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入場規制
しおりを挟む翌日はテイカとイゼッタを伴ってバルタリンドにやって来た。俺達が居るのはカロ邸だが、寝具店にはサミイと、フラノノシャリーのメイド組が向かい、広報活動をしてくれるそうだ。
「カケル様、貴族への通達は如何なされますか?」
アルネスは貴族を客にする為に言っている訳では無い。難癖付けさせない為に一言断りを入れるべしとの判断だ。
「無視だな」
「良いのですか?」
「平民と一緒に入れるなら口コミで来てくれて構わない。そんだけだよ」
「だいじょぶ。難癖付けたら更地になるだけ」
「た、確かに…」
イゼッタよ、難癖付けた代償は更地になる迄分からないんだぞ?
アルネスも暇では無いので早々にカロ邸を出て、斜向かいの入浴施設へと向かう。テイカは壁を蹴ってタタッと、イゼッタは魔法で飛び、俺はスキルで飛んで入る。
「入口入ったら浴室で一オコン過ごすから、時間を計ってくれ」
「数数えてたらい?」
「イゼッタは時間を計るスキルは持って無いか」
「ん」
「カケル様。どうせ直ぐに戻られますし、数を数えるので充分かと。逆は大変ですけど」
「まあそうだな。ではちょっと籠るからドアが閉まったら数えてくれ。帰りは《転移》で戻る」
「ん~」「了解です」
玄関を潜りドアを閉めると同時に《逃げる》に指示を出す。一オコンしたら指定した場所に《転移》しろ。と言う内容だ。風呂に向かい、休憩スペースで横になる。流れ続ける湯が部屋を暖かくしていて眠くなるのだ。気付いたら外に放り出されていた。
「寝てたの?」
「部屋が暖かかったモンでな…。幾つ数えた?」
「二」
「一オコン二ピルか」
「ん」
「出入りを気を付けないと鉢合わせしちゃうな」
「入口は時間が違うって、ネーヴェ様言ってた」
イゼッタの説明を聞くに、入口で若返り、その他の場所で歳を取る。出入りで二回通るので、その分若返る…みたい。
「そうなると、入口から入って時間を調べるのは難しいのか。少なくとも《転移》で出るのはダメだな」
もう一度計測し直しだ。今度はちゃんと玄関を通って外に出た。
「おかえり~」
「幾つ数えた?」
「…忘れた」「百八十です」
「上手く帳尻合わせたモンだな。一オコンが三リットになる訳か」
そうなると、十オコンが三十リット。一日何回かに分けて入場規制するのが良さそうだ。
「二の鐘と、五の鐘で入場。そこから最長三十リットで店仕舞いにしよう」
「そんだけ?」
「中で十オコン経つんだぞ?先ずはこれで様子見しようぜ」
「なるほど」
「テイカさん達に伝えてきます」
「頼むよ」
「私、お風呂入ってく」
イゼッタに雑木タオルを渡して俺も出掛ける。ノースバーの小銭を集めねばならんのだ。《白昼夢》でクリューエルシュタルトの冒険者ギルドの上空を指定して《転移》。瞬きする間も無く空の上に居た。
「カケル?何してんだ突然」
ギルマス室の窓が開き、ジョンが身を乗り出した。此奴も謎感知を覚えたのか。
「金を引き出しに来たんだ。お釣りや給与にするから纏まった数が欲しい」
窓迄降りて告げると、サブマスを呼んでくれるって。この街のギルマスはサブマス呼ぶ係なのか。中に入って暫し待つ。
「給与とお釣り、と聞きましたが、商売でも始めたのですか?」
お茶を持って来たサブマスと思しき美人が問う。また新しい女か。
「商売は既にやってんだが、新しいの始めたんだ」
「レーナ、此奴のおかげで黒糖食えるんだぞ?」
レーナさんか。濃い青の髪を肩で揃えた糸目さんだ。目鼻立ちが整っていて絵みたいなレーナさんも黒糖と聞いて開眼し、金色の瞳を輝かせた。
「貴方が神ですか」
「そんなに力持って無いからね」
「いいえっ、貴方様のおかげで雪の季節の食料問題が解決したのです。その上庶民にも手を出し易い甘味を広めて下さいました。貴族に召し上げられないのも、きっと貴方様の尽力の賜物なのでしょう」
盲目だが優秀だな。珍しく、ギルドに女の理解者が増えた。
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