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緊張する瞬間
しおりを挟む血で汚れた地面を《洗浄》等して休憩地の片付けが終わり、車両を道の脇に着ける。言付け通り左に寄せた夫人達の客車を煉瓦の壁でコの字に囲い、マットを敷いた。
「ニーネンタール嬢は此方でお休みを」
「カケル様に感謝を」
マットに横たえるのを確認し、飯の支度。主にメイドと、俺の居る六組が食事を取り仕切って居るが、他の組はサボってる訳では無い。周囲の警戒で歩いていたり、怪我人のケアをしていたりもする。だが夫人達の近くで警護してます風の三組は、お前等サボってんだろ?って思う。敵居ねーし、近くに騎士が仕事してるし。ヘンプシャーよ、夫人と懇意になりたくば、見られて評価される働きをしろ。どうやってAランクになったのか、今一解らん女である。
メイド達とも話をして、夫人達にも薄焼き肉の薄ソーサー巻きを食してもらう。女の子の日のニーネンタールに、厚い肉は辛かろうと言う配慮だ。
「カケル様、どうやって食せばよろしいの?」
「手で持って、被り付いて頂きます」
「カトラリーを使わないなんて…」
ツマツマと端から食べ進めるニーネンタール。どうやらお口に合ったようだ。貴重な角材を薄紙にした物でラッピングしてるから、手が汚れてしまった、とか、二度とこのような物を我が家の食卓に出すな、等とは言わせない。ああ、ハンバーガー食いたい。チーズバーガー…。
「ふふっ、洗い物の手間が省けますわね」
「紙は貴重ですので、代わる物を用意すべきでしょうね」
「そうね。…では、紙でお皿を作れば良くて?」
脂や水気が染みなければそれも良さそうだな。移動中、ソーサーを乗せるだけって感じなら何とか使えるのかも知れないな。夫人達が食事に集中してくれたので、俺も食事に有り付こう。
移動中、正面から人が来る。見た目に分かる魔物より、俄に緊張する瞬間だ。相手は商隊のようで、ホルスト車が三台、護衛の冒険者を引き連れて、斥候の騎士に止められていた。相手が道を譲る迄、此方も移動出来無い。
「浮かせて超えちまえば良くねーか?」
「弥一よ。相手が商隊に扮した野盗なら、此処で仕事が終わるぞ?」
「フラグになり兼ねんし、外出ておくか?」
「俺達でも居ないよりはマシ、か」
「カケルさん、危なくなったら頼んます」
「喧嘩吹っ掛けられても買うなよ?おちょくられたらドヤ顔してやれ」
「あはは…、お願いしますね?」
六号車から全員が出て前に行くと、五号車からも増援が来た。あっちも似たような事考えてたのだろう。グリオーソが馭者席に着いて指示を出す。五組は左翼、六組は右翼か。俺は車両を飛び跳ね五号車の上に陣取った。
「良いのか?自分等のホルストを守らんで」
「潰されて困るのは三号車から前だよ。四号車からは出ないみたいだな」
「お前等が先に出ては出難かろうよ。人の事は言えんがな」
「前の組は戦闘多めだし、休ませてやるかね」
「俺等も良い所見せんとな」
良い所、無かった。平和で何よりである。擦れ違い、商隊が道に戻って進み出したのを確認し、それぞれの車両に帰還した。
「杞憂で終わって良かったが、仕事が終わらず残念だ」
「お、心を読んだか?」
「そりゃ何てスキルだ?《感知》でそこまで出来んのか?」
「感情からの憶測で、似たような事は出来るな」
「スキルかー、良いよなぁ」
「ヤイチは回復出来るし、やっぱ貴族なんじゃねーの?」
お手頃価格の四人は魔法は疎か、戦闘系のスキルも無いらしい。
「反復練習し捲ると、湧いて出るらしいぞ。俺の集落の者は獣人だが、強化系のスキルが生えてたし」
「素振り千本ってか」
「確かに聞くけどなぁ」
「金にならんもんな」
素振りする時間を依頼に使わないと食って行けないとなると、実戦で生えるのを待つしか無い訳だ。休みの日は休みで寝ちまうと言うし、鍛錬が出来るか否かで冒険者の質が変わるのだろうと感じた。
勿論俺は実戦派だな。
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