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優しい言葉

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「カケル殿、何故メリクヒャー家に?」

「このような時間に女しか居ない屋敷へ来るのは些か礼を失しては居るまいか」

 女騎士がそう言って困った顔をする。俺だって分かっとるわ。

「夜分失礼。俺の妾達が疲れてはしないかと思ってな。少しばかり家主とメイドを借りに来たのだ」

カロは何も言わない。夫人の答えに従うつもりか。

「カケル様、私共は、お邪魔で御座いますか?」

「真面な貴族の家ならば問題無いが、此処は家主にメイドが一人。手が足りないのは見て分かるだろう。長居すべきでは無かったな」

夫人の質問にそう返すと女騎士達が俺と夫人達の間にズイズイッと立ち塞がる。

「お止めなさい」

「ですが」

「お止めなさい。
…カケル様、私達の行く宛が此処しか無かった事、ご承知下さいましね?」

「分かってるさ、男の家には行けないからな。だが宿もあるだろ?」

「カケル殿。それが無いのだ」

「は?」

女騎士曰く、宰相夫人の泊まる宿はこの街に無いと言う。身分ある者の泊まる宿は、それに見合った格が必要であるそうなのだ。全く馬鹿馬鹿しい。

「良いように使われたな、カロ」

ピクリと体を震わせて、それでも耐える。

「ハイネルマールのトコ行ってメイドの二三人借りて来い」

「カケル様、私では足りませんか?」

「足りん。頭数が全く足りてない」

アルネスの言葉を斬り捨てる。

「カケル殿、私共が言うのも何だが、それではハイネルマール様に貸しを作ってしまう」

「そもそも男爵家に公爵家が行くのがおかしな話だろ。金で済む借りなら幾らでも借りて来い。カロ!」

「っ!はいっ」

「俺を頼れよ。これでも一応王だぞ?」

「はい。…はい、申し訳、ございません…」

カロに一筆書かせて、明日アルネスに持たせる事となった。

「では二人を借りて行くぞ。シンクはどうする?」

「只今お連れします」

「寝ていたらそのままにしとけ。三十リットもしたら戻るからな」

夫人達に有無を言わせず、カロとアルネスを施設へと連れ出した。

「何で直ぐに助けを呼ばなかった?」

「申し訳ございません」

「家政婦組合とかに頼んでるモンだと思ってたよ」

「申し訳ございません…」

目の前に用意されたお茶に手を付けず、カロはずっとこの調子だ。そこにアルネスが割って入る。

「カケル様、それは出来兼ねます」

「格の問題だな?ならフラーラやノーノを借りに来いよ。それなら貸し借り無いだろ?コッチも世話になってんだからさ」

「それは、畏れ多い…」

「だろうと思ってハイネルマールの名を出したが、俺達を頼るのはそんなに嫌だったか」

「そんな事はっ」

「カケル様、全ては私の責めです。アルネスは何も悪くありません。どうか、どうかっ」

「奥様っ」

「見損なうなよ?俺はお前等の為ならどんな事でもするからな?それと、怒ると叱るを履き違えるな」

「「はい…」」

「カケル様、そのくらいで。お二人はお風呂に浸かって、ゆっくり休んでください」

シャリーが見兼ねて割り込んだ。冷めたお茶を飲んで俺も落ち着こう。

「優しい言葉を掛けてあげたら良かったのに」

二人が浴室へ向かうと、シャリーが口を開いた。

「つい悲しくなってな。頼ってもらえない自分に腹が立った」

「立場、ですかね」

「金があっても、強くても、地位まであるのに、俺は舐められるんだな」

「それは違いますよ。カロ様の性格もあるのでしょうね。少なくともバルタリンドに来てからは、人に頼る生き方なんてしてなさそうですし」

「…かもな」

「そろそろ行ってあげてください。今度こそ優しい言葉を掛けてあげてくださいね?」

答える間も無くシャリーに押され、サロンへ追い出された。

「カケル様…」

「あっ…」

「……さっきは言い過ぎたよ。ごめん」

浴室で二人と対峙し、俺は折れる。

「此方こそ、カケル様のお手を取らず、固執してしまいました」

カロが湯の中で頭を下げる。溺れるぞ?

「私も盲目でした」

アルネスよ、お前もか。








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