上 下
1,163 / 1,519

覚悟しろ

しおりを挟む


「バッキャローッ!!ガキ相手にちんたらしてんじゃねえーっ!引っ掻き回して打ち殺せええっ!!」

「足を止めりゃあこんな雑魚共ゴミ以下だっ!根性入れて働きやがれええっ!」

 何方も似たような事を言う。
突撃姿勢の野盗共が左右に散り散りになるのを止めようとして、空いた中央が薄くなる。仕方無い事だ。

「まだまだーっ!」

そこに弥一が壁を生やす。直ぐに二手に分かれて左右の戦列に加わる野盗。此奴軍人崩れか?
弥一は手詰まり。真っ直ぐの壁を建てて、一部を削るのが今の限界なのだろう。一方、敵は配置を変えて片方に戦力を集めるようだ。しかも女が多い側。これでは各個撃破されるのは此方になってしまうぜ。

「カケル、アレは彼奴等の手に負えんぞ」

汗タラタラのダミヤンが寄って来る。

「戦いたいだけじゃ無いのか?」

「俺は盾役だ」

「なら口を動かそうな」

指示が追っ付かない冒険者達に綻びが出たのはその時だ。

「いやっ!」

「ぎひっ!女だぜ!?殺され…」

「え?」

「どうせ全員殺すんだろ。ちゃんと戦えー。お前も迂闊だぞ。もっ回行ってこーい」

捕まった女を《転移》させ、注意して送り出す。

「何だ、今の…」

「良いから指示出せし。出さなきゃ俺が出しちゃうぞ?」

「お、おう…」

「ダミヤンから指示を代わった!上手い事殺って凱旋だ!」

「「「おうっ!」」」

「弥一、ドラまたの魔法だ!皆時間を稼げっ」

「ふぁっ!?詠唱長いぞ、覚悟しろよーっ!…四界の闇を統べる王、汝の欠片の…」

弥一の詠唱が始まった。両翼の敵から丸見えな位置に立ち、腕を組んだり上げたりして魔力増加版の魔法を唱え始めた。

「そんな壁なんて粉々になっぞ!下がれ~」

「んなっ!?」「彼奴そんな魔法使えんのかよ!」

「敵が下がった!俺達も下がるぞーっ!」

敵が薮迄逃げるのを見て、お手頃価格達も弥一の後ろ迄逃げて来た。敵は弥一目掛けて飛び道具を放つが、前面に壁があっては当たりはしない。敵が見えなくなって直ぐにこっそり最初の壁の裏に隠れてるしな。

「怪我した奴は今の内に直してもらえー」

「…等しく滅びを与えんことをっ!」

「「「…………」」」

僅かな静寂。そしてドンッと大きい音と阿鼻叫喚の声。

「やったか?」

「まだ少し残ってんな」

弥一の問いに答えると、正面の壁を消してやる。

「一体、何が…」「魔法はどうした?」

「敵は!?…はぁ?」

そこには厚い煉瓦の板が倒れ、敵の殆どを押し潰していた。

「残党狩りだ!蹴散らせーっ!」

「「「おおおっ」」」

生き残りはたったの二人、完全に戦意を絶たれた敵に抵抗は無かった。


「はあ!?嘘っパチだって!?」

 瓦礫や壁を回収し、怪我した野盗を縛り上げ、死体を一ヶ所に寄せて、此方の怪我人をケアしたら、弥一と二人質問攻めに遭う。

「どうせ彼奴等魔法なんて知らんだろうしな」

「実在しない魔法を使えって言われて、時間稼ぎしろって気付いた訳よ。で、敵が狭い方行ったから、後は後ろからバタンッてな」

「殺れなくても動きを止めて、頭数を減らせれば良かったしな」

「流石に俺にはそんな指示出来ん。知り合い同士ならではと言った所か」

「しかし…、よく即興であんな長い詠唱出来たものだ」

ダミヤンは俺と弥一が依頼初日から慣れ親しんでいた事を、気にもして無かったみたいだ。そしてムームードは詠唱が気になる様子。

「小説…物語の一文にあってな。格好良いから、読んだ奴は皆覚えるんだぜ」

「四界の王に、昏く紅い、偉大な者、か…。確かに心躍る節だ。複数の高位精霊の力を借りるような物だしな」

高位精霊か…。

「あ、無知で済まんが教えてくれ。光の精霊ミティオース様はどんくらいの精霊様なんだ?」

「ミティ…中の上、と言った所だが、あまり名前は言わない方が良いぞ?名指しで指名されるのを嫌がると言われているし、自分の預かり知らん所で話をされるのは嫌だろう?」

「そうか。自重する」

ミティオース様、怒ってたのか…。




しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

処理中です...