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ステンレス

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 大きな空間の中心には穴があり、その周りを壁に沿って階段が降りている。螺旋階段だ。

「この下に封印されております」

「光が見えるよ。けど深いなぁ」

「飛んで行けば直ぐですよぉ」

確かに。エンメロイを背負って浮き上がると、ネーヴェがお姫様抱っこしろとばかりに目の前で横になる。お前、浮いてんじゃん…。そしてリュネの目にオーラが籠る。

「手、繋いで降りよ?」

「ん」「はぁい」

こうでもしないとリュネの魔力で魔王が目覚めかねんしな。仲良く竪穴を落ちて行った。
穴の底まで百ハーンくらいあっただろうか。稍あって床に足を着けられる。階段の脇には緑に光る浄化の属性魔石が安置され、中央に置かれた小さな祠から漏れ出す瘴気を浄化していた。

「此処に居るのか」

「ええ。魔王様、今この場に居る者で、魔王様が屠れる者は私と此方のカケル様しか居りません。敵にするには無謀ですので、今暫くお休みくださいませ」

エンメロイが祠に跪き、手を組んで祈る。祈りが通じたかは分からないし、瘴気の漏れ出る量も変わらない。

「では始めようか」

「ん~」「はぁ~い」

「封印ですね?」

 封印は多分しっかりしてると思う。が、漏れてちゃダメなんじゃないか?リュネにも聞いてみたがこれ自体はこんなモンだと言われた。リュネによる封印の上書きに、更に浄化を増す為行動に移す。
先ずは祠の周りを《威圧》の壁で囲って型にして、中にミズゲルを流し込む。そしてネーヴェに頼んでおいた浄化の属性魔石をこれでもかと詰め込んだ。

「それだけの魔石で幾らになるのか…」

「売り難いから、家では龍のおやつになってるよ」

ミズゲルの塊を《集結》で固め、クリスタルモドキにしたら型を消す。属性魔石の詰まった円柱状のクリスタルモドキとなった。

「ネーヴェ、魔力を流しておくれ」

「ん」

ネーヴェが魔力を流し込むと、緑の光が放たれる。眩しくて目が開けられない。

「リュネ」「は~い」

リュネの土魔法がクリスタルモドキを包み込み、光が弱まる。

「リュネ、それ鉄か?」

「ええ。錆びて朽ち果てるまでは大丈夫でしょう」

「だったら、鉄の時間、とめちゃう」

そんな事まで出来るのか。錆びない鉄、凄いな。ステンレスじゃん。…と思ったら、ゲルで更に包んで固めるだけだった。確かに酸素や塩素に触れなければ化学反応しないわな。

「では、封印しますよぉ~」

「え?これからなのですか?」

「まだ封印なんてしてませんからね」

此処迄が下準備。仕上げの封印はリュネの仕事だ。祠だった物にリュネが手を翳すと結界に包まれ、更に幾つもの魔法陣が現れては結界に吸収されて行った。

「何をなさっているのか見当も付きません」

「俺もだ」

「色んな封印、付けてる」

「終わりましたよー」

色んな種類の封印を他の封印と絡ませながら施して行く事で、只でさえ難しい封印の解除をより難しくしているのだと言う。思うに、封印の一つですら、人の子の技術では無理なんじゃないか?

「千年くらいは余裕で持ちそうだな」

「所がそうでも無いんですよ。私より強い龍でしたら力で破壊出来てしまいますしね」

「例えばネーヴェとか?」

「はい。姉なら百年、ネーヴェちゃんなら一瞬で破壊出来ますよ」

「私だって一瞬はむり」

「時間操作で一瞬に出来ますでしょう?」

「その手があるか」

「そのような方々に知られないよう努めてまいります」

是非頼む。

 来た道を戻って謁見の間に着くと、テーブルに食事が用意されていた。もう飯の時間なのか…。リュネとネーヴェの席もあり、何時でも始められる感じに整っていた。

「テーブルマナーには明るく無いんだがなぁ」

「気にする事はありません。カケル様が法であらせられます」

「俺がスプーン落としたら皆が落とすのか?止めてくれよ」

食事は恙無く食べられた。食べたい物を食べたいだけ取り分けてくれる方式だったので、ネーヴェは茹でた薄切り肉にソース掛けたのばっかり食べていたよ。
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