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手弁当

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 普段より少し早く起こされると、軽い朝食を済ませてホルスト車に乗せられた。UFOの方が断然早いし乗り心地も良いのだが、貴族の移動となるとこうで無きゃならんようだ。先頭車には俺とリュネにメイドが二人、後ろの車に夫人とイゼッタ、シャリー、ノーノが乗り、馭者の声と共にゴロゴロガタガタ出発した。

「此処からだとタイワメノール迄どれくらい掛かるんだ?」

「タイメワノールでございます。王様の姓ですのでお間違え無きよう。タイメワノール迄の道程ですが、道中に一度停泊し、タイメワノールで一泊しますので謁見には三日掛かる事となります」

「これだけの短期間で謁見が叶うのは奥様のお力添えあっての事ですから。お忘れなきよう」

「確かにな。書状は昨日出したのだろうし、それが二日で着いたとして翌日だもんな」

「ホルストを早駆けしておりますので、何事も無ければ今日の昼には着きましょう」

「そりゃあ早いな」

「《転移》なら一瞬なのにぃ」

「リ、リュネ様のお手を煩わせる訳にはっ」

「貴族の作法でございます故、何卒ご容赦下さいませ」

しっかり躾てあるようで、リュネには凄く下手に出てる。俺に対しては丁寧ではあるが、何か見下されてる気がする。少し浮いて不貞寝する。

「あの、カケル様?」

「護衛を付けてない意味、分かっておりますよね?」

「大丈夫だよ」

「人の子等。お前達はイゼッタの親族でも何でも無い事を理解しなさい」

「「うっ!」」

「止めろリュネ、ホルストが暴れる」

リュネの心遣いに、手を握って応える。

「はぁ~い」

後ろの様子は分からんが、此方は車輪の回る音とホルストの足音だけが響いてる。偶にはこんなゆっくりした旅も良いモノだ。寝よ寝よ。

数オコンして、ホルストの休憩となり起こされる。外に出ると柵のある休憩地になっていて、俺達の他にも何台か荷車が見えた。皆思い思いの休憩を楽しんでいるみたい。俺も腰を伸ばす。

「リュネ様、カケル様、昼食にございます」

草か何かを編み込んだ籠を受け取る。煮炊きはせず手弁当なのな。中身は肉の焼いたのとソーサー。食べ盛りには稍足りないが、これが節制と言うヤツか。簡易テーブルに折り畳み椅子、これらも少し小さいが、此方は単に軽量化だろう。そう考えると、全てが軽量化に感じてしまう。朝食も、弁当も…。

「カーケルーゥ」

「はいはいよしよし」

やはり足りなかったか。イゼッタを膝に乗せると椅子が壊れちゃいそうだ。少し浮いてから膝に乗せて撫であやす。

「干し肉あるから分けておいで。それと、移動中にでもコレを摘むと良い」

「カケル大好き~」

「俺も大好き~」

干し肉と甘納豆の入った袋をゲットして、夫人達のテーブルに飛んで行く。柔らかさが名残惜しいぜ。
食後の休憩もそこそこに移動再開。が、直ぐに止まってしまう。夫人等のトイレだとさ。メイドが一人外に出て、夫人のお世話をしてる。もう一人は残って俺の見張りだ。

「殿方は外でサッと済ませられましょうが女性はそう簡単にはならぬ物なのです」

「休憩地で済ませておくべきだったな」

「周りに市井の者も居りましたでしょうに」

「壁と結界でトイレくらい作れるのに」

「そう言う事は早く仰って下さいっ。奥様ーっ」

見張りを放棄して出てっちゃった。外は草丈が高いので、壁なんて無くても平気だろうけど、やはり建てねばならんようだ。煉瓦の壁をコの字に組んで、真ん中に穴開けて土と小さなスコップをセットして簡易トイレ完成。こんなモンなら外出なくても作れらぁ。

「リュネは苦しくないか?浮いてるだろうから尻は痛く無いだろうけど」

「少し狭いですね」

「五人乗りで移動するのに最適化した結果なのだろう。重くしたらホルストがへたるだろうし」

「ならば頭数を増やすとか」

「維持費は嵩むし、持ち込む水が増えるからどうかな…」

「カケルさんの荷車って良い物だったんですねぇ」

ああ、荷車出せば良かったか。
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