828 / 1,519
協力しろ
しおりを挟む俺は今、窓の無い、石畳と鉄格子の小部屋に押し込められている。
椅子の後ろから現れた魔法陣に乗って、行き着いた先はダンジョンの入口だったのだ。直前迄エッチしてたから勿論全裸だ。朝日を浴びてそそり立つ姿はさぞ神々しかったであろう。衛兵と冒険者の注目を集め、俺は無事豚箱送りとなった。
で、尋問されて今此処。軽く仮眠してると、幾つかの気配が此方に向かって来るのが分かった。
「カケル様!」
「ん?ああ、ヤーンか。暫く振りだな」
鉄格子に駆け寄って来たヤーン。十本槍を代表して来たのだそうで、保釈金も払ってくれたのだと。
「カケル、お前の釈放に俺達も協力したんだ。お前も協力してくれるよな?」
ヤーンの後ろで立っていた男が何やら協力しろと抜かしよる。
「誰だ?」
「ギルマスだよ。見た事無かったかい?」
「無いな」
「話は俺の部屋でしようや」
「仕方無いな。一度家に帰ってからにしたかったが」
「そう言ってトンズラこかれると困るんだがな」
「後三日は居られるし、まぁ良いだろう」
体をキレイに《洗浄》し、《収納》から直接服や装備を身に着けてると衛兵とギルマスが驚いて警戒した。大人しくしてたんだがら今更警戒されてもなぁ。
取り敢えずギルマスに付いてって牢屋を出て、ギルドに向かう。ヤーンも一緒だ。
机と椅子と、ソファーセットしか無い、シンプルなギルマス室に着くと、ギルマスは机にドカりと尻を付けて脚を組む。
「まあ好きに座れや」
「ヤーン、お茶淹れてくれ」
「え、ああ。あいよ」
鉄板やら薬缶やら、お茶セットを出して湯を沸かしてもらってる内に、ギルマスの話を聞いてやろう。
協力とは、単純にダンジョンの奥がどうなってるかの情報が欲しいのだと。貴重な情報が端金程度の保釈金で手に入れられるってんなら大儲けだよな。
「保釈金、返すからお釣りくれよ」
「あ?払えんのか?」
「幾らよ?」
「四百万ヤンだ」
「トカゲの魔石と同じか」
けっ、ボりやがって。ニヤニヤドヤ顔のギルマスに、トカゲの魔石を投げてやると、泡食ったギルマスは机に仰向けになって魔石を抱き締めた。
「足りたろ?」
「この…」
「イキんなよ。別に隠したい訳でも金が欲しい訳でも無い。奥に行くと単純に儲けが出ないから教えてやる必要を感じないだけだ」
「コイツは、この魔石はダンジョンドロップだろうが」
「レッサードラゴン、殺れんの?」
ギルマスは黙ってしまった。ヤーンが淹れてくれたお茶を啜る。美味い。
「ヤーン達が最強だとは思わんが、十本槍が行ける階層が、今ギルドが行ける最奥だろう。欲張り過ぎると人死が出るぞ?」
「い、行くかどうかは俺が決める!」
「それをお前が表に出すと、馬鹿が潜ってダンジョンに食われるんだが?」
「教える気は無ぇってか」
「知る意味が無いんだ」
「ね、ねえ、カケル様。馬鹿でも帰って来られる場所迄なら、教えても良いんじゃ無いかい?」
平行線に一石を投じるヤーンだが、途中を教えると必ずその先が気になる物なんじゃないのか?冒険者って。
「…十本槍の最深層は知ってるか?」
「ぁあ?確か…、四十階のエリアボス迄、だったよな」
「そうだよ。そこから先は私達には荷が重いよ」
「ヤーン、理由も教えてやれ」
「一つ目は魔力を温存するにはキツ過ぎる事。二つ目は、持ち物が嵩張る事だね。人数を増やしたら頭割りで旨味が無くなっちまう。それにさ、潜り続けるならダンジョンの中で寝なきゃいけない。二十一階から行って帰って寝泊まり出来る限界が四十階なのさ」
「そりゃあ、お前等が女だからだろ」
「そりゃそうだろ。男だけなら通路で雑魚寝も良いけどなー、日付けが変わると湧いて出るぞ?」
「幾ら払えば流してくれんだ!?」
魔石を机に叩き付けてギルマスが喚く。
「取り敢えず五十階のボス倒せ。で、そこから先に潜れるかを考えろ。敵は変わり映えしないから金なんて要らん」
お茶セットを片付けて、ヤーンと共に外に出た。名乗りもしない奴と仕事なんて出来んよ。
0
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ダンジョンの戦闘配信? いやいや魔獣達のための癒しスローライフ配信です!!
ありぽん
ファンタジー
はぁ、一体この能力は何なんだ。
こんな役に立たないんじゃ、そりゃあパーティーから追放されるよな。
ん? 何だお前、自ら寄ってくるなんて、変わった魔獣だな。
って、おいお前! ずいぶん疲れてるじゃないか!?
だけど俺の能力じゃ……。
え? 何だ!? まさか!?
そうか、俺のこの力はそういうことだったのか。これなら!!
ダンジョンでは戦闘の配信ばかり。別に悪いことじゃいけけれど、だけど戦闘後の魔獣達は?
魔獣達だって人同様疲れるんだ。
だから俺は、授かったこの力を使って戦闘後の魔獣達を。いやいや共に暮らしている魔獣達が、まったりゆっくり暮らせるように、魔獣専用もふもふスローライフ配信を始めよう!!
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる