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寝て起きて十年
しおりを挟むお花摘みが終わったのを見計らい外に出る。
「カケル様、なさるのでしたら奥様が乗られた後で…」
メイドの言葉をスルーして、ホルスト車の最後尾に荷車を出した。
「俺はこれに乗るから」
「そんな勝手なっ」
「リュネに殺されたくなきゃ俺に構うな」
「カケル~、私も~」
「それでは私もぉ」
シャリーとノーノは我慢するようだ。先頭車にはシャリーとノーノ、中央車には夫人とメイド二人に乗り換えて移動を再開した。
「お尻痛かった」
「よしよし、撫でてやろう。つか、お前は浮けるだろ?」
「風が舞う」
それは迷惑だな。夫人達が尻を痛めているのに自分だけ浮くのも問題か。
軽くなったホルスト車は僅かに速度を上げて停泊する町に向かう。領の境界を挟む町だそうで、実際にはカゲンノウ側の町だと言うイゼッタ。街を出ると同時に領を跨ぐ事になるのだとさ。対面座位で向かい合うイゼッタの尻を撫で撫で揉み揉み。後頭部を包み込むリュネパイがぱふぱふ。尻のダメージを癒しながらの旅程となった。
町に着いたのは夕方過ぎ、と言うよりだいぶ暗さが増してからだった。荷車出してなかったらもっと遅れていたか。町に着く前に荷車からホルスト車に乗り直して町に入り、そのまま直線で反対門へ。今日の宿は門の近くの宿みたいだ。メイドが走って話を付けに行っている。
夫人は四人部屋を一人で。メイドは四人部屋、イゼッタとリュネは二人部屋。俺は馭者達と四人部屋に泊まるそうな。部屋が無いって言うのなら仕方無い。
「カケルさんは私達と一緒に寝ましょうねぇ」
「カケル様、節度はお守りくださいね?」
「節度ね、はいはい」
宿の外観から察していたが、これは中々良い宿で、掛け湯を溜める小さな湯溜めと、洗い場だけだが浴室があった。ホテルニュー王都以下ではあるが、そこらの宿よりグレードは高い。内装もしっかり磨かれて、貴族御用達なのは明らかだ。
「お風呂にしますぅ?」
「ご飯が先~」
「風呂はアッチで入ろうか」
「「は~~い」」
シャリーが呼びに来て夕飯の時間。食堂に向かうと予約席になっており、混んでる中席を確保されていた。
「夫人達の席が無いが、良いのか?」
「はい。夫人は自室に持ち込ませるので。メイドのお二人はそのお世話ですね」
「成程。馭者達は?」
「へー、そう言うのも良いな」
「カケル、他の店行っちゃう」
「確保しておいて良かったですねぇ」
妻と妾が居る前でそんなお店にゃ行けませんよ?治療行為であれば吝かでも無いけどさ、ぐへへ。
注文して無いが料理が並ぶ。メイドが既に発注済みだそうで、気が利いている。
「イゼッタ、酒はダメだぞ?」
「ん~」
並んだ酒は下げてもらい、水をいただく。
「イゼッタさん、私だって飲めないんですからぁ我慢してくださぁい」
「リュネは飲めるのか」
「龍が作るお酒、なんてのもあるんですよ?」
「それは、凄い年代物になりそうだな」
「寝て起きたら十年、ですからねぇ。作ってたのを忘れて百年以上経ってた…なんて話も聞きました」
「酒やら酢はあるのに発酵食品は見付けられないんだよなぁ~」
「みそ…だっけ?」
「豆を煮て、塩漬けにするんだが、種を常食にしてなかったんだし仕方無いよな」
「そうだな。種を手に入れる伝手も居る訳だし、やってみっか」
「伝手…、女?」
「男だぞ?デブで物書きの異世界人だ」
「デブ…、貴族?」
「平民でも太ってるヤツは居るんだよ」
「それで、しょっちゅう《白昼夢》していたのですねぇ」
「唯まあ問題もある。生き物を《転移》させて神様が怒らないか、だが」
「みそ…生きてるの?」
「味噌を作るのに、粉にしか見えない生き物を使うんだ。黴みたいなな」
紛うこと無く黴なんだが、印象悪くする事も無いだろ。
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