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落ち着け俺
しおりを挟む「お帰りなさいませ、カケル様あむっ」
テイカがお帰りのキスを強請るのを受け止めると、その場で服を仕舞い、滑りを纏わせたアイツを捩じ込んだ。
「ん…んちゅ…。少し作業するからこのままで居ろ」
「はい…ちゅむ」
テイカを突きながら寝室へ向かい、ベッドへ横になると《白昼夢》からの《転移》。向かうは弥一の部屋だ。しかし弥一は仕事中。《感知》で見ると、今日も掃除機で通路の埃を吸っているようだ。
あれから可愛がっている金魚達の聖域は水草が増え、エビが放たれツマツマと流木を掃除している。水槽に反射する自分の顔を見て伸び過ぎた髪を掻き上げる。鋏が無いから切るの面倒なんだよな…………あ。
地球に《転移》してた。
魔力を確認するのも忘れて全力で回復を掛ける。そしてそそり立つアイツを《洗浄》し萎えさせると《収納》から皮を取り出し腰に纏い、水の棒の水をコップに注いで喉を潤す…落ち着け俺。
「ふぅ…」
魔力は回復した。スキルも使える。何時もの癖で《転移》してしまったが、一歩間違えれば何億年も掛かる可能性があった事にゾッとする。《白昼夢》で寝室のテイカを見ると、ぺたんこ座りでキョロキョロしてる…あ、目が合った。テイカの謎感知は置いといて、俺の《転移》は時間の概念を無視して移動出来る事が判った。
《転移》を使って部屋を出る。
「よう相棒」
「だ…翔なのか?」
掃除機を掛ける弥一の前に《転移》すると、間抜けな返事を返してくれる。
「《転移》成功しちまった」
「…若くね?」
「以前書いて見せたろ?」
「その鎧…いや待て仕事が先だ。鍵貸すから俺ン部屋で待ってろ。金魚には触んなよ?」
《転移》で行けるから平気だが、此処は素直に借りて行く。コンクリの上を歩くのも、地球の素材を触るのも久しぶりの事なのだ。エレベーターで下に降りるのも久しぶりで、ボタン押すのを一々確認してしまう。途中で止まって、誰か入って来たらどうしよう。ドアが開いたら上半身ズタボロの鎧を纏った男が居るって、そっちの方がどうしようって感じだろうけど、何事も無く二階に着いて、通路を歩いて弥一の部屋の前。この高さだと外の音がよく聞こえる。道路を走る車に、日本語。何処からか聞こえて来る音楽の声も日本語だ。鍵を開けて中に入ると《洗浄》を掛けて土足のまま部屋へと向かう。特にやる事も無いので、鍵を机の上に置いたら椅子にでも掛けて居よう。
野郎の仕事がどれくらいで終わるのか、聞いておけば良かった。時計を見て十分程過ぎたのを確認し、暇を持て余す。本棚でも漁るか、それとも冷蔵庫の中を漁るか…。どうせ調味料くらいしか入って無いだろうと予想して本棚を漁る。読んだ物に、読んだか忘れた物。そして見慣れぬ物もある。アレから結構経ったから、見慣れぬ物の方が多く見えた。
「翔!居るか!?」
見慣れぬ一冊を手に取って、席に着いてパラパラと捲って居ると、漸く弥一が帰って来た。鍵くらい掛けたらどうなんだ?バタバタと騒がしい男め。
「此処に居るぞ~」
「お前何だその装備はっ?」
「コートは借物だ。この通り壊しちゃったんだけどさ」
「転移に成功って俺も連れてってくれんだよな!?なっ?」
「それはまだ無理だな。複数での《転移》をした事無いし、神的な存在にダメって言われるかも知れん」
「そ、そうか…。神的なってのは宇宙管理者だな?取り敢えず靴脱げよ」
「お前もな。因みに俺は《洗浄》スキルでキレイにしてあるぞ?」
「あ…」
靴を玄関に仕舞いに行った弥一は、冷蔵庫から取って来たのだろうパックジュースを飲み飲み戻って来た。俺の分は無いらしい。
「翔よぉ、俺も異世界転移したいぜ~」
「異世界っつーか、惑星転移だよな」
「剣と魔法の世界なら何でも良いさ。獣耳に長耳も居るんだろ?現実に居ないからそんなモン書いてんだぜ?」
俺の持つラノベを指差し、信じられ無い事を言い放った。
「ソレ、俺の書いたヤツ」
自費出版か。イラスト手が込んでんな。
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