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カブトムシ
しおりを挟む「カケル様、此方そろそろ良さそうですが…」
「待ってた」
薄切りが焼けたようだ。鉄板の圧力から解放された姿は黒糖よりは薄いがしっかりとした焦げ茶色になっていて、見た目ダメそうにも見える。
「リーム、済まないがコレを冷ましてくれるか?」
「頼まれよう」
皿に移した焦げ茶のカリカリをリームに渡すと、魔力を帯びた風が小さく渦を巻く。風魔法を使いながら魔力も出して冷やしてるのか。水分を飛ばせるし、中々考えたな。
「カケル、こげた?」
「黒糖の方が黒いけど甘いだろ?」
「んむ」
一欠片割って口に運ぶ…。前のよりカリカリが強い。
「おいし?」
「ネーヴェ、どうぞ」
「ねえおいし?ねえ…」
茶色い食べ物は黒糖や甘納豆で慣れてるだろうに、凝視して、匂ってから口に入れた。
カリッ、カリカリむぐむぐ…。
「んまい。あまい」
それを聞いて皆が寄って来る。鍋の番をしてくれ。カリカリを頬張って可愛くなった兎達を手伝いに戻し、俺も油鍋の世話をする。
十リット程揚げて、だいぶ茶色味が増したので一度皿に取り出して寝かせる。これは自然に冷ますべきだろうな。金串代わりの釘を刺すとスッと入るので火は通っている筈だ。
芋モドキを冷ましている合間に油温を上げ、更にタレも作る。新たな鍋に黒糖と水、そして少しの塩を入れて熱する。そんだけ。
熱された油鍋に芋モドキを再投入。此方を伺ってたラビアン達が逃げた。手伝いは逃げるな。リームが代わりに角切りの世話をしてくれた。助かる。
ジョワジョワパチパチ油が撥ねる。リームは平気そうだが油汚れはテイカ辺りに怒られそうなので《結界》張って油撥ねから厨房を守る。
「我はこの程度の温度気にもならんのだが?」
「床に落ちると滑って危ないからな」
「ふっ、主様は優しいな」
八割程度は保身の為だがな。
油鍋の中身がカリカリになり、取り出して熱々のタレを掛けると再び集まって来る兎達。現金なモノである。
「そっちもこげこげいろ」
「リーム、こっちは軽く冷ます程度で頼む」
「うむ」
今度は風魔法だけで冷ますみたい。風が渦巻き甘い香りが厨房を抜ける。
「旦那さまー、良い匂いするんですけどー!?」
「皆さん、おやつの時間ですか?」
「カケル、ずるい」
狡くは無いだろ。お世話組が休憩なのか食堂に集まって来た。
「もう少し待っとれ。持ってくから」
「「「はーーーい」」」
なんか増えてる。
それなりに冷めた大学芋モドキを頬張ると、女達の視線が刺さる。狡いって言うな。
カリカリが、タレを吸って程良く柔らかくなり、中はホクホクとした食感に変わっていた。此処迄火を通さなきゃならんのか…。レッグルートの甘さが増し、甘塩っぱいタレに合う。醤油が欲しかったがコレはコレで良いな。
金鍔も出来たようで四角いカブトムシみたいな色になり、ラビアン達に配膳させておやつの時間となった。
「はぐっ、はぐっ、んむんむ…」
「これは、素晴らしい甘味で御座いますね」
「甘くて、少し塩っぱくて。こっちも凄く甘いです!」
「かなり甘味が強くなったな。これが火加減の効果か」
「カリカリ、んま。しっとり、んまぁ」
施設整備組の分は追加で作る事になりそうだ。
一般生活組と赤ちゃんのお世話組が交代し、再び作り方を教えながら施設整備組のおやつを作る。帰って来てこの甘さを嗅いだら大変な事になり兼ねん。慌てず急いで正確に、おやつを作って《転移》した。
「あら?カケルさぁん」「カケル様?」
リュネとテイカが気付いて見上げる。二人はテラスと玄関周りを仕上げてくれていたようだ。
「おやつ持って来たよ。中に入って皆で食べておくれ」
「はぁ~い。甘い香りですねぇ」
「リーム様のレッグルートを加工していたのですよね?」
「デカいけどちゃんと食えたよ。きっとデカくて良かったと思う筈だ」
食堂に集まった皆の反応は予想通りであった。昼飯あるからね?お代わり無いからね?
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