪われ、残ったのはプライドだけ。 しかも、見ず知らずの土地に飛ばされ、雑魚モンスターにいじめられる始末。 服もボロボロ、体もボロボロ、唯一残ったプライドすらもボロボロ。 そんな哀愁漂うゼティフォールを救ったのは、天使のような翼を持った"最強"の幼女『ステラ』だった! ステラというチートな仲間を手に入れたゼティフォールの快進撃? が始まる── 頑張れゼティフォール! 負けるなゼティフォール! 今は幼女にお守りされる身だが、いずれ最終的には、多分、きっと、いつの日か、ひとり立ちしてプライドに見合った実力を取り戻すのだ!! ※一応主人公は魔王です

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...