895 / 1,519
濃いめで
しおりを挟む門から橋の袂迄約五キロ。皆が歩くので俺も歩いて付いて行く。お喋りしながら街道を行く女子達の後を付いてくのは世が世なら事案物だが、許可を得ているので問題無い。辺りの野獣も草食でこっちに寄って来ないし、何とも平和なハイキングとなった。
「着いたー」「おっきーねー」「水あるよ!」「ん」
…五キロを休憩無しに歩き切るのはどうなんだろう?現地民は少女であっても健脚である。皮鎧の中を汗でビタビタにした俺は、《洗浄》して火照りと塩味を洗い流し、空に浮かんで体を休める。
「カケル、おつかれ?」
「大丈夫だ、問題無い。水飲むなら言ってくれー」
「「はーい」」「飲むー」「ん」
道から外れた濠の脇に雑木シートを敷いて、低いテーブルを出し、コップに水を注いでやる。
「カケル、これ」
ネーヴェが出したのは以前こっそり持ってった箱入りの黒糖だ。混ぜて飲むつもりだろうか?
「黒糖水を作れば良いのか?」
「ん、濃いめで」「あ、私もー」「お願いします」「ありがとう、ネーヴェちゃん」
たっぷり入れて、掻き混ぜて、甘くなった茶色い水をキャッキャしながら飲んでいる。元気だなぁ。
「ねぇねぇネーヴェちゃん、この池って、お魚とかいないの?」
「さあ?カケルー」
ティータの質問がネーヴェ経由で俺に来る。
「居ないよ。雪と雨水を溜めた濠だから、染み込む以外に水の出入りは無いんだ」
「なんだぁ、お魚とか取れれば食べたり売ったり出来そうなのになー」
「漁業になるかは置いといて、濠の中に湧いた虫を食べてくれる者は必要だな。ミズゲルでも入れとくか?」
「ミズゲル?」「アイスゲルの仲間ですか?」「アイスゲル、雪の季節にしか見ないよ?」
「俺はまだ見た事無いんだがな」
ティータ曰く、もっと寒い、吹雪になるような時期にならないとアイスゲルは現れないのだと。客の冒険者に拠ると、硬く凍った体を割って、核を取って五ヤンぽっち。そこそこ重い体を持ち帰っても一匹分で五十ヤン。新米にはやり切れないし、中堅からは金にならんので手を出すのは無駄と言われているそうな。
「魚なら、ヒラウオとかでも良いのかな?あれ沼で養殖してるみたいだけど」
「分かんない。お母さんに聞いてみるね」
宿では干物を仕入れているので、加工迄出来れば安上がりなのかも知れないな。
「カケルー、ごはーん」
俺はご飯じゃ無い。魚の話で腹が減ったのだろう。ネーヴェが浮いてる俺に乗っかって飯を集る。肉はある。ソーサーは無いがマタル粉はある。塩、調味料もあるな。鉄板に焼き用煉瓦板を出して、マットの横に置いてやると、薄切り肉を盛った皿を攫って勝手に焼き出した。
「ソーサーも焼こうぜ?」
「あ、カケル様。私焼きまーす」「私もー」
少女達がマタル粉を練って生地にして、形を整え焼いて行く。
「皆上手いモンだな」
「ソーサーが焼けないとお嫁に行けないって、お母さんが」
「カケル様に美味しいの食べてもらいたいもんね」「ねー」
良い子達だ。ネーヴェからの賜り物と、女子の手作りソーサーを食べて腹を満たす。そんな折、橋を渡る騎ゾーイが二頭、街道を横切って行った。
「あれ、兵隊さんよね」
「何か用なのかな?」
地もピーでも分かる、国の兵隊。同じ規格の装備をしてればそりゃあ分かるか。
「ダンジョンに潜ってお宝ゲットしたいそうだよ」
「カケルさん、二人で潜って大丈夫なの?」
「まあ、ダメだろうな。人数もだが、実力が足りてない。もしかしたら準備に来ただけの三下かも知れん」
食休みをたっぷり取って、再び来た道を歩いて帰る。途中、女子達がトイレしたいと言うので簡易トイレ作ってやった。水の棒が絶賛されたよ。
そんなこんなで一オコン半。街に戻るとギルドが少し騒がしかった。まあ、予想は出来る。《感知》にも引っ掛かってるからな。だが一先ず樵に移動しよう。ティータは夕方の仕事があるのだ。
0
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる